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第1話 女神(アンプタバエナ)(3)

 神殿内は非難轟轟、野次の嵐になっている。


 当たり前だ。

 いきなりあんな変なことを言われて、はい、わかりました。頑張ります。なんて言うわけない。


 別の世界に召喚された?

 この世界で生を全うしろ?


 ってことは、異世界に召喚されて、この世界で生きていけってことだよな?

 元の世界に戻れないってことだよな?


 納得するなんて無理に決まってる。


「テメー! なに勝手なこと言ってんだよ!」

「そうだ! さっさと俺達を元の世界に戻せ!」

「だいたい、ちっこいくせに偉そうなんだよ! 責任者を出せよ、バーカ」

「やった! やっぱり異世界転移だ、やったよ!」


 なんか一人おかしな方向に叫んでいる奴もいるがそいつは無視しておけ。


「く! 貴様ら、神の使徒に対して何という態度、暴言! なんと不埒な者共! 神の御加護を受けられなくともよいのか!」


 ラファエルはみんなの文句に気圧されてあたふたしている。


 ふははは! ラファエルさんとやら、インターネットとかスマートフォンなんかの現代科学にどっぷり浸かった俺達を甘く見てはいけない。


 バレンタインはチョコの促販に、クリスマスは男女が乳繰り合う理由づけのイベントに堕落した。

 本来、秋の収穫祭であるハロウィンは、コスプレ祭りというかフリー○っぱいとかいう破廉恥行為の免罪符になっているんだぞ。


 だいたい人生のハイライトと言える結婚式は似非クリスチャン神父の前で互いの愛を確認し、お葬式は昔からの檀家だからとお寺でと、宗教的背景を無視して都合よく利用する我ら日本人である。


 そんなことが当たり前になっている、信仰心なんて欠片もない社会で育ってきた俺達に、いくら目の前に神様を降臨させようと、たいした威力はない。

 ましてマヨネーズのマスコットみたいな天使では……。


 要は、俺達に神の威厳など何の役にも立たないってことだ。

 ついでに言うと、こうやってごねれば何某かのメリットも得られるんじゃないか? っていう打算もあると思う。


「ラファエル。やはり、あなたでは難しかったようですよお?」

「神! そ、そのようなことはありませぬ。ここからキッチリとこの者共に神の子としての生き方を授けますゆえ」

「いえいえ、もう無理ですよ。フフ……者等ものらからは、あなたへの信仰心は欠片も感じられませんもの♪」

「まさか! そのようなことは……!」


 ニヤニヤしながら女神が天使をからかっている。

 女神さま、口元をいくら手で押さえてみても、そのにやけた笑顔は隠しきれていないぞ。

 絶対、面白がっている。


 なんか女神と天使のやり取りを見ていると神様っていう気がしなくなるよ。


 しかし、このままじゃ何も話が進まないだろうなあ。と思っていると大音響が響いた。


「黙れ、外界げかいの子らよ! 神の御前みまえでこれ以上、聞くに堪えない物言いを続けるでない!」


 幼女の声が聞こえたかと思うと、俺を含めて全員がその場に倒れた。


 頭を内部からブッ叩かれたような感覚。

 痛みはないが強烈な車酔いをしたような感覚に襲われ、たまらず這いつくばる。


 地面が揺れるように感じ、立とうとしても力が入らない。というか……吐きそう。

 その間も大音響のように感じたその声は耳からではなく頭の中に直接届いてくる。


「そなたらの御霊みたまは元いた外界から創造神アンプタバエナが統べるこの世界に移っている。元の外界に戻るなどという創造神のお手を煩わすようなことは出来ぬ! 御前におわす神、アンプタバエナの子となりこの世界で生きるしかないことを得心せよ。どうしても神の子にならぬというならそのまま消えてしまえばいいのだ」


――す、すいません……っていうか、うるさくしたのは俺じゃないから……だから……ヤバイ吐く。


「あら、エレレート。そのようにきつく言ってはいけませんよ?」


 女神は小さい女の子の格好をした天使に軽く咎めるように言う。


 女神さま……俺達、キョーレツな船酔いみたいのに苦しんでいるので……その子にもう少しきつめに言ってもらえませんか……?


「外界の子らも、そろそろ分かったはずですから、その程度にしてあげなさい。ね?」

「しかし、女神よ……」

「ほらほら、さっさとしなさいってば」

「むう、神がそのように仰せられるなら……」


 小さい女の子――エレレートと呼ばれた天使が俺達にかざした手を振り下ろすと車酔いに似た不快感がすっと消える。


「創造神アンプタバエナの御前である! 粗相をするでない」


 ラファエルに促されてクラスメートたちがうめき声を上げながら、よろよろと身体を起こす。

 俺も喉元まで迫ってきた朝食を胃袋に押し返して胡坐をかいた。


「私が神であることを理解していただけましたか?」


 女神がみんなを見回して聞いてきた。

 相変わらず、にっこりとしている女神に誰も答えることはできない。反論したら、どんなことをされるかわからないから。いや、反論する気が失せたという方が正しいか。


「では、私のお話しを聞いてくださいね?」


 パン。と両手を合わせて首をかしげてくる女神に、みんなの視線が集中する。

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