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ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ  作者: 山田マイク
『ヤンキー昔ばなし』
23/41

28 『三年寝太郎』


 あ、すいません。


 えーっと、ダイゴさんのお友達の方ですか?


 ああ、よかった。

 私、今日はダイゴさんの代理で参りました。


 マドカの母でございます。


 はい、そうです。

 ダイゴさん、何でも「四国のチュパカブラ」を探しに徳島に行っているみたいで。


 はい。

 ダイゴさんにはいつもマドカがお世話になっておりますので。


 今日は私が代わりに童話を一つ、お話させていただきます。


 昔々、あるところにですね。

 三年寝太郎という青年が住んでいたそうです。

 寝太郎はとても怠け者で、村の人間から忌み嫌われていました。

 

 しかし、数年後のことです。

 この村に、大洪水が襲ったんです。


 すると、それまで怠けていた寝太郎が急に起きだして、命を賭けて洪水を止め、村を救ったんです。

 それから、寝太郎さんは村人から尊敬されるようになったんですって。


 私、この話を聞くと、いつもダイゴさんのことを思い出すんです。

 ほら、ダイゴさんって、一見ちょっと怖いじゃないですか。


 だから、皆に誤解されてると思うんですよね。

 本当は、とても心の優しい青年なのに。


 マドカがあんなにも懐くなんて、よっぽどだと思うんです。

 あの子、そんなに懐く子じゃないですから。


 え?

 価値観が似ているんじゃないかって?


 いやいや。

 ダイゴさんはもう立派な社会人ですから。


 でも……ふふ。

 あの方は、子供相手にもいつも真剣で、対等にお話なさってますよね。


 うん。

 私もそう思います。

 きっと、それがあの人の魅力なんですよね。


 ……え?

 ダイゴさん、マドカのこと“童話の師匠”って呼んでるんですか?


 あっはは。

 そうなんですか。


 なんだか、それって、すごくダイゴさんらしいですね。

 でもほんと――なんていうか。

 ダイゴさんって……


 ……。

 …………。


 ……ごめんなさい。

 

 ちょっと、泣けてきちゃって。

 こんな公衆の面前で――お恥ずかしい。


 なんていうか、その、今さらなんですけど。

 ダイゴさんってありがたいなあ、とか思っちゃって。

 そう思うと、涙が出ちゃいました。


 あ、わけわかんないですよね。

 ごめんなさい。


 ……実を言うとですね。

 マドカには父親がいないんです。


 はい。

 私たち夫婦、数年前に別れてしまいまして。

 お恥ずかしい話なんですけれど。


 実は、ですね。

 マドカが『童話』を好きになったきっかけって、あの子の父親の影響なんです。


 あの人、夫としては最低でしたけど、父親としては結構良いお父さんで。

 会社から疲れて帰って来ても、いつもマドカの話す童話を聞いてあげていたんです。


「マドカはたくさん昔ばなしを知っていて頭がいいなあ。将来は学者さんか、それとも作家さんかな」


 聞き終わると、いつもそんな風に言って。

 毎日毎日、誇らしげにおだててました。


 ……親バカなんですけどね。

 あの子にとっては、良い父親でした。


 マドカの方も、それがとても嬉しいらしくって。

 父親に褒められたい一心で、どんどん童話を覚えていったんです。


 でも。

 私たち夫婦が別れてしまって。

 あの子、それから童話を一切話さなくなったんです。


 私はとても悲しくなりました。

 そして、すごく申し訳なく思いました。

 マドカは明るく振舞っていましたが、やはり以前と違うんだなって。

 

 そんなある日のことです。

 マドカが迷子になって、交番で保護されてるって幼稚園の先生から連絡が来たんです。


 私が慌てて迎えに行くと、保護してくれた方はもう帰っていました。

 マドカは人見知りですから、きっと泣きべそかいてるだろうなと思ったんです。


 そしたらあの子、すごく楽しそうに笑ってたんです。

 私、驚いちゃって。

 どうしたの? って聞くと、あの子は嬉しそうに「お友達が出来たの」って言ったんです。


 そして、その日から。

 マドカはまた、童話のことを話すようになりました。


 私も最初は不思議だったんですけど――

 その理由はすぐに分かりました。

 その「新しいお友達」のおかげだって。


 ふふ。

 ええ、そうです。

 そのお友達とは――ダイゴさんだったんです。


 どうやら、その時にマドカを保護してくれたのが彼だったみたいで。

 交番に着くまで、二人でずっと昔ばなしの話をしていたそうなんです。


 マドカは、多分すっごく嬉しかったんだと思います。

 また童話を話して、褒めてくれる人が出来たから。


 「今日はダイゴにこんな話をしてあげたの」

 「ダイゴはあんな話が好きなの」


 家ではいつもそんな風に話してますよ。


 ……私、その様子を見てて、思ったんです。

 ダイゴさん、きっと良いパパになるって。

 マドカも、ダイゴさんがパパならきっと認めてくれるだろうなあって。


 ……え?

 私がダイゴさんを狙ってるのかって?


 あはは。

 まさか。

 ダイゴさんには彼女さんがいらっしゃるらしいじゃないですか。


 私は、絶対人の彼氏を取るなんてことしませんよ。

 それをされた人の悲しみは、誰よりも私が知ってますから。



 ただ――













 もしもダイゴさんと彼女さんが別れたら、まず最初に私に連絡してくださいね。



 ……え?

 目が怖い?


 あはは。

 なんてね。

 冗談ですよ、冗談。


 ……でも、念のためにラインは交換しておきましょうか。



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