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4 三十一階層最終戦

 三十一階層でゴーレムたちの進化を知ったことで、ディーオとニアはその向こうに迷宮の狙いや現状などが透けて見えたような気がしていた。

 しかしながら、だからといって二人がやることに変わりある訳ではなく、むしろ最終目標地点が近いと、やる気に満ちていた。


「残るはこの二カ所に集まっているゴーレムたちだけね」


 ディーオからの情報を元に、さらさらと書き上げたお手製のマップを見ながらニアが言う。


「ああ。恐らくはどちらも階段を利用させないようにしているんだろうな」


 それぞれ十数体ずつのゴーレムが集められている。大半は兵士型や騎士型であり、残る数体が偵察型に石弓型、そして魔法使い型ではないかと彼は予想していた。


「問題は……、どのように接触しようとも、ゴーレムたちの成長の糧にされてしまうということかしら」

「そうだな。迷宮が手を出しているなら敗北した経験すら次のゴーレムに活かされるはずだ」


 つまりこれからは、戦えば戦う程にゴーレムたちは強化されていく可能性があるのだ。

 かといって戦いを避けて駆け抜けるのも、相対したゴーレムたちに経験を積ませてしまい、いずれは他のゴーレムへと伝播していくことになるので完全な下策となってしまう。


「核となっている魔石を破壊してやれば、迷宮に吸収されても情報の再現が難しくなったりはしないかな?」

「有る無しでいえば、十分にあり得そうな話だな。俺たち以前にも相当数の冒険者がやって来ているはずだし、そのことを考えればゴーレムたちの成長速度は遅すぎる。魔石が破壊されることで、迷宮の介入をもってしても戦闘の経験を抽出することができなかったのかもしれない」


 さて、少々今更のきらいはあるが、ここでゴーレムの一般的な倒し方についておさらいしておこう。

 ゴーレムに限らず、魔法生物と呼ばれる魔物たちは魔石を動力源としている。これを破壊されてしまえば身動きが取れなくなり、討伐されたということになる。


 ゴーレムの場合、この魔石の在り処が変わっており、体の中のどこにでも存在させることができるという特徴を持っている。

  もっとも、スライム種のようにいつでも移動させられるのではなく、生まれ落ちた瞬間に配置される魔石の位置が個々によって様々だ、という意味である。


 本題のゴーレムの倒し方であるが、末端部分、兵士型を始めとした人型の場合は腕や脚といった四肢、石弓型であれば張り出した弓の部分や車輪などを破壊し、本体から取り外すことを最優先で行わなくてはいけない。

 こうすることによって魔石の在り処を探ることができるためだが、同時に敵戦力の大幅な低下にも繋がるため、実はディーオたちが冒険者協会で読み込んだ資料にも記載されていた。


 本体より切り取られたゴーレムの部品は、そのまま動きを止めてしまうものと、しつこく動き続けるものの二つに分類される。

 そしてこれこそが魔石の有無を見極める手段となる。前者が魔石なしであるのに対し、後者が魔石ありだ。

 魔石ありだと判明したなら、本体からの攻撃に注意しながら細かく破壊していけば良い。一方、魔石なしであれば再度別の末端部を取り外していくことになる。後は当たりとなるまでこの繰り返しだ。

 残念ながら胴体や本体部に魔石があった時には、見つけ出して破壊するのに時間と手間が掛かることもあるが、そうした頃にはゴーレム側も攻撃手段を失ってしまっているので、危険は少ないのだった。


「手っ取り早いのは大規模魔法で粉砕して殲滅することね」


 それはゴーレムに限らず、大抵の魔物に有効な方法である。


「まあ、魔力がいくらあっても足りないから無理なんだけど」

「できたとしても止めてくれ……。迷宮が崩壊したなんて話は聞いたことがないが、潰れない確証がある訳ではないんだからな」


 床や壁が抉れたとか、天井の一部が崩落したとかいう記録ならば残されている。

 ちなみに、それを行ったのは現在どこかの町の冒険者協会で支部長に収まっているハーフエルフドワーフの男とその仲間たちであったという。


 また、余談だが迷宮の最深奥にあるとされる『迷宮核結晶』を破壊することによって、その存在を維持できなくなる、つまりは崩壊してしまうとされているのだが、実際に試したという記録が皆無のため、真偽のほどは不明のままだ。

 大暴走という危険はあるが、それ以上に多大な利益をもたらしてくれる迷宮を潰してしまおうとする輩はまずいないのだった。


「俺の『空間魔法』でも多数のゴーレムを細切れにするようなことは不可能だ。ここは面倒だが、正攻法で倒すしかないだろうな」

「それじゃあ、私は石弓型や魔法使い型の遠距離攻撃ができる個体を優先的に攻撃していけばいい?」

「それで頼む。あ、どうせ後から確実に潰していくから、完全に倒す必要はないぞ。どちらかといえば行動不能や攻撃できないようにしてくれるとありがたい」


 十数体の敵に対してこちらはわずか二人しかいないのだ。立ち回り方にも気を使っておかなければ、あっという間に数という荒波に飲み込まれてしまいかねない。


「了解。その方針で叩いていくわ」


 そして二人はゴーレムたちが集っている二つ場所の内、近い方へと向けて足を動かしていく。

 そこにあったのは三十二階層へと続く下りの階段だった。そのため、例え順序が逆になったとしてもそれを守るように展開していたゴーレムたちは消滅を免れる事はできなかっただろう。

