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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十二章

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3 魔物女性たちとの会話

 〈障壁〉越しに自分たちを取り囲んだ魔物たちを観察してみた結果、即座に襲われてしまうような緊迫した状況ではないことが判明していた。


「いい加減向こうも焦れてきているようだし、お話ししてみるとしますか」

「なんにせよ、そこからよね」


 観察していた時の様子から、代表者らしい者たちに当たりを付けて近付いて行く。


「あの子たちとも話はできたんだ、あんたたちも言葉は問題ないんだろう?」

「うむ。我々ならば人の言葉を扱うことができる」

「余程難解な問答でなければ問題ないでしょう」

「まあ、それが分かったのも今の今なのだけれどね」


 答えを返してきたのは当たりを付けていた三人だ。

 それぞれの種族の代表となるのか、ラミア、アラクネ、ハーピーの順に口を開いたのだった。三つの種族が合同で暮らしていくための知恵のようなものなのかもしれない。

 思えば、子どもたちのリーダーも種族ごとにいたような記憶がある。ある意味、村の伝統のようなものなのだろう。


「あんたたちがこうしてここに居るということは、ちびっ子たちは無事に帰りつけたと思っていいんだよな?」

「まずはそのことに感謝を。子どもたちに危害を加えないでいてくれてありがとう。あの子らの親を始め村の者一同、気が気ではなかったから」


 子どもたちの姿が見えた瞬間のことは、どんなに時が過ぎても忘れることができないだろうと彼女たちは感じていた。その様子にホッと安堵の息を吐くディーオとニアだった。


「帰ってくるの()無事だったわね」


 と一安心したのも束の間、そんな言葉の発せられた元へと視線を向けるとハーピーの女性が苦笑していた。


「そうだな。その後は無事といえるかどうか判断に迷うところだが……」


 言葉を引き継いだラミアの女性も微妙な表情だ。

 見るとその他の者たちも哀れみを含んだ何とも言えない顔をしていた。


「無断で出歩いて、しかも勝手に私たちと接触したからお仕置きされちゃったのかしら?」

「やっぱり分かってしまいますか」


 ニアの予想にアラクネの女性が尋ね返す。


「バラしてしまうなら、昨日、この辺りにまで子どもたちの悲鳴のようなものが聞こえてきていたんだよ」

「あらあら。なかなかに大きな声が出ていると思ったら、こんな場所にまで聞こえてしまっていたのね」


 やはりあの悲鳴は、大人たちから罰を受けていた時のものだったようだ。


「やり過ぎて怪我をしてはいないか?」


 一歩間違えれば子どもたちは皆殺しにされ、村の方も蹂躙されるといった憂き目に合っていたかもしれないのだ。叱る方が思わず手に力が入り過ぎてしまう可能性は十二分にあった。


「その点は心配いらない。やり過ぎてしまわないように私たちが監視していたからな」

「叱っていた親御さんたちも途中から泣いてしまっていましたからね。子どもたちもどちらかといえばそちらの方がショックだったようです」

「最後は私たちももらい泣きしちゃって大変だったわ」


 総数はそれなりの数になるとはいえ、そこはやはり全員身内のような間柄ということになるのだろう。

 何にせよ、子どもたちも無事なようで一安心である。


「ああ、ちなみに、子どもたちが泣き叫んだのは、あなたたちが差し入れてくれた料理を食べられなかったためだから」

「なんだって?」

「それも罰の一つということだ。お前たちにもらったパンがとても美味かったと話していてな。それなら、預かってきた土産は残る村の者たちだけで食べるということになったのだ」

「ああ。そういうことね」


 どこの誰かすら分からない相手から食べ物を貰い、あまつさえそれを無警戒に食べてしまったのだ。

 これもまた叱られるネタとしては十分な内容である。


「まあ、それも半分は建前で、長老様方が少しでも自分たちの取り分を増やそうと企んだ結果であろうがな」


 子どもたちに渡したのは屈めば大の大人ですらも入れてしまう程の巨大な鍋が二つだったが、数百人の村の者たち全員に振る舞う分としては少なかったらしい。

 結局、一人当たり椀一杯分にしかならなかったとのことだった。


「もう少し多く渡しておいた方が良かったか?」

「いや。ちょうど全員に配り終えることができるくらいの量だったからちょうど良かった」

「そうね。あれ以上あったとすれば、残りの取り合いで喧嘩が起きていたかもしれないもの」


 差し入れた食べ物を巡って魔物たちの村で争いが起きる。一瞬脳裏をよぎった光景にディーオたちは頬を引きつらせてしまった。


「ただ、我々でも確保できそうな食材がいくつか見え隠れしていたから、可能であれば調理法などを教えてもらえればという話も出ていた」


 どうやら、予想以上に地上(マウズ)の料理は気に入ってもらえたようである。

 ただし、問題が一つ。


「すまない。俺たちは料理を得手としてはいないんだ」


 そのやり方を全く知らないのだから、教えようがないのだった。


「そちらの彼女も?」

「ええ。料理をする暇があれば他のことにその時間を割きたい性分なの」


 しれっと研究者時代のことを答えるニア。


 余談だが、現在の彼女の心境を正確に表すならば、自分で食事を作るという必要性をさっぱり感じなくなってしまっている、ということになるだろうか。

 ディーオを始めとした冒険者たちが大量の迷宮産食材を市場に卸しているものだから、マウズの町は食べ物に関してはかなり裕福な状況にある。その沢山の食材を用いて多種多様な料理が作られ、新作料理の研究がなされているためか食の質もまた高くなってしまっていた。

