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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
四章

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7 その後の変化

 二十階層のエルダートレントと冒険者協会マウズ支部との取引締結は、支部長の名をもって大々的に公表された。

 これによりマウズは、ようやく独自の目玉となる特産品を確保することとなる。


 そしてそれを記念して行われた式典には、領主やグレイ王国の重鎮だけでなく、『冒険者協会』やその他組合やギルドの幹部など錚々たる顔触れが並ぶこととなったのだった。

 何しろ物は中級から上級の魔法使い必携ともいわれる杖の原料となるエルダートレントの枝である。少数ながらも定期的に、そして確実に入手できるようになったのはとてつもない成果であった。


 式典の後の宴は自然と町中に広がり、数日間は飲めや歌えの大騒ぎとなる。

 そんなお祭り騒ぎを尻目に、マウズの町から去っていく者たちがあった。『新緑の風』の五人である。

 取引の功労者として大々的に褒め称えられて然るべきの彼らであったが、彼らの本来の目的を優先させるため、マウズの町を後にしたのである。

 これには目立ちたくないというディーオの意向も反映されていた。

 また、支部長と、


「面倒な役回りと時間稼ぎはすべて私が引き受けた。その代わりコナルア草とショナルア草については絶対に秘密にするように」


 裏取引がなされた結果でもあった。


「あの方の病が回復した後には、必ず礼をしに訪れる」


 と一方的に約束すると、『新緑の風』は夜の闇に紛れるようにして静かに姿を消したのだった。


 さて、いくらマウズの町――だけでなくグレイ王国や『冒険者協会』にとっても同様だった――にとって画期的な出来事であったとしても、いつまでもお祭り騒ぎが続く訳ではない。数日も経つと、町はいつも通りの顔を取り戻していた。

 冒険者協会マウズ支部の上級職員たちを除いては。

 なぜなら、


「取引を成立させた身としては、エルダートレントから枝を預かるという大切で重要な役割を他人に任せることはできないかな」


 と言って支部長自らが取引の場、つまり迷宮の二十階層へと赴くことを決めてしまっていたからである。当然、副支部長たちは必死に抵抗した。だが、


「『新緑の風』の五人がいなくなってしまった今、取引締結に関わったのはディーオただ一人となっている。しかしこの取引は『冒険者協会』が行ったものであり、一人の冒険者にばかり依頼を出す事は出来ないだろう。だからと言って中途半端な人材を送ってエルダートレントを怒らせるなんてことになったら大事だ。ここは私が出向くのが一番いいんだ」


 と、丸め込まれてしまったのだった。数百年を生きてきた支部長は口も達者だったのである。

 結局、毎月数日は迷宮へと潜ることになった支部長の仕事をいかにして押し付け合うか、もとい、分担するかでマウズ支部の上級職員たちは喧々諤々の会議を連日繰り返すことになった。

 そしてようやくそれが決まりかけたある日、それぞれの机の上に割り振られる仕事内容が記された支部長名義の書類が置かれていたため、揃ってがっくりと項垂れることになるのであった。

 もちろん、最も多くの被害を受けることになったのは副支部長であり、この一件で彼の額の荒野はこれまでにない程の広がりを見せ、やがてかつらの購入を決定づける大きな要因の一つとなっていくのであった。


 そんな一部での騒動がありながらも、特産品となる迷宮の産物をようやく得ることのできたマウズの町は、徐々に活気付く様子を見せ始めていた。

 まず、耳聡いものがエルダートレントの枝の事を聞きつけて大挙してやって来た。これは大々的に式典を行った時点で発生が予見されていた想定内の出来事だった。

 むしろ支部長などはわざと煽っていたようにも見受けられたほどである。


 あえて想定外だった点を上げるとするならば、これを機にグレイ王国で存在感が増すことになったマウズの領主の元に国内の大勢の貴族たちが訪れるようになった、ということであろうか。

 しかし、それは冒険者には全くと言っていい程関わりのないことである。ざわめく喧騒の町を抜け、彼らは今日も迷宮を目指す。


 ディーオもまた頻繁に、そして精力的に迷宮へと挑んでいた。しかし、それは今までとは少し異なっていた。

 ポーターとしてあるパーティーに同行したり、他のフリーな冒険者たちと一時的なパーティーを組んだりして、だったのである。

 もちろんこれまでも他の冒険者と協力することは何度も、それこそ数え切れない程あった。アイテムボックス――繰り返すが正確には『空間魔法』を用いたものである――を持ち、それなりに戦闘をこなせる彼を一時的にでも仲間に引き入れようとする冒険者は多い。


