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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
六章

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7 中階層を進む

 マウズの迷宮は十一階層から十五階層まで交互に迷路状と大部屋型の階層となっている。

 その後ホワイトビーが生息している十六階層からエルダートレントのいる二十階層までは大部屋型の階層が続くことになる。


「……いつ来ても迷宮の中とは思えないような光景だわ」


 迷宮の入り口から十二階層にある『子転移石』へと移動してきたニアは、開口一番そう言った。

 十二階層はマウズの迷宮では初となる大部屋型の階層であり、その光景を始めて目にして唖然となる冒険者も多い。


 足元を埋め尽くす柔らかな若草はどこからともなく吹くそよ風に揺られている。そして視線を頭上へと向けていくと、そこに見えるのは外と見紛うばかりの鮮やかな青空なのである。

 背後にある無機質な壁がかすむ程の高さにまで続いていなければ、どこかの草原に来たのかと思い違いをしてしまいそうだ。


「まあ、素直に驚いていられるのも最初だけだよ」


 あり得ない光景も何度も目にすることによって、いつしか慣れていってしまうものなのだ。

 また、到着早々魔物に襲われるという事も割とよくあることなので、周囲の景色をのんびりと見回している暇がないという事もある。


 余談だが外とは異なり、本来の光源であるはずの太陽が存在していないことも迷宮内の大部屋型階層の特徴である。

 それでは一体何が明かりを提供しているのか?

 詳しいことは判明していないが、ほとんど真下にだけできる影の形から上空一面が明るいのではないかと推測されていた。


 このように色々と不可思議な点は多いものの、昼夜の変化はおおよそ外と変わりがないことが判明していたりする。

 妙なところで世界との一致が見られることから、迷宮もまた世界の一部なのではないかというよく分からない仮説の根拠の一因となっていたりしているのだった。


「せっかく魔物が近くにいないんだから、さっさと次の階層へと向かうぞ」


 草原という形状からか、十二階層で採取できる物には貴重な品がない。また出現する魔物も階層相当でしかない。

 『難所』という呼び名の大半は、マウズの迷宮初の大部屋型の階層に由来しているのである。

 それでも中階層であるから、相応に有用な素材は確保できるのだが、今はいかんせん『大改修』期であり、大部屋型のこの階層には多くの冒険者が集まって来ている。

 つまり徐々にではあるが供給過多になりつつあるのだ。


「はいはい。それじゃあ次の階層までの案内をよろしく」


 既に幾度かは足を運んでいたこともあって、ニアもごねるようなことなく了承し、一度の戦闘を行うこともなくわずか半刻ほどで十三階層への階段を見つけるのだった。


 見慣れた迷路型の十三階層へと降り立ったニアは、階段の脇に設置されていた『子転移石』に触れて入口との行き来を可能にした。

 これは『転移石』が設置してある階層へと訪れた冒険者が一番に行わなくてはいけないとされていることでもある。


「『大改修』で迷宮の形が常に変化しているというのに、どうして『転移石』は階段のすぐ側から離れないのかしら?」

「前に親方から聞いた話だと、階段の魔力と連動させているとかなんとか言っていたぞ。説明されてもよく分からなかったけどな」


 その時の「説明のし甲斐のないやつだなあ」と不機嫌になった親方の顔を思い出してしまい、ディーオは思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 当の親方だが、十五階層で受けた傷はすっかり癒えており、今は『転移石』が設置できなかった原因を解明しようと、弟子や研究者たちと一緒に躍起になっているそうだ。


「早く『転移石』の設置が再開されるといいわね」

「まったくだな」


 目的の階層まで直通できるというのは、迷宮探索にとって大きな利点である。

 移動時間の短縮に持ち込むべき荷物の減少、何より魔物や罠への危険が大幅に軽減されるのだから当然のことだと言えるだろう。

 そして『転移石』の設置による利便性の向上による好影響は、それを利用して迷宮へと潜る冒険者だけに止まらない。例えば、依頼をする側にとっても拘束時間や料金を減らせることとなり、その分依頼が行いやすくなるのである。

