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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十章

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4 一団の者たち

 明らかに二人を侮った様子を見せる三組の冒険者パーティーに対して、支部長は何を言うでもなく佇んでいた。

 迷宮踏破計画のため余所にいた彼らを呼び寄せたのはこのハーフエルフドワーフであり、当然のように縁の深い相手だ。

 しかしその一方でディーオたちもまた、現在の自身の管轄下に置ける有望な若手なのだ。どちらかに肩入れをするような発言や態度を取れば角が立ってしまうという状況だった。


 また、功績という点からも、軽々しくは口を挟めるものではなかった。確かにベテランの域に達している三パーティーは、それぞれ大陸各地で様々な依頼をこなして高い評価を得ている。

 だが、ディーオたちも――本人たちにそのつもりはなくとも――大量の魔物の肉や甘味類を調達してくることで、マウズを中心とした地方の経済の安定の発展に大きく寄与していたのだ。


 もちろん、ラカルフ大陸全体や『冒険者協会』という組織全体から見れば、三パーティーの連中の方が遥かに名が知られているし、成してきたことも有名である。

 しかし、現在彼らがいる場所は『マウズの迷宮』内部であり、拠点となっているのは『マウズの町』なのだ。そのため、人々が抱いている評価や感想は『同等』となっていたのだった。


 そうした事情もあって、冒険者たちの態度にもそれを利用しようとしているディーオたちの企みにも支部長が口を出すことはなかった。もっとも、「教えられているようでは人を見る目は育たない」と考えていたのが一番の理由だったのだが。


「それで、運んできた食料や物資はどこに出せばいいんだ?」


 支部長の署名が入った運搬物の一覧表を懐から取り出しながら、ディーオは一団の代表として近づいてきた男に尋ねた。


「そうだな……。アイテムボックスから取り出した物はそちらから順に置いてくれ」

「分かった。ニア、数に間違いがないか一覧と突き合わせて確認してくれないか」

「それはこちらでやろう」


 ニアが応えるより先に男がそう言ってくるが、ディーオは緩やかに首を横に振った。


「悪いが先に俺たちでやらせてもらう」

「……我々のことが信用できないと言いたいのか?」


 その対応が気に入らなかったのか、男は声を低くしてさらに言い募ってくる。


「むしろこちらから聞きたいんだが、あんたは初対面の相手でもすぐに信用できるのか?」


 まあ、冒険者協会の建物で遭遇したりマウズの町中ですれ違ったりしたことはあったかもしれないが、その程度では知っている内には入らないだろう。

 実際にディーオもニアも三つのパーティーに所属する連中の一人として顔を覚えている者はいなかったし、反対もまた同様だった。


「…………」


 ディーオの言葉に納得ができてしまったのか、男は反論もできずに黙り込んでしまう。そしてその様子を見ていた仲間の冒険者たちの反応はというと、大きく二つに分かれていた。

 一つは面白い見世物だとでも言うように、ニタリと笑みを浮かべる者たち。もう一つは不愉快だとことさら強調するように怒気を飛ばしてくる者たちだ。

 その数から、前者が迷宮踏破のために組んだパーティーに所属する者たちで、後者が元々男と同じパーティーの仲間たちなのではないかと予測したのだった。


「ニア、頼んだ」

「了解よ」


 背中に感じる視線を無視して、ディーオは収納していた品を異空間から取り出していく。


「まずは薬からね。回復薬が百に、魔力回復薬が五十。それからそれから……」


 そしてニアはわざと声に出して不正などしていないとアピールしながら、一覧表と現物の数を突き合わせていった。


 淡々と作業をこなしながら、二人は背中に感じていた視線の質が変化していることを感じ取っていた。同時に「なんだよ、あのアイテムボックス……」とか、「一体どれだけの容量があるんだ……?」などの呟きを聞き取っていた。


 実のところを言うと、この三つのパーティーの冒険者たちにとって、アイテムボックスというのはとてつもなく貴重な逸品、という程の物ではなかった。もちろん有用で価値のある代物であることに変わりはないのだが、他国にある迷宮都市を拠点としていた彼らからしてみれば、何度もお目にかかったことのある代物であったのだ。

