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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十章

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6 三十一階層の状況

 支部長の批評、は説教に形を変えて続いていた。

 現在の対象は一団の者たちだ。


「そして君たちの方も問題だな。さすがに私との力の差には気が付けたようだが、彼らの強さを見抜けないようでは先が知れている。大方ポーターと魔法使いのコンビだということで侮ったのだろうが、そんなことでは早々に命を落とすことになるぞ」


 一応、全員と面識があるらしく、出来の悪い後輩または弟子を叱りつけるような絵面となっている。

 ただ、ニアはともかくディーオは直接彼から迷宮探索の際の注意点などいくつかのことを教わっていたので、連中についてどうのこうの言える立場ではなかった。むしろおかしな行動を取った時点で改めて矛先がこちらに向きかねないため、神妙な顔つきで沈黙を保っていたのだった。


「ともかく、三十一階層はディーオとニアの護衛をしながら進むこと、そして三十二階層への階段見つけた時には彼らに先を譲ること。この二点は厳守してもらう」

「で、ですが――」

「拒否するのであれば、運んできた物は没収する」


 なおも言い募ろうとした者たちに対して、支部長はピシャリとそう言い放った。その瞬間、一団の全員が真っ青な顔になった。

 それというのも、三十層の奥に到達した時点で持ち込んでいた食料のほとんどを食べ尽くしてしまっていたからだ。『子転移石』を発見してこれ幸いと見張りの建物内へと移動した彼らだったが、そこにいた見張りたちから秘密の保持を名目に三十階層での待機を命じられてしまったのだ。


 当然のように彼らは「横暴だ!」と反発したのだが、第一線を退いたとはいえ歴戦の強者の見張りたちによって鎮圧されてしまう。

 そして心証を悪くしてしまったため、怪我の回復には自分たちの所持品を使うしかなくなってしまい、その結果薬品類も底をついてしまったのだった。


 大半はこの時点で心が折れてしまい、しばらく三十階層で大人しく過ごした後に一旦町へと帰還するというのが妥当な流れだろう。

 しかし彼らは他の冒険者、とりわけマウズを拠点としている冒険者に対して、支部長の求めに応じてやって来たという自負や、短期間で三十階層まで踏破したという優越感を持っていた。


 そのためか、この屈辱をばねにして更に奥へと進むことを決意したのである。

 自身の気配を操る術に長けた斥候職の仲間を伝令として支部長と連絡を取り、迷宮探索を続けるための食糧や物資を手配してもらえるように頼み込んだのだった。

 加えてこの数日間は、街に出た仲間が買い込んでくる食料でギリギリ食つなぐような生活をしていた。


 支部長の没収宣言は、彼らにとって敗北を宣告されたことと同義だったのだ。


「わ、分かりました。支部長の指示に従います……」


 渋々だが、そう判断するより他なかったのであった。


 さて、支部長にとってこの一団の者たちは、彼自身が把握している中ではディーオとニアのコンビに並んで、現在最も迷宮と踏破する可能性が高い存在だ。

 他にもいくつかのパーティーが深層に到達しているが、残念ながらその者たちは休業中だったり、他の外せない依頼を受けていたりと迷宮探索ができない状況にあった。

 ディーオたちが見つけてきた身元不明の遺体と合わせて、他の組織による妨害によるものだということも判明していた。もっとも、こうした妨害があったからこそ『迷宮踏破計画』を大々的に発表したという側面もある。


 それに呼応してやって来たこの三つのパーティーからになる一団は、現状支部長が持つ迷宮を踏破する上での最大規模の戦力である。

 他にもエルダートレントがいる二十階層の駐在要員となっている者たちなど、彼の基盤を強固なものにするために重要な存在もいるが、最重要となっているのは間違いなく迷宮を踏破できるかもしれない人員なのである。


 言い方は悪いが、そうした手持ちの駒を保持し続けるためには、厳しいことを言うばかりではなく、懐柔することもまた必要となってくるのだ。


「三十一階層以下の『変革型階層』では、次の階層へ向かった後に設置されていた階段がどうなるのかという極めて重大なはずの調査がなされてこなかった。今回の件によって迷宮調査の歴史にまた一つ大きな痕跡が残されることだろう。そこには君たちの名が刻まれることになる」


 冒険者の中には一般社会から爪弾きにされた者も少なくない。そういうこともあってか、出世欲や名をあげることに執着する者も多く、時には実よりも名を取るということも意外とあるのだ。

 一団にもその傾向が見受けられるようで、支部長の言葉を受けて途端にやる気を取り戻していたのだった。


 そしていざ行動するということになってからは、彼らの動きは素早かった。あっという間に食料や薬品類を小分けにしていき、身動きするのに邪魔にならないように各自が分担して担いでいく。


「こうしてみると、ディーオの〈収納《あれ》〉がいかに反則じみているのかがよく分かるわね……」

「便利だってことは自覚しているが、それに見合うだけの努力はしてきたつもりだぞ」


 アイテムボックスとは違い『空間魔法』の一種であるため、使いこなすには熟練が必要となってくる。ディーオの〈収納〉容量があり得ない程大きいのは、幼い頃からの修練の賜物なのである。