 結果、迷宮を中心とした経済が活発化することとなり、迷宮を擁する都市は更なる発展が進んで行くこととなる。

 そうした意味では、マウズは町、迷宮ともにまだまだ発展途上なのであった。


 さて、他に冒険者が見当たらないことを良いことに、二人はディーオの『空間魔法』を用いて十三階層もあっという間に踏破してしまった。

 何度か魔物と戦闘にはなったが、〈地図〉と〈警戒〉、更にはニアの魔力感知能力により魔物の位置が分かる二人にとっては苦戦する相手ではなかった。


 実はこれには『新緑の風』との探索以後に、ディーオが地力を鍛えようと積み重ねてきた訓練の成果、生息している魔物の特徴や弱点といったことを良く知り理解することや、その際の上手な立ち回り方法といったことも存分に発揮されていた。

 が、そもそも以前から〈裂空〉を始めとした『空間魔法』による反則的な攻撃でさっくり倒していたため、ディーオ本人は自分が強くなっていることに気が付いてはいなかったのだった。


 そして到着した十四階層は、小規模な丘がいくつも連なる丘陵地帯だった。しかし同時にその間の谷には幾筋もの清流が走り、所々でそれらの小川が合わさって美しい沼沢が生み出されていた。

 ひたすら一面草原の十二階層とは比べ物にならない程の風光明媚な景色だ。


「せっかくの綺麗な景色もこれじゃあ台無しね……」


 ため息を吐きながら、ニアは現状設置されている最後の『子転移石』に手を触れていた。

 彼女のがっかりとした気持ちも当然のことだろう。なにせ十四階層はそこかしこから魔物と戦う冒険者たちの声が響く修羅の地となっていたのだから。


 もっとも、例え『大改修』の期間ではなくても、この景色をゆっくりと眺める事はできなかっただろう。

 なぜなら少しでも油断していると、生息している二本角のバイコーンに奇襲されてしまうからだ。


 馬型の魔物であるバイコーンは見た目通り機動力が高いため、多少の距離があってもあっという間に近づかれてしまう。

 しかも厄介なことに普通の馬とは異なって凶暴で好戦的な性格をしている上に大食いなので、見つかったら最後、どちらかが死ぬまで戦い続ける羽目になってしまう。

 十四階層が中階層踏破のための『関門』と言われる所以になっている魔物なのである。


 ちなみに、十九階層も同じく『関門』と呼ばれているのだが、あちらには三本角の馬型の魔物、トライコーンが生息している。


「今のマウズ迷宮ではここが一番楽に稼げる場所だから。まあ、ここまでたくさんの冒険者がやって来ているのは予想外だったけどな」


 『転移石』によって直通できる最も深い階層であるとともに、丘陵と沼沢という二つの地形からなるためか採取できる薬草の類も多いのである。

 更に生息しているバイコーンは強敵ではあるが、その分素材は有用なのだ。

 特にその毛皮は鎧の下地など冒険者が用いるようなものばかりだけでなく、外套や鞄などの一般用の皮革製品として利用可能である。

 そのためか大量に討伐されても値下がりが起こらない稀有な素材が取れると、十四階層は冒険者から人気の狩場となっていたのだった。


「これだけ人がいるならバイコーンに襲われる可能性も低いだろう」

「……そうね。安全に次の階層に行けるのだから、これくらい我慢しなくちゃいけないわね」


 と自分を納得させながら、ディーオたちは十四階層を進み始めるのだった。


 そして二人の予想通りバイコーンから襲われることはなかった。他の魔物も自ら襲ってくる類の魔物ではなかったので、これまでになく平穏な探索となる、はずだった。

 そう、残念ながらそう簡単に十四階層を抜ける事はできなかったのだ。


「おーい、助けが必要か?」

「すまん!手伝ってくれ!」


 予想外の出来事が起こったのは、十五階層への階段まで残り半分となった頃のことだった。

 ディーオの脳内に描かれた〈地図〉に、明らかに劣勢と思われる動きをする冒険者たちが映し出されたのだ。具体的にいうと、バイコーンから逃げ回っていたのである。

 無視して先に進んでも良かったのだが、ニアと話し合った結果、壊滅されて死なれでもしたら寝覚めが悪いという事になり、介入することにしたのだ。


「こっちだ!やつの動きを止めるから俺たちの後ろで待機してくれ!」

「た、助かる!」

「ニア、彼らが俺たちの横を通り過ぎたら、一発ぶち当ててやれ!」

「了解!……いくわよ、〈ロックシュート〉!」

「ブヒヒギョバ!?」


 逃げる冒険者たちを気分良く追いかけていたバイコーンに、突如出現した一抱えもある岩の塊を避けられるはずもなく、首の骨を粉砕されてもんどりうって地面へと倒れていった。