 他のパーティーには秘密にしているが、実は容量の少ない小型の物であればそれぞれのパーティーが保持していたりもする。

 まあ、だからこそディーオの『空間魔法』〈収納〉による異空間の規格外さを目の当たりにして呆然自失とする羽目になってしまったのだが。


「以上だ。後はそちらの好きにしてくれ」

「あ、ああ……」


 一方でディーオとニアは、余計な邪魔を入れられない状況になったことをこれ幸いにと、さっさと確認作業を済ませていった。

 そして冒険者たちから少し距離を置いて座ると、休憩に入ったのだった。


「さてと。彼らはどう出てくるかしら?」

「品も矜持もない連中ならアイテムボックスを買い取ろうと交渉を持ちかけてくるだろうな」

「……それって最悪の部類よね」

「いや。最悪なのは俺たちの隙を突いて殺そうとしてくることだな」


 支部長が同行しているからそんな恐慌を許すはずはないとは思うが、一応は用心しておいた方が身のためだろう。


「このまま仲間に入ることを強要してくるというのは?」

「それが恐らく一番あり得そうな流れだろう。さっきの展開が考えられる以上、絶対に嫌だけどな」

「同感。そうじゃなくても私なんてディーオに対する人質みたいな扱いをされそうだもの」


 いくら魔物とのお戦闘を任せられるとはいっても、自由もなく命令通りに動くことを強要されるようでは選択の余地などない。

 何より、迷宮を踏破した際に異世界の料理を召喚するという願いを叶えられなくなってしまう。そんなことは絶対にあってはならないのだ。


「まあ、いざとなっても自力で三十一階層を抜ければ済むだけの話だ。それほど気に病む必要はないさ」

「よくよく考えたら依頼の代金は既に貰っていたのだったわね」

「そうだ。だから三十一階層を護衛させる件は余禄だとでも思っておけば、損した気にもならないだろう」

「元よりそのつもりだったの?」

「反故にされるかどうか、半々といった具合だろうとは思っていたかな」


 支部長を同行させることで要求が通る率を上げようとはしたが、それでも成功する確率は八割まで上昇させられれば御の字だろうと考えていたのだった。

 その支部長はというと、興味深そうな顔で事の成り行きを伺っていたままだった。

 その態度から、この後に起きるであろうディーオたちと冒険者たちの一団との交渉についてこれまで同様口を出す気がないのだということが見て取れた。


「最悪の事態に発展する気配がない限り、支部長の介入はないと考えた方が良いだろう」

「まあ、あの人ならこれも訓練だと言ってもおかしくはないかもね」

「極限状況下での交渉訓練ってところか。支部長に掛かれば今の状況すら「良い機会」ってことになりそうだな……」


 問題はその「良い機会」というのが自分たちにとってか、それとも彼らにとってなのかということだ。と、そこまで考えてディーオは頭を振った。間違いなく両方にとってだと気が付いたからだ。

 支部長という地位に就いているためなのか、それとも長命種として長い年月を生きてきたためなのか、後続の者たちを育てるという一点において彼は平等主義であった。もっとも、彼の教えについていくには高い能力が必要されることが多く、一部の者たちだけを優遇しているように思われることも多いという残念な結果となっていたのだが。


「しかし、そんな訓練をすることに意味があるのか?極限下での交渉なんて早々あるものじゃないだろうし、そうなっている時点で既に色々と問題だと思うんだけど」

「あら、別に同じ状況でなければいけないなんて話はないはずよ」


 ニアの返答になるほどと頷くディーオ。言われてみれば確かにその通りだ。極限下だと仰々しく考えるからあり得ない状況だと思うが、単に不利な状況という大枠で考えるならいくらでも似たような機会に遭遇することになるだろう。

 ちなみに、その前の思わず零れ落ちた愚痴っぽい己の一言については忘れることにした。


「そうすると支部長の狙いは、経験を積ませること、それ自体にあると考えられるな」


 経験というものは指針となると同時に自信に繋がるものでもあるからだ。ましてや今現在ディーオたちがいるのは深層直前のマウズの迷宮三十階層である。十分に極限と言える状況であり、だからこそ、この場で得た経験は大きな糧となるだろう


「どうせなら拠り所となるような成功した経験にしておきたいわね」

「連中は俺たちのことを侮っていたし、何より『大容量のアイテムボックス』を目にして欲に目が眩みかけているはずだ。交渉を不利な形で終わらせる方が難しいさ」


 と、軽口を叩きながらもディーオは気を引き締め直していた。些細な油断が命取りになるというのは交渉であれ戦闘であれ変わることがないからだ。

 大きく息を吐いた後、集中力を切らせることがないようにその時が来るのを待つことにするのだった。


 そして四半刻が過ぎた頃、ようやくディーオが持ち込んできた物資の確認作業が終わった。


「依頼されていた品目と数共に合っていただろう」

「ああ。間違いはなかった」


 代表の男の言葉に、数名が面白くなさそうな顔をしているのが見えた。隙あらば品物をちょろまかそうとでもしていたのか、それとも難癖をつける理由を探していたようだ。

 そんなことをすれば依頼主である支部長の顔に泥を塗ることになり、今後の活動に不都合が出てしまいかねないはずなのだが、どういった事情なのかそんなことにすら気が付けなくなっているらしい。


 そんな連中を横目で見ながらディーオは、招集に応じてマウズにやって来た連中の全員が、彼のことを尊敬していたり慕ったりしている訳ではないと分かったことは幸運だったと考えていた。

 なぜなら、ニアや四人組なども含めた彼らの立ち位置としては支部長に程近い位置におり、傍目からは彼が個人的に動かせる人材たちとして認識されつつあったためだ。


 結果、支部長と対立しようとしている者からすれば、ディーオたちは目障りで潰すべき対象とされているかもしれないのである。


 改めてこの連中と長時間行動を共にすることは危険だと判断すると、一団への参加に関しては必ず断らなくてはいけないと心に誓ったのだった。


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