表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十二章
98/149

5 強気な理由

 ディーオとニアに対して、魔物女性たちはざっと三十人以上。十倍を優に超える数に囲まれているにもかかわらず、二人は焦った様子も見せることはなかった。

 そんなディーオたちの態度に圧倒的に有利であるはずの魔物女性たちが訝しげな顔つきになっていく。


「なぜ、そこまで堂々としていられる?自分たちの置かれている状況が分からない訳ではないだろう」


 そして余裕を見せる姿に耐え切れなくなったのか、ついにはそんなことを尋ねてしまう程であった。

 その問いに対する反応はというと、ディーオとニアでは正反対とも言えるほどに異なっていた。まずニアは、その意見に同意するように納得顔で何度も頷いていた。その一方で、ディーオはニヤリと小さく笑っていたのだった。


「状況も何も、ただ単に大勢に周りを取り囲まれているというだけの話だろう。別に取り立てて怖がる必要もなければ、取り乱す必要も感じられないな」

「あのねえ……。わざわざ挑発するような物言いをしなくてもいいのよ」


 ディーオの台詞ににわかに色めき立つ魔物女性たちを見て、ニアが大きなため息をついていた。


「こういうのは、さっさとこちらのペースに引きずり込んでおくべきだぞ」

「その言い分は分からないではないけれど、一歩間違えれば交渉をする前から決裂してしまうことになるわよ。もう少し慎重に言葉を選んでもらいたいところだわ」

「前向きに検討しておくよ」


 改善するつもりが全くないことを明言するその様子に、処置なしと両手を上げるニア。そんな二人の暢気なやり取りに対して、〈障壁〉による透明な壁を一枚隔てた向こう側ではピリピリとした空気が張り詰め始めていた。


「あなたたち……、これだけの数に違いがある私たちに勝てるつもりなのかしら?」

「もちろんだ。むしろ数だけ揃えれば勝てると思い込んでいるそちらの考えに驚いているんだが?」


 ハーピー女性の売り言葉を言い値で買い取ると、ディーオはその場で熨斗を付けて突き返す。

 瞬間、魔物女性たちの怒気が一気に膨れ上がる。


「子どもたちを無傷で返してくれたことへの感謝もあるので、できる限り穏便に接してきたつもりでしたが……。仕方ありません。力の差を見せつければ大人しくなってくれるでしょう」


 ニッコリ笑顔で物騒なことを口にするアラクネ女性。丁寧な口調とは裏腹に怒り心頭になっているようである。

 そんな向こうの言い分を聞いたディーオたちは、「最初から戦力差を見せつけるように大勢で取り囲んでおいて、穏便とはこれ如何(いか)に?」という気分になっていたのだった。まあ、問答無用で攻撃せずに対話を行うということ自体が、魔物女性たちにとっては穏便ということなのだろう。


「どう言い繕ったところで、あんたたちの望みはこの地で種馬代わりになれってことだろう。迷宮の最深部を目指している俺たちには頷く事はできない。邪魔するつもりなら無理矢理にでも押し通らせてもらう」

「今ここに居る私たちを倒しきれれば何とかなると思っているなら甘いわよ。私たちに何かあればすぐにでも村の者が総出でやって来る手はずになっているの。たった二人で数百の包囲を突破できるのかしらね?」


 くすくすと笑いながら自分たちの優位性をことさら強調していくハーピー女性。だがそれは、ディーオの言葉に翻弄されまいと必死に強がっているかのようにニアには感じられた。


「どれだけ群れようが攻撃できなければ同じだ」

「ふん。確かにこの壁は強固だが、いつまでもこんなものを張り続ける事などできはしないだろう。魔力が持つはずもない」


 仲間の不安感を消すためか、ラミア女性が冷静な態度でもって〈障壁〉結界の弱点を言い当てる。どうやら彼女たちはそれなりの観察眼と魔力を感じ取る力を有しているようだ。

 やはり『変異種』化した者たちは侮れないと、二人は用心の度合いを強くしたのだった。


「確かに、この壁は大量の魔力を必要とする。それは認める」


 『異界倉庫』に放り込まれていた特製の超高純度な蓄魔石を使用することが前提となっているのだから当然である。しかも連続使用時間が一日にも満たないのだから、とんでもない燃費の悪さだと言える。

 余談だが、実験の過程で何の触媒もなしにディーオの持つ魔力のみで行ってみたところ、起動だけで全ての魔力を持っていかれてしまい、魔力の枯渇で危うく死にかけるところだった。


「だけど、燃料ならいくらでもあるんだよ」


 アイテムボックスに見せかけた袋から次々と蓄魔石を取り出しては足下に転がしていく。ボロボロと止まることなく出てくるのを目の当たりにして、魔物女性たちは信じられないという表情で固まっていた。


 ちなみに、これらの蓄魔石はディーオたちの世界のものであるため、彼の足元に転がっている全てを用いても〈障壁〉結界を起動させようとするには魔力が足りないというのが真実である。

