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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
五章

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7 攻防開始

あけましておめでとうございます。……もう七日目だけど(苦笑)。

今年も本作をよろしくお願いいたします。


新年早々ですが、いきなりバトルです!

 狭い空間の中で二人が何度も交差し合う。


「――っ!」


 その交錯が起きる度と言って良い程の頻度で、ディーオの体に傷が付いていった。

 ほんの小さなものではあったが、傷は傷。痛みを発して集中力を乱れさせる要因となる上、積み重なれば失血の原因ともなり得る。

 状況は着実に悪いものへと傾いていた。


 相手の男は初老に相応しい外見の通りに熟練の、いやそれを超えて老練や老獪(ろうかい)と呼べる方法で、こちらを責め立ててきていた。戦いの場となっているこの場所にしてもそうだ。

 ディーオがメインウェポンとして普段から使用しているのは、柄が一尺半で刀身である穂が三十寸程の短槍である。狭い迷宮内でも扱いやすいようにと言う選択だったのだが、それでも全長で二尺近くにもなる。

 大部屋くらいの広さしかないこの空間では、どうしても取り回しに難が出てしまうのだった。


 対する男が使用しているのは短剣と、空間の狭さによる影響はないに等しい。

 しかもディーオの渾身の突きすらも容易く受け流すことができるという高い技量によって、長い攻撃距離という強みをあっさりと退けられてしまっていた。


「どうした、どうした。助けがなけりゃこの程度か?」


 両手で持って右下から左上への逆袈裟の振り上げが、添えられた短剣によってふわりとその軌道を変えられ、まるで万歳をするような格好になってしまう。


「ちいっ!」


 何よりディーオを困惑させていたのは、得意としている『空間魔法』が使用できないという事だった。

 ニアを探す時から使用不能だった〈地図〉や〈警戒〉に始まり、モンスターハウスの罠によって呼び寄せられた魔物たちをことごとく切り裂いた、攻撃の切り札である〈裂空〉や、エルダートレントの根の襲撃すらも受け止めた、守りの要である〈障壁〉に至るまで全く発動しなかったのである。

 ある意味、便利な『空間魔法』に頼り切っていたツケが出てきていたとも言える。


「そんなことは……、前から知ってるんだよ!」


 真っ直ぐに迫る凶刃を横に跳ぶことでギリギリかわしながら、右手一本でくるりと回転させるようにして柄の方を叩き付ける。


「ぬおっ?が!?」


 破れかぶれの滅茶苦茶な無理矢理に近いものだったが、それゆえ奇襲として成り立ったそれは男の左肩に命中していた。

 痛みに呻いている隙に崩された体勢を整えて距離を取る。

 そう、『新緑の風』と同行したシュガーラディッシュ収穫の一件によって、既にディーオは自分が『空間魔法』に頼りきりであったことに気が付いていたのだ。

 そしてその対策として他の冒険者たちと同行して地力を上げることに努めてきた。それはまだまだ付け焼き刃に過ぎないものではあったが、それでも彼の血肉となり、力となり始めていたのだ。