「い、今だ!」


 そこへこれまでの恨みだと言わんばかりに冒険者たちが殺到、バイコーンは一瞬のうちにその命を迷宮へと返したのだった。


「お陰で助かった。礼を言うぜ」

「貸しにしとくさ」


 解体を仲間に任せてリーダーらしき二十代くらいの男が話しかけてくる。

 遠目には気が付かなかったが、助けたのはディーオの顔見知りの冒険者パーティーだった。

 その繋がりからニアも顔を合わせたことはあったのだが、パーティー全員が男だったこともあって会話をしたことはなかった。

 そのため彼女は軽く頭を下げてからディーオの体に半分隠れるように移動していた。


「お前からの貸しとなると、後の取り立てが怖えなあ……」

「現物で徴収してもいいんだが?」

「うん?何だ、もしかして先に進むつもりなのか?」

「ああ。今日はシルバーハニー狙いだ」

「ほうほう。それなら現物徴収の方がこちらとしても荷物が減ってありがたい。回復薬に麻痺解毒薬でどうだ?」

「もう一声。浄化薬も付けてくれ」

「使う予定もないのに持っている訳がないだろう!というか、あんなバカ高い薬買えるか!」


 回復薬は怪我などで失った体力を取り戻す効果があり、麻痺解毒薬はその名の通り麻痺系の毒を癒す薬である。

 浄化薬は劣化万能薬とでも言うべき効果を持つもので、身体的な異常だけでなく精神的な異常のいくつかも取り除くことができるのだが、その効果の高さが価格にそのまま反映されているのが難点な薬である。


「しょうがない、それじゃあ魔力回復薬を一本くれ」

「いや、魔力回復薬も十分高いんだからな?」


 魔力回復薬はその名の通り、魔法などの使用で減少した体内の魔力を回復させる薬である。


「大した怪我もなくバイコーンを丸々一頭確保できたんだから安いものだろう」

「そりゃあ、差し引きでいえば随分儲けさせてもらったことになるけどよ……」

「ニアの土魔法のお陰で皮の上質の物が取れているんだ、それくらいは譲歩してくれ」

「分かった分かった。魔力回復薬も付けるよ。……ところで、そっちの嬢ちゃんは確か四人組とパーティーを組んでいた子だよな?」

「あ、はい。今はディーオとコンビを組んでいます」


 自分に話を振られることはないだろうと思っていたニアは少し慌てて答えた。


「良い魔法の腕だ。そいつに嫌気がさしたらいつでも俺たちの所に来るといい。歓迎するぜ」

「あ、はい……」


 どう返していいのか分からずとりあえず無難に頷いておくと、男はニカッと笑ったのだった。


「それにしても、あんたたちがバイコーン相手にあんなミスをするなんて、一体どうしたんだ?」

「なんというか、周りの雰囲気に当てられちまったというところだな。まあ、そんなこと言い訳にもなりはしないんだがよ」


 そんな急なディーオの話題転換に、今度は渋い顔をして答えている。

 どうやらこの男、感情が顔に出やすいようだ。


「こんな時にシルバーハニーを取りに行こうなんてお前たちなら心配いらないかもしれないが、一応気に留めておいてくれ。どうも危機感を煽っているというか、扇動しているやつがいるようだ。「いつまで『大改修』が続くかも分からないから今のうちに稼いでおくべきだ」ってな」


 新しくやって来た冒険者に紛れておかしな連中もやって来ているようだ。

 きな臭い話にディーオとニアは顔を見合わせたのであった。


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