26 『七夕物語』
やあ。
こんにちは。
今日も来てしまったよ。
私だ。
ダイゴの父親だ。
え?
今日はまたダイゴがどこかへ出かけたのかって。
はっは。
いやいや。
今日はね。
私の意志で来させてもらったよ。
ああそうだ。
どうしても、君のことを思い出してしまってね。
ん?
なんだい?
その嫌そうな顔は。
その、蔑んだ目は!
全く君は本当に失礼な奴だな。
その無礼な顔――
やっぱり素晴らしいじゃないか!
もっと見てくれたまえ!
ゴミクズのようなこの私を!
そのゴキブリを見るような目で!
たっぷり見てくれたまえ!
……すまない。
ついつい、いつもの癖が。
しかし思った通り、これはSの才能がありそうだ。
この私としたことが、つい興奮してズボンを下ろしてしまったよ……。
この人、やはり伝説のSの血を継ぐ者では――。
……ああ、すまない。
こちらの話だ。
それじゃ、早速始めようか。
昔々、天空に彦星と織姫という若いカップルがいたんだ。
二人はとても愛し合っていてね。
お互い、天の仕事を放っぽいて、いつも隠れて逢引きしていたんだ。
すると、それを見ていた天帝様がお怒りになってね。
二人を引き離してしまったんだ。
二人はそれはそれは悲しんでしまってね。
いよいよ仕事が手につかない。
それを見かねた天帝様は、年に一度だけ、七夕の日だけ二人を合わせてあげることにしたんだ。
私はね。
この話を聞いたとき、思ったんだ。
天帝様は――
絶対素晴らしい女王様になれるってね!
だってそうだろう!
一年もの間、焦らされる者の気分を考えてみたまえ!
焦らしプレイというのはSMの基本だ。
だが、普通は5分とか10分とか、長くても一時間くらいだ。
それが天帝様と来たら――
一年も待たせるんだよ!
なんというSだ!
最低で、最高の女王様じゃないか!
それはもうたまらないよ!
もう2度と会えないわけじゃない、というのがポイント高いよ!
……ごほん。
ああ、すまない。
またぞろ、興奮してしまったよ。
とにかく、織姫と彦星はそうやって逢瀬を重ねて、永く永く愛し合ったそうだよ。
本当に、めでたしめでたしだったよう――ん?
なんだね、君たちは?
私になにか用かね?
な、なんだ。
やめたまえ。
なにをするんだ。
無礼者!
話があるなら先に名乗りなさい!
それが大人というものでしょうが!
え?
話は署で聞く?
さっき、この店の店員から露出魔がいると通報があった?
はっは。
なるほどなるほど。
そういうことですか。
私としたことが。
話に夢中で、ついつい、ズボンをあげるのを忘れてしまっていたよ。
やあやあ、悪いね。
それじゃあ、私は用事が出来たのでこの辺で失礼するよ。
え?
大丈夫なのかって?
ああ、心配はいらないよ。
このくらい、いつものことだからね。
それじゃ、ダイゴには君の方からよろしく伝えておいてくれたまえ。




