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8 ゴーレム軍壊滅、そして……

 以前にも記したが、魔法生物の利点として核を破壊されなければ、完全に停止することはないというものがある。

 しかしそれは完全な状態と同じ行動ができるという意味ではない。

 兵士型で例えるならば、両腕を落とされれば武器を使うことができなくなるし、足を破壊されれば移動することができなくなる。

 そのため、ディーオの攻撃を受けたゴーレムたちもそのほとんどが継戦能力を失うこととなっていた。


 また、どこの世界でどんな種であっても運の悪い者はいるらしく、〈裂空・環〉によって核を破壊されて消滅する者も少数ながら存在していた。

 そしてあの喋る指揮官型ゴーレムも、そんな不幸な一体であり、戦闘開始からわずか十数拍で上下を分かたれたもの言わぬ土塊(つちくれ)となってしまったのだった。


 一方、魔法生物だからであろうか、命令を下した指揮官型が潰されてもゴーレムたちは戦いを止めようとはしなかった。

 加えて二人にとって残念だったのは、指揮官型と言ってもそれは単に命令権を持っていただけだったことだろうか。

 戦術を駆使するようなこともなく、ひたすら物量によって押し潰すことしか考えていなかったので、倒されてもゴーレム側の動きに変化はなかったのだった。


 もっとも、ディーオたちも頭を潰したことに気が付いておらず、居並ぶゴーレムたちを殲滅するつもりでいたので、大勢に影響はなかったのかもしれない。


 さて、実はこの場には未だ倒された事のない型のゴーレムも存在していた。

 魔法使い型である。噂にしか過ぎなかった指揮官型がいたのだから、目撃例のあるこちらがいても不思議ではないということなのだろう。

 しかしその魔法使い型ゴーレムだが、なんと脅威でも何でもなかった。


「位置取りも考えずにただひたすらその場から魔法を使い続けるとか、もしかして欠陥品なんじゃないのか?」


 思わずディーオが呟いてしまうのも無理からぬ話だ。

 しかも直線で放ってくるため、全て壁にしていた騎士型や兵士型のゴーレムに当たっているという始末だ。

 これならば同じ固定式でも頭上を越えて攻撃してくる投石機や大砲の方が危険だというものである。


「延々と魔法を撃つことができる魔力量は驚きに値するけれど、魔法の使い方がなっていないのであれば宝の持ち腐れね」


 こうした点はゴーレム全体に言えることでもあった。どの型も基本的な性能は高いのだが、それを扱う技量がないことや、相手との駆け引きができないためにその力を十全に生かすことができていないのだ。


「よっと」


 ディーオが短槍で掬い上げるようにしてやるだけで、目の前にいた兵士型は呆気なく転倒する。


「〈圧縮〉」


 その隙を逃さず両肩と両足を潰して戦闘能力を奪っておく。先日、力比べで押し負け、危うく首を取られそうになったとは思えない圧勝ぶりである。

 そうやって壁を乗り越えてきた個体をディーオが正確に潰す一方、安全を確保したニアが、


「其は地に堕ちた日の欠片、焼き尽くせ!〈フレアリングドロップ〉!」


 敵軍後方へ向けて大規模殲滅魔法を使って攻撃していた。

 まさしく太陽の一部かと見紛うばかりの業火がゴーレムたちを包み込むと、その身を動かしている魔力ごと燃やし尽くしていく。

 付近を埋め尽くすほどにいたゴーレムたちは見る見るうちにその数を減らしていったのだった。


 そしていつしか、その場に立っているのはディーオとニアの二人だけになっていた。


「ニア、まだ動けるか?」

「この階層を抜けるだけなら今からでも向かえるわ。ただ、続けて次の階層も探索するというなら、少し休憩させてもらいたいというところかしら」


 しかも余力を残すことすらできていた。

 二人がこれほどまでに余裕を持ってゴーレムたちを殲滅することができたことには、大きく二つのことが作用していた。


 まず一つ目、何と言っても戦いを始めた直後に指揮官型のゴーレムを倒したことだ。

 これによって、階層内の他の場所に配置されていたゴーレムたちが増援に駆け付けることがなくなった。つまり、この場にいたゴーレムだけに集中することができたのである。


 そして二つ目、集団戦闘に置いてゴーレムたちは素人であったことだ。

 個々の戦闘と集団による戦闘では大きな違いがある。それぞれの役割というものがあり、ただ単に目前の敵を倒していけば良いというものではないのだ。

 この点についてゴーレムたちは理解していなかったのである。


 対してディーオたちは二人という極少数であるものの、互いが自身の役割を理解して、それを確実にこなしていた。

 ニアであれば、敵前線を行動不能にすることによって壁を築き、その後に広範囲魔法で後方に集まった多数を一気に殲滅する、といった具合である。


 戦いにおいて数が有力な要素であることには間違いない。だが、数がいれば勝てるという単純なものではないのだ。

 多くなれば多くなる程、上手く運用してやらなければかえって邪魔になってしまうこともあるのだった。


「それなら少し休憩しておこう」

「つまり、先に進むということね?」

「いや。今回のことは完全に予定外のことだったから、今日はもう三十階層に戻るつもりだ。だけど、また邪魔が入るということも考えられるからな。場合によっては三十二階層にしか行くことができないかもしれない」