 いや、一般的な魔物のように気配を察知した時点で逃亡していれば万が一の可能性はあったかもしれない。

 しかし、ゴーレムたちはその場から離れることはせず、ただひたすらに上位者からの命に従い続けた。命令を与えたその存在が、とうの昔にこの世界からいなくなっていることなど考えもせずに……。


「〈トライカッター〉!」


 ニアが生み出した三つの風の刃が、それぞれ攻撃対象となったゴーレムを引き裂いていく。二体いた石弓型は大きな弓の部分と車輪を破壊されたため、実質的に無力化されたと言って良いだろう。


「さあ、頭を飛ばされたあなたは魔法が使えるのかしら?……って本当に使えてる!?」


 一方、一体だけ居た魔法使い型はニアの言葉通り首から上を切断されていたのだが、それを気にする様子もなく魔法を使用し始めていたのだった。


「〈アクアボール〉!そして〈フリーズアロー〉!」


 放たれた火球を同威力の水の球で相殺し、続けざまに冷気を押し固めた矢で貫き凍て付かせる。これでしばらくは動きを封じることができるはずだ。

 ホッと息を吐くが、まだまだゴーレムは十体近い数が残っている。次の刹那には再び戦闘へと頭を切り替えていた。


「ディーオ!」


 視線を向けた先では彼女とコンビを組んでいる相方が、複数の騎士型に囲まれそうになっていた。


「五拍経ったら後ろへ下がる!牽制の魔法を頼む!」


 その言葉に従い、すぐに次の魔法を放つための集中に入る。


「〈ウォーターブレード〉!」


 そして後方へと大きく跳躍したディーオを追撃しようとした複数の騎士型に向かって、糸のように細い一筋の水が(ほとばし)る。

 儚さすら感じさせるほどの細い外見とは裏腹に、その水の流れはとてつもない強靭さを持っていた。なんと触れるものを切り裂き、更には迷宮の壁に深い傷跡を残すほどだったのだ。


 ドガシャンゴングシャンガラン!!


 馬を模した足を刈り取られた騎士型が、胴体を床に擦り付けるようにしてその身を蠢かしていた。


「はあっ!?」


 まるで自身の持つ『空間魔法』の中でも高い攻撃力を誇る〈裂空〉と同様な結果に、ディーオは思わず奇声を上げてしまう。


「例え水でも、細くそしてとてつもない勢いで放出することができれば、剣以上の切れ味を誇ることができるのよ」


 何でもない口調で言うニアだったが、事はそう簡単ではない。

 まず、そうなることが知られていないのだ。彼女がこの原理を知っていたのは研究者時代の同僚に、まさしくこの魔法を開発した者がいたからである。

 そしてその代償も軽くはないものだった。


「ごめんなさい、ディーオ。今ので魔力をほとんど使い果たしてしまったみたいだわ」

「なんだって!?」


 壁に背を預けて荒い息を吐く。そのまま蹲ってしまいたくなるが、戦闘中であることを鑑みると迂闊な真似はできない。

 もっとも、魔法が使えないと宣言してしまっている以上、今更ともいえるのだが。


「もう少し上手く扱えると思ったのだけど……」


 やはり原理を知っているだけの状態では、制御が甘くなったり無理が出てしまったりしたようだ。

 不備をねじ伏せるために想定していた魔力の数倍が消費されてしまったのだった。


「ぶっつけ本番を試すのは俺一人で十分なんだが?」


 蠢くだけで碌に攻撃もできなくなった数体を放置して、未だ全身が健在な騎士型や兵士型数体を一度に相手取りながら、ディーオが不機嫌そうに口にする。

 〈障壁〉によって敵の攻撃を無効化できる彼ならではの芸当である。


「お生憎(あいにく)さま。これでも私、結構負けず嫌いなの」

「そのくらい、会った時から、知っていた、さ!」


 その返答にくすりと笑いをこぼす。無駄に張り合った結果、『モグラの稼ぎ亭』のマスターを怒らせてしまい、二人揃って夜遅くまで皿洗いをさせられたのは、今では良い思い出となっている。


 当のディーオはといえば、ゴーレムの攻撃をいなしつつ、カウンター気味に痛撃を与え続けていた。

 短槍を一振りするごとに腕や足が切り落とされていく様は、現実味のない光景だった。


「ちょっと待って。何よそれ!?」


 そこに来て初めてニアは事態のおかしさに気が付いた。

 ディーオの槍捌きは並ではない。成人する以前の見習いだった頃から、毎日のように訓練を続けてきたのだから当然といえば当然である。

 更には魔物相手に実戦を繰り返しており、その特性にも熟知している。


 だが、である。言い方を変えるならば、彼はそこまでの技量しか持ってはいなかった。

 それは切り札として『空間魔法』を持っていたが故のことかもしれない。実際、空間そのものを操ることができる『空間魔法』は〈裂空〉に〈障壁〉と攻防共に優れた効果を発揮する。

 何より、いざとなれば〈跳躍〉で逃げることができるという点も大きかっただろう。

 そのため、彼にとって槍の技能とは、あくまで表向きの他の冒険者たちの目を誤魔化すためのもの、という側面が大半だったのだ。


 つまり、一撃でゴーレムの四肢を切り落とすことなどできないはずだった。


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