 が、そこまで詳しく教えるつもりもなく、ハッタリとしては十分以上の効果となっていたのだった。


「だ、だが!攻撃ができないのはそちらと手同じであろう!」


 一早く正気を取り戻してそう言い放ったのは、集団の一番のリーダー格であったラミア女性だった。その目の付け所の良さにこっそりと感心するニア。


 いわゆる防御魔法と呼ばれるものの性質として、どちらからの攻撃も受け付けないという点があるからだ。これは使用者が壁や盾、鎧といったものを思い浮かべるために、元となったものの性質が影響しているのではないかと推測されている。

 また魔力の節約のため、基本的にこうした魔法は攻撃を受ける短時間のみ発動させるものとなっていることも大きく関係していると言われている。

 つまり、こちらから攻撃に出る際には、既に防御魔法は消し去られているのである。


「改めて考えてみると、展開し続けているディーオの〈障壁〉結界ってとんでもなく常識外れね……。まあ、便利だから文句はないのだけれど」


 と追及を止めてしまう辺り、ニアも着実にディーオの非常識さに馴染んでしまったようである。そしてディーオはというと、ニアの呟きを聞きながら魔物女性たちに嘲るような笑みを向けていた。


「情報収集が足りないんじゃないか。俺たちは昨日、この壁を消すことなく子どもたちにパンを与え、そしてあの料理の入ったアイテムボックスを渡したんだぞ」

「なんですって!?」


 ディーオの言葉に女性たちの悲鳴じみた声が続く。どうやら本当に知らなかったようだ。子どもたちと打ち解けた後に〈障壁〉結界を消して、直接手渡しをしていたのだと思い込んでいたらしい。


「いくらあのちびっ子たちの警戒心が薄くて人懐っこいとはいえ、見ず知らずの相手と直接触れ合うような愚を犯すはずがないってことだよ」


 一見すると子どもたちを庇っているような台詞だが、実は昨日も今も一方的に攻撃することができると宣言しているのだ。言葉の裏側に隠された意味をしっかりと嗅ぎ取ることができた魔物女性たちは揃って青い顔になっていた。

 なにせ一番の優位点だと思っていたことがそのまま弱点へと早変わりしてしまったのだ。一方的に攻撃できるとなれば、人数の多さはたくさんの的があることと同義にしかならないのである。


 無用な被害を出さないようにするにはどうすれば良いのか?リーダー格の三人は懸命に頭を働かせていたが、衝撃の事実を突きつけられた直後ということもあって、有用な策など思い付くことができずにいたのだった。


「ディーオ」

「分かってる。仲間を生き残らせるために死ぬ気で向かってくるなんてことになったら面倒だ。もう少し時間を置いたところで交渉を持ちかけてみるつもりだ」

「上手くいくかしら?」

「そこは何とも言えないな。少なくとも聞く耳は持ってくれるだろうが……」


 自分たちへの恐怖心と友好度が、それぞれどのくらいの割合となるのかで答えは変わってくるのではないか。

 とりあえず魔物女性たちが意見を統一する時間を与えるべきだろうと、様子見に入ることにした。が、


「まずいな……。意見の統一どころか、落ち着くことすらできなくなってる」

「辛うじてパニックにはなっていないようだけど、このままだと遅かれ早かれ大騒ぎになってしまいそうよ」

「仕方ない。俺たち主導でさっさとケリをつけるとするか」


 後々のことを考えると、安易に文句が言えないように彼女たち自身で選択したという形にしておきたかったのだが、交渉の席に着いてくれないことにはお話にならない。

 ここは多少強引にでもこちらが主体になって進めていくべきだろう。


「さてと!そろそろ俺たちの話をさせてもらってもいいか!」


 パンパンと音が響き渡るように掌を打ち合わせた後、ディーオはそう声を張り上げた。先ほどまでとは異なり邪気の欠片もない笑みを浮かべていることに、魔物女性たちは困惑しているようだった。


「まず、俺たちには迷宮最深部へ向かうという絶対に譲れない目的がある。だから、あんたたちに血を提供する事はできない。その点は理解してくれ。だが、さっきも言ったように別のやり方でなら協力することができるかもしれない」

「我らから逃れるための口から出まかせではないのか?」

「あー、はっきり言って確実な根拠がある訳じゃない。出まかせよりは多少はマシ、くらいに思ってもらえるとありがたいかな」

「いきなり弱気になったわね……。確実な根拠もなく、あなたたちは何をしようというの?」


 曖昧であるがゆえに興味を引かれたのか、ハーピー女性が尋ねてくる。


「迷宮の主、ダンジョンマスターになる事ができれば、三十四階層(ここ)と低層の階層を入れ替えるような事もできるようになるらしい。そうすれば外部からの人間が出入りしやすくなるはずだ」

「ただ、ダンジョンマスター自体が噂話の域を出ないものだから、確実にどうこうできるというものでもないのよ。かなり博打な部分があるわ。伸るか反るかはしっかり話し合ってちょうだい」

「とは言っても、他の奴らも迷宮最深部を目指しているから、のんびり待ってはいられないんだけどな」


 そう前置きをしてから、ディーオは迷宮とマウズの町の関係や、支部長が中心となって推し進めている迷宮踏破計画について大雑把に説明を始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