 これだけいかにもな場所に集まっていたゴーレムたちを完膚なきまでに叩き潰したのだ、十分に通過条件は満たしていると思われるのだが、いかんせん確認する術がないのが辛いところである。

 このまま三十階層へと戻ってしまえば、再度同じ形式の階層に放り込まれてしまう可能性を考えると、先に進んでおいた方が良いのかもしれない。


「まあ、それも休息を取ってからの話だ」


 と、気持ちを切り替えて激戦による疲労を回復させるために、部屋の片隅で体を休めることにした。

 のだが、


「……そういえば、戦いに入る前に喋っていたゴーレムがいたわよね?」

「……ああ、いたな」

「……素朴な疑問なのだけど、ゴーレムって、喋るの?」

「……そんな話は聞いたことがない」


 ちなみに、ディーオがゴーレムという魔物に出会ったのは、この三十一階層に出入りするようになってからである。


「……もしかして、これって物凄い大発見?」

「……かもしれない」


 顔を見合わせて頷きあう二人。

 そして勢いよく立ち上がり振り返った時点で、力が抜けて行くように再びしゃがみ込んでしまった。


「無理。あの山のような残骸の中から特定の一体だけを探し出すなんてできない」

「それに、倒してからかなりの時間を放置してしまっている。あの中に混じっていたら、間違って迷宮に取り込まれることになるかもしれないぞ」


 どういった原理なのかは未だに不明だが、迷宮内で息絶えたものや活動を停止したものは、いつしか忽然と消えてしまう。

 この現象は俗に「迷宮に取り込まれる」と呼ばれているのだが、この取り込まれる際に巻き込まれてしまった者がいる、という話が各地の迷宮で実しやかに囁かれているのだ。

 しかし、実際にその瞬間を目撃した例はなく、油断していていつの間にか接近していた別の魔物に襲われたのだと捉えるのが一般的である。


「まあ、運良く見つかったとしても喋る証拠になったかどうかは別かもしれないからな。諦めよう」

「うー……、残念だけど仕方がないかあ……」


 これより数十年後、別の迷宮で喋るゴーレムが発見、捕獲されたことにより、魔法生物学が本格的に花開いていくことになるのだが、それはまた別の話である。


「別集団から離れた一体がこちらに近付いて来ているようだ」


 休息ついでに残る二つの小規模集団をどのように倒すかを相談していた時、ディーオは脳裏に展開していた〈地図〉で、一体のゴーレムがこちらへと向かっているのを捕捉していた。


「偵察型かしら?ここに居たゴーレムたちからの連絡が途絶えて、痺れを切らせて様子を見に来たとか?」

「随分と人間臭い理由だな……。でもまあ、あり得なくはないか」


 朧気ではあるが、指揮官型と思われる個体も独特な喋り方をしていたようだし、人間種に似せた行動理念を持つゴーレムたちがいても不思議ではないような気がしていたのだった。


「それで、どうするの?」

「一旦は様子見だな」

「え!?放置するの?」

「わざわざこちらの情報をくれてやる必要はないから逃がすつもりはないさ。だけど、遠目で目撃されただけの魔法使い型が大量に投入されていたり、喋るゴーレムなんていうとんでもない個体がいたりしたからな。今近付いて来ているのも、ただの斥候型じゃないかもしれない」


 要するに、相手がどんな存在なのかを見極めようというのである。

 幸い『空間魔法』のお陰で敵の動きは手に取るように知ることができる。これを利用しない手はないという訳だ。


 ディーオがここまで用心深くなっていることには理由があった。

 彼らが三十階層で発見した例の死体である。


 支部長に丸投げしたままになっているので調査の進展などの詳しいことは分からないが、発見した時の状況から高い確率で死因に毒物が関係していると考えていた。

 そして彼が現在、その毒を用いた犯人として最も強く警戒しているのが、存在が明るみに出ていない新たな型、例えば『暗殺型』のようなゴーレムだったのだ。


 とはいえ、元よりそう考えていた訳ではない。

 先の戦闘を行うまではゴーレムどころか、迷宮の魔物の仕業である可能性は低いとすら考えていたのだ。


 それでは、一体誰が犯人だと想定していたのか?


 答えは簡単、自分たちと同じく深層に出入りすることのできる冒険者の誰か、である。


 極端な話、冒険者同士は互いに利害関係にある間柄と言える。似通った階層を探索している場合、狩場争いなどに発展することもあるのだ。

 こうした諍いは低階層から中階層の前半まで、即ち二十階層以前に多いのだが、それより先の階層でも発生しないという訳ではない。


 特に深層はまだまだ調査や探索が不十分であり、ちょっとした発見が大発見へと繋がる可能性もある。

 自分たちが成果を上げるための障害になりそうな相手を、先んじて始末しようと考える不届き者がいてもおかしくはない環境なのだ。


 このため実は、ディーオは三十一階層を探索している時よりも、三十階層で休息している時の方が、神経を張り詰める結果となっていたのだった。


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