「ぐあ……、痛え……」


 左肩を押さえて蹲っている男をディーオは冷静に観察していた。なにせあの攻撃には避けることを最優先にしていて、碌な力も込められてはいなかった。

 大袈裟にしてこちらの油断を誘うための演技が三割、格下だと思っていた相手から一撃を貰ってしまった事への苛立ちが三割といったところか。

 つまり、男の行動のうち六割は痛みとは全くの無関係だと考えられるのである。


 その読みが正しかったことを証明するかのように、男はこちらが乗ってこないことを悟ると、すぐに呻くのを止めたのだった。


「近寄っても来ねえとか、つまらねえガキだぜ。やっぱりあっちのメスの方が殺し甲斐があったか?」


 耳を貸すまいと思っていても、吐き捨てられた台詞が神経を逆撫でするように感じられる。

 どうやらこの男、性根の悪さは筋金入りで、しかも苛立ちや焦りといった感情を煽る術に長けているようだ。

 そんな男が自分と同一の存在だとは、まるで悲劇か悪夢のような話だとディーオは内心で嘆息していた。


「それじゃあ一つ、近付いて来るようにしてやろうか」


 人を食った嫌な笑みを浮かべたかと思うと、男は小さく「召喚」と呟く。

 すると、何とディーオの側面から後方にかけてを覆うように、しかもすぐ近くに薄っすらと透けた体をした魔物が何体も現れたのだ。


「!!」


 瞬時にディーオは基礎的な魔法で水を生み出すと、緩慢な動きながらもこちらへの害意を明らかにする半透明の魔物、ゴーストたちに向かって振りまいて牽制をする。

 水に含まれたディーオの魔力を受けた数体のゴーストがよろめき、後方にいた仲間たちとぶつかり合って混乱をきたしていた。

 迷宮の壁をすり抜けて現れることもあるゴーストだが、同じような状態となっている仲間の体はすり抜けることができないらしい。


 余談だが、冒険者を始めとして生きている存在に攻撃を仕掛けてくるということから、生命体も擦り抜けることはできないとされている。

 しかし、伝承や物語の多くに体を透過されたという記述が残されており、意図的に切り替えることができるのではないかとも考える研究者もいる。


 それはさておき、ゴーストたちが混乱したことによってできた間を使って、ディーオは男に詰問していた。


「お前、一体何をした!?」

「何をした?俺はただ召喚()んだだけだぜ」

召喚()んだ、だと……?」


 こちらの驚きや焦りを楽しんでいるかの如く笑みを浮かべなあら応える男に疑いの眼差しを向けながら、ディーオは心のどこかでやはりかと納得していた。

 それというのも、彼らがいる八階層には通常ゴーストは生息していない。そのため突如現れたこれらのゴーストたちは、別の者による干渉の結果だという事ができるのだ。

 そして現段階で最も可能性が高いのが、男が呟いた「召喚」という一言だったからだ。


 そして、ディーオと男もまた持っているであろう『空間魔法』の能力をもってすれば不可能ではないのではないかと考えていた。

 ただし、男ができたからといってそのままディーオが使えるという事にはならない。

 しかし、逆もまた同じであろう。先程から男はずっと短剣による近接戦闘のみを行い、その攻防に『空間魔法』を使用することはなかった。

 つまりそれはディーオが用いている〈裂空〉や〈障壁〉といったものを使うことができないからではないだろうか。


 要するに男とディーオは、それぞれ異なった方向性へと『空間魔法』の可能性を伸ばしているのだと考えられ、そのためディーオだけが『空間魔法』を使えないという状況に陥ってしまっているのだと考えられるのだった。


「これで終わりだと思っているんじゃないだろうな?まだまだ増やせるぞ」


 そう言うと今度はディーオの前方、つまり男との間にもゴーストが現れる。


「くそっ!」

「はっはあ!どうする?囲まれてしまったぞ?」


 悪態を吐いた瞬間、こちらの苦境が楽しいのだろう喜色にまみれた男の声が響いてくる。

 しかしそれは勘違いというものだ。

 これでもディーオはポーターという職にしては高い五等級冒険者であり、二十階層程度であれば単独で進むことができるだけの腕の持ち主でもある。

 いくら魔法攻撃しか通用しないとはいっても所詮はゴースト。束になってかかってこられようとも苦戦する相手ではないのだ。

 まあ、得意の『空間魔法』の使用を制限されているので、多少は面倒になってはいるのだが。


 それではどうしてディーオは悪態を吐いてしまったのか?それは男の行動が当初の目的とは異なってきていたからである。

 元々男がゴーストを召喚()んだのは、ディーオに逃げられないようにするため、言い方を変えるならば自分が得意な接近戦をさせるためであった。

 ところが今度は、男との間に壁になるようにゴーストを出現させていた。舌の根が乾かないようなほんのわずかな時間ですら言動が一致していないのである。


 これにはいくつかの可能性が考えられる。

 一つは、わざと言動の不一致を見せつけることで本心がどこにあるのかを分からなくさせて、以降の動きを予測し辛くすることを狙っているというもの。

 例えば、「足を狙って攻撃する」と宣言されても、「本当は頭を狙うかもしれない」とか「実は武器を持つ腕こそが目標かもしれない」と疑心暗鬼に陥り、結果として全方面に対応できるような中途半端な防御となってしまうのである。