 余談だが、恒常的にではないのは他の冒険者から恨みを買いたくないのと、ディーオの気ままな行動についていけないためだ。

 異世界の知識を得ていることで、彼の行動は浮ついているとか世間知らずとかいう形で周囲には受け止められていたのである。

 ディーオ本人も、異端として排除されないのならば構わないという立ち位置を取っていたので、変わり者という認識はマウズの町ほぼ全体に広がっていた。


 そんなディーオだが、マウズの町にやって来るまでの経験から先達から学ぶことの大切さは良く知っていたため、特に迷宮初心者であった頃は頻繁に様々な冒険者と組んでいた。

 だが、やがて彼への認識が前記のようになると、その誘いは激減していくことになる。

 ディーオもその頃にはブリックスという親友から、必要な情報を得るようになっていたため単独行動が増えていくことになった。


 幼少期に孤立してしまった悪い癖が頭をもたげた、ともいえるかもしれない。

 事実、周囲の目を気にせずに『空間魔法』を使用できるようになったことで、実践的な使い方を会得していったのだった。

 それでも、ブリックスの助言もあって初めて先の階層へと進む時には、その階層よりも先へと進むことのできる冒険者たちに同行するようにしていた。

 十階層中盤へと進む頃まではそれなりに他の冒険者たちと絡んでいたのである。


 今のような単独行動が中心となったもっとも大きな原因、それは迷宮内での支部長との遭遇にあった。

 最初は本当に偶然だった。マウズの町へとやってきた時の一件から、支部長の方は有力な冒険者がやって来たと関心を持っていたが、協会では特に接触するなどはしなかったため、ディーオは支部長のことを全くと言っていい程知らなかったのである。

 支部長が現役冒険者であり、今でも時折迷宮へと潜っているなど、誰かが面白半分に流した出鱈目だろうとすら思っていたくらいだ。


 そんな二人だが、出会ってみるとあっという間に意気投合していた。異世界の知識を得たことでどこか常識に疎くなってしまっていたディーオの感覚と、これまた数百年生きたことでどこか浮世離れしてしまった支部長の感覚が似通っていた為、なのかもしれない。

 ともかく、最高峰の冒険者の協力を得られるようになったお陰で、ディーオの冒険者としての、そして迷宮での知識は一気に、それこそ並みの冒険者では太刀打ちできない程に増加していった。

 結果、他人には言えない『空間魔法』の件と相まって、ディーオは単独行動を主体とする異例のポーターとして活動することになっていったのだった。


 そのような経緯があったため、今回のディーオの行動は他の冒険者からは驚きをもって迎えられることになった。

 しかし、一度成果を出すと今度は一転して歓迎されるようになる。

 害にならないのであれば受け入れ、益になるなら迎え入れる。冒険者とは適当かつ大らかな生き物なのである。


 さて、ディーオが再び他の冒険者たちの中に入ってポーター業に精を出すことになったことにはもちろん理由がある。それは『新緑の風』に同行し、彼らの行動を目にしたためである。

 以前にも述べたが、ディーオは迷宮での探索をする時――特に一人で潜るようになって以降――には『空間魔法』を多用している。〈地図〉と〈警戒〉の二つはその最たるものだろう。

 そのこと自体は、自分の持つ能力を有効に活用しているのだから別に問題がある訳ではない。

 しかし同時に、『空間魔法』は誰にも知られてはいけない秘密でもある。常に周りに目がないかと気にしておく必要があるし、他者と一緒の時などは著しく使用に制限がかかる。

 この事実に以前から危機感を覚えてはいたものの、どう対処していいのかが分からなかった。


 そんな中で共に二十階層を目指すことになった『新緑の風』の五人の動きは一つの指針となったのである。

 彼らが取っていた行動は単純明快、迷宮探索の基本を忠実に、そして丁寧に行うというものだった。

 だがこれは、言うは易く行うは難しの典型のようなものである。頭では重要性を理解していても、つい手を抜いてしまうのだ。

 ところが『新緑の風』は一切手を抜くということをせず、それでいてとんでもない速度でそれらをこなしていた。


 要するにディーオは自身の能力にかまけて、迷宮探索の基本を御座なりにしつつあったことに気が付いたのである。

 そして深層へと向かうためには、経験も知識も技量も何もかもが足りていないと理解したのだった。

 迷宮探索の先輩であり、一番の友であったブリックスも新たな道を歩み始めたこともあり、初心に返って多くの冒険者たちと交流して経験を積み重ねていこうと考えたのだった。


 明確な目的があると、人は時に驚くほどの速さで成長を遂げるものである。

 エルダートレントとの取引成立のお祭り騒ぎから約一月、中堅どころを中心に多くの冒険者たちと迷宮に挑戦を続けたディーオは、それまでの倍近い速さで迷宮探索の基本行動が取れるようになっていた。

 それは周りへの警戒であったり、魔物の痕跡や罠の発見であったり、マッピング行為であったりと様々であった。


 こうして、ようやく彼が未到達である二十六階層以降へと足を踏み入れるための自信がついてきたと思えるようになった時、それは起きた。


 ニアとパーティーを組んで中階層序盤へと繰り返し挑んでいた四人組が、大怪我をして救護所へと運ばれたというのである。


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