第2話 恩寵(スキル)(3)
スキル「農夫」
ランクA
レベル1
「農夫」の効果
耕作物・開墾地への神の恩寵付与
耕作した土地の土性良化
耕作した土地の作物の収穫量上昇
耕作した土地の作物の病虫害耐性上昇
耕作した土地の作物の天候不良耐性上昇
「農夫」の補正
農家に必要なスキルの習得速度上昇
耕作速度の上昇
開墾速度の上昇
これが俺の持つスキル、「農夫」の詳細だ。
長々とステータス画面で見られる項目を挙げてみたが、これ……見たまんまやね……。
もしかしたらステータス画面を斜めや下から見たら隠しレアスキルが見えるかと思ったが、そんなことはなかった。
頭を傾げようが視線をずらそうが、たとえブリッジしてみてもステータス画面は常に視線の正面に固定されていた。
何かないかとメニューを片っ端から調べてみたりもしたが、当たり前のごとく何もなかった。
そりゃそうだ。
女神からステータスの使用方法なんかを知識として植え付けてもらったのだから、頭でこれ以上ないと答えが出ていれば、その通りなのである。
もしあったら女神のミスだ。
それこそクレームだ。いや、一週間経っていないからクーリング・オフだ。
謝罪だ! 弁償だ! 精神的慰謝料を要求する!
俺も「勇者」や「聖騎士」や「魔術師」になりたい!
スキルを「勇者」にしろ!
でも、「農夫」なんだよなあ……。
がっくりくる。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「なあ、箕作。お前、とんでもないスキル引いたんだってな?」
「はあ?」
ニヤニヤしながら俺をからかってきたのは吉田。吉田克之だ。
俺達は神殿の離れにある一室にいる。
「あのなあ、ここにいる時点で吉田もたいしたスキルじゃないだろ」
「まあ、そりゃそうだ。ハハハ……」
吉田が渇いた笑い声を尻つぼみにこぼす。
そうなのだ。俺をからかってきた吉田も大したスキルは持っていない。
俺がスキルを開示して、みんなから非難轟轟の嵐の中にぶち込まれて落ち込んでいた後も、スキルの確認は続いた。
はじめは武術スキルや格闘スキルが出ていたが、しばらくすると同じスキルでもランクがDとかEなどの、低ランクのスキル持ちが出てきた。
DとかEではとても「魔王打倒」などというクエストには参加が難しいはずだ。
それでも訓練すればランクは上がっていくのだからと、それぞれ励ましあっていたのだが……。
何かがおかしい。
クエストをクリアするために必要なスキルでもランクが低すぎないか?
俺達は女神から望まれてクエストをクリアするはずだろ?
こんな低ランクなんて……。
そうみんなが感じた頃である。
悲劇は起きた。
もちろん俺にとっては喜劇だがな♪
――やっぱりボッチにはああいうのがお似合いだよね。
そう陰口をたたいていた女の子のスキルは「家政婦」だった。
つまりメイド。
ぷぷー。メイドって~、魔王とどうやって戦うの~?
メイド服に変身してお仕置きするんですか~?
それともお屋敷の人間関係をのぞき見して殺人事件を解決するんですか~?
思わず笑ってしまう。
思うことはみんな一緒であったらしい。
どっと笑いが起きたかと思うと彼女は床に突っ伏し号泣。
誰かが慰めようと肩に手をやったとたんに神殿を飛び出した。
仲良しグループが引き止めるが、それでも止まることなく暴れまわる。
最後は勇者が押さえつけて魔術師が催眠の魔法をかけていた。
きっといまも友達に囲まれて寝込んでいることだろう。
いや、すばらしい喜劇を見せていただいた。ありがとう!
そのほかにも「吟遊詩人」や「竪琴師」、「踊り子」といった芸能系や「商人」、「鍛冶師」、「執事」といった職業系、果ては「星詠み人」などという訳のわからないスキルも出てきた。
クエストをクリアしろと恩寵を与えたはずなのに、なぜこんなスキルがあるのか。
女神の考えていることはわからない。
ちなみに俺の隣で胡坐をかいている吉田は「商人」。
こいつも「魔王打倒」には全く役に立ちそうもないスキル持ちだ。
まあ、俺も吉田も、お互い様だからこそ、こんな減らず口を叩けているのかもしれないが……。
――しかし、大変なのはこいつらだよなあ……。
俺は部屋の一角に押し込められている三人を見つめながら思う。
部屋の半分ほどから奥の、四方の隅に刻まれた魔術刻印。
魔術師スキルを持たない俺には何が書いてあるのか皆目わからないが、この刻印に囲まれた方形内にいる者は、たとえ誰であっても術者の許可がなければ、そこから出ることが出来ないそうだ。
いわゆる魔方陣による結界と言うヤツ。
この魔法を行ったのは細井君。
さすがは異世界転生を果たしたクラスの希望の星、「魔王打倒」パーティーの魔術師様だ。
ありがたいね。細井君には感謝しても感謝しきれないよ。
だから俺達はこうして三人に相対していられるのだ。
凶悪なスキルを持っている咎人スキル持ちに……。