 そうなれば、ただでさえあちらの方が技量が上なのだ。簡単に打ち崩されてしまうだろう。


 二つ目は予定していた当初の事象よりも良い、効果が高くなると判断して切り替えた可能性だ。

 これには短い期間でより良い結果を想定できるだけの高い予測能力が必須であり、更にそこに繋げるために目前で実際に起きていることを見抜くだけの眼力や、予定を切り替えることができるだけの即断力が求められることになる。

 この場合、必然的にそれだけのことができる強敵であるという事になるのである。


 そして三つ目の可能性が、そもそも口に出した目的の達成を重要視していない、というものだ。

 結果としては他の二つと同様なことが発生することになるが、これである場合には相手の思考を読むことそれ自体が無意味となる。

 繰り出してくる手段が目的へと向かわないからである。

 行き当たりばったりであったり、その場しのぎであったりすることも多いが、後の先を狙う戦い方をする者や敵の機先を制することを得意とする者にとっては、非常にやり辛い難敵だとも言える。


 簡単にまとめるならば、一つ目は目的をゴールとしながら、それを囮として利用しており、二つ目は目的に執着していない、という事になる。

 そして三つ目はもっと極端で、目的そのものをどうでもいいと捉えている訳である。


 ディーオとしては、出来得るならば先の二つのどちらかであって欲しいと思っていた。

 が、同時に三つ目の可能性が濃厚であることを悟ってもいた。

 そしてそういう輩は感情の赴くままに行動を起こし易い。ニアのこともあり、放置しておくのは危険な存在だと改めて感じたのだった。


 だが、相手を型にはめるという事は、その対処のためにこちらの動きも型にはまったものになり易い。反面、間違っていた時には大きな被害が出てしまう。

 ディーオは自分の予想が間違っていないかを確認するため、一つの質問をすることにしたのだった。


「この前のゴーストの集団発生もお前の仕業だな。どうしてあんなことをした?」


 確証はなかったが、このタイミングで現れたゴーストを呼び寄せることができる人間が無関係だという事も考えられない。


「おいおい、いきなり何の話だ?……なんて(とぼ)けてみても無駄のようだな」


 やはりか。と思いながらも言葉を続ける


「御託はいいから、さっさと答えろ」


 そしてこの時点でディーオは目的を果たしていたのだが、得られる時にはできる限りの情報を得ておくべきだと判断した。

 男はうそぶいていたが、特に隠すつもりもなければ誤魔化すつもりもないように見えていたため、上手くいけば男がここに居る理由というものを知ることができるかもしれないと考えたのである。


「はっ。おい、ガキ。お前、俺のことを親切なお人よしか何かと勘違いしているんじゃないのか?一々俺がやったことの理由をお前に教えてやる必要があるはずがないだろうが!」


 どうやら高圧的な命令口調であったことが気に障ったらしい。

 ニアを逃がし、一撃をくれてやる事はできていたが、全体で見れば押されていたのはこちらの方だ。男からすれば格下から生意気な口を叩かれたように感じたのだろう。


 だが、ディーオからすればこれもまた貴重な情報の一つであった。つまり、どう対応してくるのかというそれ自体を探っていたのである。

 また、事件の真相を犯人の口から直接聞く事はできなかったが、男のこれまでの言動からいくつかの候補が思い付いていたため、さしたる問題はなかった。


次回、事件の真相が明らかになる!?

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