「そこはちゃんと理解しているわ。それと、町の人たちにも恩恵があるように気を配っていることにもね」

「敵を作らないための処世術だよ。金にもなるしな」


 ニアの言葉にどことなく気恥ずかしくなってしまい横を向く。

 意図せず向けられた視線の先には、町へと帰還することができる『子転移石』がある小部屋へと続く扉があった。


「早くあれが大っぴらに使えるようになればいいんだがな」

「相変わらず十五階層で『子転移石』の設置は足止めされたままなのよね?」

「ああ。設置部隊の大将は一旦先の階層へ進んでみることも検討しているみたいだ。その分移動する距離が長くなって危険性も増すから、話し合いは折り合いがつかないままだって話だったけど」


 先日偶然出会った設置部隊の隊長は、怪我こそすっかり良くなっていたものの、連日の無意味な会議の連続にうんざりしている様子だった。


「『子転移石』設置は迷宮の管理母体であるグレイ王国が行うことになっているから、『迷宮踏破計画』の追い風になるようなことはしたくない、というのが本音みたいだ」


 どこもかしこも足を引っ張ることを考えている者ばかりで嫌になってくる。

 命がけの商売なのだから、せめて憂いなく迷宮へと潜れるような環境を作ってもらいたいものだ。そうした方が結果的に多くの冒険者を町に呼び込み発展することができると思うのだが、お偉いさん方はそうは考えてはいないどころか自身の権益を拡大させることばかりに腐心しているようで残念な限りである。


 三十一階層に降りると、当初の契約通りディーオたち二人は支部長と共に一団の者たちに守られるようにして進むことになった。

 怪しまれる行動は慎んでおこうと〈地図〉も〈警戒〉も使用してはいなかった。少々不安ではあるが、一団は三パーティー二十人近い大所帯だということから余程の大混戦にでもならない限り、攻撃を通してしまうことはないだろうと結論付けたのだ。


 幸いにも、先日ディーオたちが迷い込んだ指揮官型が複数の種類のゴーレムを多数配置して待ち構えているということもなく、見回りをしているらしいゴーレムたちと散発的に遭遇するだけであった。


「これがマウズの迷宮のゴーレムか……」

「本当に何種類ものゴーレムがいるんだな」


 それでも一団の者たちからすれば、軍隊の兵種さながらの複数の型のゴーレムがいることは驚きに値することだった。

 今更ながらだがマウズ以外の迷宮にもゴーレムは出現する。だが、余所の迷宮の場合は他の魔法生物と一緒に出現するということが大半であり、ゴーレムばかりが出現し、しかも何種類にも枝分かれしていることはなかったのだった。

 また、その外見は人の姿を模してこそいるが、鈍重な大型というものばかりだったのだ。


「魔法を使ってくる奴までいるんだ。これはもうゴーレム以外の魔法生物と考えた方がいいのかもしれないぞ」


 初めて冒険者が三十一階層に到達して遭遇した時にも同じような議論が巻き起こったのだが、体のどこかにある核を破壊するまで止まらないといったゴーレムの特徴を持っていたため、最終的には『ゴーレム』という名称がそのまま使われることになったのであった。


 そうした事情もあって最初こそ戸惑っていたのだが、数回も戦闘をこなすうちにその動きは洗練されていくことになる。

 破壊する際には力押しな動きが目立っていたが、それ以外の探索の時などは、斥候の者が魔物や罠の探知などを行いしっかりと先導役を務めていたのだった。


「戦ってみると、一体一体は大した脅威じゃねえな」

「油断するなよ。モンスターハウスの罠ほどじゃなくとも大勢が集まっている部屋があるかもしれないからな」

「分かってるよ」


 更に支部長からの激励が効いたのか、士気も高く動きも悪くない。やはり特級現役冒険者の肩書きの効果は目を見張るものがある。

 グレイ王国の要請によってマウズの町の支部長への就任が上手くいった背景には、彼の肩書を恐れた諸国の暗躍もあったのかもしれない。ディーオは一人そんなことをつらつらと考えていた。


 一方、ニアはというと、出現したゴーレムの種類に密かに眉をひそめていた。


「ニア君も気が付いているようだね」

「はい。これまで目撃事例しかなかったはずの魔法使い型や、先日私たちが発見したばかりの暗殺型とも遭遇して交戦しています。まだまだ特徴を備えた動きには程遠いようですけど、実戦配備はされるようになったと考えるべきかと思います」


 その答えに満足げに頷く支部長。


「正直、ディーオに唆された部分が合ったけれど、こうして足を運んだのは正解だったようだ。この変化の速度は異常過ぎる。殲滅作戦を含めて戻ったら早急に手を打つことにしよう」


 このままでは懸念していたゴーレムの他階層への進出がますます現実味を帯びてきてしまう。更なる進化を助長するかもしれないという不安はあるが、このまま放置しておく方が危険度は高いと判断したのだった。


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