 そんな中で日々過ごしていることが大いに影響してしまっているのであった。


「そうか。迷宮のこんな所までやって来るのだ。戦うことを義務づけられた戦士の系譜であればそういうこともあるだろう」


 そんなこととはつゆ知らないラミアの女性は、自分たちの知識や慣習に照らし合わせて、それなりの理由を思い付いたらしい。

 無理に訂正する必要もないだろうと放置する二人。要は自分たちが料理を作ることができないと伝わりさえすれば良いのだ。


「それに例え料理ができたとしても、レシピは基本的に非公開だからな。おおよそくらいなことしか伝える事はできなかっただろう」

「おや、そうなのか?」

「ああ。地上の、人間たちの街では料理を作って売るのは競合店が多いんだ」


 屋台から本格的な店を構えたものまで、多種多様にあることを教えていくディーオたち。


「極端な話、人間は数が増え過ぎているのよ。だからあなたたちのように村一丸で協力し合って生活することができなくなっている。そのくらいに考えてくれていれば良いわ」

「ふむ。そうか。まあ、我々の方にも人間の社会について詳しく学べる余裕などないのも確かだし、大きく間違っていないのであればそれで良い」

「そうね。あの料理が二度と食べることができないのは残念ではあるけれど……」

「言わないでください。食べれないとなると余計に欲しくなってきてしまうではありませんか」


 ニアの説明に一定の理解を示したものの、やはり美味しいものには未練たらたらなようである。

 そんな様子を見て、ディーオは「これならば上手く味方につけることができるのではないか?」と考えていた。


「あー、話しが前後して申し訳ないんだが、子どもたちから俺たちの目的については聞いているか?」

「聞いているわよ。この迷宮の最奥を目指しているのでしょう」

「危険な迷宮の深層にまで来ているとなれば、その目的も妥当なところだろう」


 さすが『変異種』化している種族の者たちともなると、迷宮についてそれなりの知識があるようだ。もっとも、その知識すら迷宮から与えられた可能性もあるのだが。


「だけど、迷宮の奥に辿り着くことで美味しいものが食べられるっていうのが、よく分からないのよね」


 と、頭上に疑問符(???)を浮かべるハーピーの女性。


「迷宮っていうのは、世界のあらゆるものを生み出すことができるそうだ。ダンジョンマスターになって迷宮の権能を意のままに使うことができれば、美味いものだって食べ放題という訳さ!……あれ?」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに勢い込んで答えたディーオだったが……。

 彼を見つめる数の多くの目には、呆れの色が多分に含まれていた。


「うーむ、おかしいな。ちびっ子たちには好反応だったのに」

「それは子どもたちだったからよ。ダンジョンマスターはあらゆる富や名誉を手にすることができるとも言われているのだから」

「う、うむ。嘘か誠か迷宮の力を使って世界を支配しようと目論んだ者すらいるという話も残っている」

「私たちも食べ物を求めて他の階層に行くけれど、美味しい料理のためだけに迷宮の一番奥へと行こうとは考えたこともないわ」


 ニアに続いて魔物の女性たちにまで次々とダメ出しを受けてしまい、不貞腐れた表情を浮かべるディーオだったが、その言葉の中にさらりと『越境者』であることを告げる一言が入っていたことに気が付いて内心ではひたすら驚いていたのだった。


「しかし、迷宮の力を使えばあんたたちの村の食糧事情だって改善できるはずだぞ」

「確かに魅力的ですが、それ以前に迷宮に捕らわれているような現状を改善することを望むと思いますね。まあ、その一環として食料が手に入りやすくすることはあるでしょう」


 そう答えたアラクネの女性の話によると、この階層にいる三つの種族は十年程前に一族ごとこの迷宮へと転移させられたのだという。

 その際、様々な知識や力を迷宮から与えられたのだった。


「我々はお前たちの言うところの『変異種』化が既に起こっていたから、そうした知識にも耐えることができたのだが……」

「一部のそうじゃない人たちは耐えきれずに死んでしまったわ」

「あの時のことは今でも夢に見ます。迷宮とは決して私たちの保護者ではないのだと痛感する出来事でした」


 その後紆余曲折を経て、三つの種族が合同で一つの村を運営していくことになったのだという。


「一番大きな理由は、それぞれの血を用いることで別の種族を生き永らえさせることができると分かったためだ」

「血?別の種族を生き永らえさせる?」

「その説明をする前に、私たちの種族がどうやって子孫を残しているのか知っているかしら?」


 その問い掛けにディーオとニアは気まずそうに顔を合わせた。

 それというのも、三つの種族ともいわゆる女性だけであるため、交配が可能である人間種の男をさらって強制的に、というのが通説であったためだ。


「まあ、それも間違いではないわね。今でもあまり知能が発達していない者たちは、そうした方法を取っていると聞いたことがあるし」


 ディーオたちの解答に難しい顔をしながらも理解を示す魔物女性たち。


「だが、そんなやり方では他の種族たちと軋轢を生むことになる。それを避けるためにも我々の祖は血を用いることを発見したのだよ」


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