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ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ  作者: 山田マイク
『ヤンキー昔ばなし』
17/41

20 『すっぱいぶどう』


 うーっす。

 わっり、ちょっと遅れちまったよ。


 いやー実はよー。

 さっき地元の食堂で飯食ってたらよ。

 いきなりテレビのロケがやってきたのよ。


 でよ。

 すんげー太ったオーバーオール着たおっさんがその店のレポートし始めて。


 これがまた美味そうに飯食うのよ。

 俺ぁその食いっぷりに惚れちまってよ。

 ついつい――


 そのロケに参加しちまったよ。


 おっさんも俺のこと、すんげー気に入ってくれてよ。

 すっかり仲良くなっちまった。

 おかげでロケは大成功よ。


 ……ただよ。

 そのおっさん、ちょっと言葉を間違って覚えてるみたいでよ。

 ずっと「美味い」を「まいうー」って間違えてるのよ。


 俺ぁ「それ逆から読んでるぜ」って何度も訂正したんだけどよ。

 結局、最後まで治らなかったぜ。


 まあよ、人には口癖ってもんがあるからな。

 俺もよ、コンビニでついついレジ横にある月餅まんじゅう買っちまうのよ。

 癖ってのはなかなか抜けねえな。

 

 うし、じゃあ早速今日も始めっか。


 すんげー昔の話よ。

 昔、あるところに狐が住んでたのよ。


 でよ。

 この狐、手が届かないとこにあるブドウが食いたくてたまらないワケ。

 でも、結局どうやっても取れなかったんだよ。


 でよ。

 取れないとわかると、急に狐は態度を変えるわけよ。


「どうせあのブドウは酸っぱいに違いない。あんなもの、最初からほしくもなんともなかった」


 ってよ。


 この話を聞いてよ、俺は一人の男を思い出したのよ。

 仕事の後輩のシンジって奴よ。


 なかなかのイケメン君でよ。

 よく働く、真面目な男なのよ。


 で、このシンジ。

 実は無類のアニメ好きでよ。

 漫画とかそういうのが大好きなわけよ。


 もう死ぬほどそういうの愛してんの。

 よく分かんねーけど、オタクっつーのかな。


 で、シンジはコミケってのに行くのを生きがいにしてるのよ。

 目を輝かせながら「楽しみっす!」ってことあるごとに俺に言ってたワケ。


 でもよ。

 コミケまであと数日ってとこでよ。

 急に大きい仕事が入ってよ。


 休みを取ってたはずのシンジまで狩りだされちまったのよ。

 当然、あいつはコミケに行けなくなった。


 すげー落ち込むと思ってたけどよ、口をとがらせてこういうわけよ。


「いや、別にいいんすよ。今年のコミケは大したことなさそうっすから。つーか、実は俺、最初からそんなに行きたくなかったっすから」


 そう言ってよ、いつも通り暮らしてたワケ。

 まさに酸っぱいぶどうの狐だぜ。


 でもよ。

 やっぱりこういう強がりはよくねえぜ。


 というのもよ、この後にこんなことがあったのよ。


 ある日の仕事終わり。

 俺ぁロッカーで泣いてるシンジを見つけたのよ。


 声をかけるとよ、あいつは号泣してしゃくり上げながらこう言ったよ。


「先……輩、俺……本当はコミケに行きたい……っす。死ぬ、ほ……ど、楽しみに、してたん……す」


 もうひくほど泣いてんのよ。

 涙と鼻水垂れ流してよ。

 二十歳超えた男がガチ泣きしてんわけ。


 俺ぁ思ったよ。

 男がここまで泣いてんだ。

 こいつをコミケに行かせてやりてーって。


 だから親方に土下座してよ。

 一日だけ、奴に休日をやってくださいって頼み込んだよ。

 その代わり、自分が2倍、いや、3倍働きますって。


 親方はよ、厳しいけど優しい人なのよ。

 俺が30分頭を下げ続けると、しょうがねえっつって、休みをくれたよ。


 んで、無事にシンジはコミケに行けたってワケ。


 その時のシンジの幸せそうな顔を見てっとよ、こっちも嬉しくなっちまったぜ。

 夢中になれるもんがあるってな、素敵なこったな。


 でもよ。

 狐みてーにあのまま拗ねてたらよ、シンジはコミケに行けてねーぜ。

 やっぱ、好きなものは好きって正直に口に出すことは大事だぜ。


 でよ。

 あいつは律義な奴でよ。

 世話になったからっつって、コミケで買って来たものの中から一冊、俺に分けてくれたのよ。


 いや、俺ぁすげードキドキしたよ。

 コミケがどういうとこかはシンジから聞いてたからよ。


 なんでも、エロい本が山ほどあるらしいじゃねーか。

 あそこは欲望の坩堝るつぼだって聞いてるぜ。


 ってことでよ。

 俺ぁ家に帰ってよ、ワクワクしながらその本を取り出してみたワケ。


 いや、たしかにエロかった。

 ここじゃ口に出せねーほどエロいことやってた。

 でもよ……


 なぜか絡んでんのが男同士なのよ。


 なんでだよ!

 なんで男なんだよ!

 これがコミケのやり方かよ!


 俺ぁ下ろしてたズボンを上げてよ。

 ユミんとこいって、聞いてみたのよ。


 そしたらあいつ、「あっ……ふーん」つって何かを察したような顔になってよ。

 半笑いで俺からその本を取り上げていったわけ。


 後で調べたらよ、コミケには普通のエロ本もあるみたいじゃねーか。

 どういうことなんだよ。

 ワケわかんねーよ。

 

 とにかく、結局俺ぁ、コミケのエロ本手に入らずよ。



 ……まぁ、別にいいけどよ。


 どうせコミケのエロ本なんて大したことねーだろうしよ!

 あーあ、そんなの最初からぜんっぜん、欲しくなくてよかったぜ!



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