第九話
「んぅ…?ふぁ〜…、あれ?今何時だ…?」
起き上がって確認しようとしたら、何か起き上がりづらい。
下の方を見ると若が俺の足を膝枕にして寝ていた。
(あれ?俺ちゃんとベッドに寝かせたよな?)
昨夜の記憶を思い返してみても、ちゃんと寝かせたはず。
まぁいい起こすか。
「おい、若。起きな?」
「んん…んんぅ」
体をさすっても、すぐ起きない。
眉間に皺寄せてる。面白い。
(若の髪昨日は触れなかったけど、今なら...)
ふとそんな考えになって、頭を撫でてみた。
(うわっ、サラッサラしてる。綺麗な髪だな)
しばらく撫でていると、若が起きてしまった。
「んぅ…?…何じゃ?…一進?」
「あ、ごめん。ちょっと触ってみたくなって」
「そうか…。んふふ」
「っ!」
撫でたままだった俺の手に若は微笑みながら自分の手を合わせてきた。
その笑顔がすごく魅力的だった。
「あー、あの、トイレ行ってくるから、ちょっと起き上がってくれないか?」
「おおぅ、すまんのぅ。よっと」
起き上がり、前髪をかきあげる。
その仕草がまた様になってカッコよかった。
とりあえず、トイレに向かう。
(何だあれ何だあれ何だあれ何だあれ)
手で顔の火照りを冷ましながら、トイレまで早足。トイレの中で落ち着きを取り戻す。
(何だよ…あの顔。反則だろ)
落ち着いたところで、部屋に戻ると莉乃も起きていた。
「おぉ、一進おはよ」
「ああ、おはよ莉乃、若」
「おはようじゃ」
全員起きて、朝ごはんをどうしようかという話になった。
「いかんせん母たちはもう店に行ってしもうたからのぅ」
「あー、もう十時かぁ」
「お腹空いた」
「どっか食い行くか?」
「近くに喫茶店がある。今日は土曜で暇じゃろ?どこか出かけるかや?」
「服...、制服のまま...」
「あ...」
今日は諦めて、若の家で朝ごはんを食べることになった。
「ではキッチンは自由に使ってくれ、各自作って食べよう。冷蔵庫に食材は入っておるからの」
「あ、あたし料理できない。パンしか焼けない」
「じゃあ莉乃の分のおかずは俺が作るよ。莉乃は俺のパン焼いて」
「分かった」
リビングに行き、そんな会話をしていると、若が膨れている。
「どした?若。何で膨れてんの?」
「……わしの分は?」
「え?若は自分で作れるだろ?」
「作れる!…じゃが、わしだけ除け者扱い…」
シュンとして、キッチンに向かってしまった。
まったく、
「わぁったよ、若は俺と一緒に作るぞ」
背を向けてる若の頭をワシャワシャと撫でる。
「……うん!」
若はパァッと笑顔になり、調理開始。
トントントンッ、ジュ〜ッ、
「若、塩ってどれ?」
「そこにある青色の容器じゃ」
「これか。サラダ出来た?」
「後は今切ってるトマトを入れれば完璧じゃ」
「おっけ。莉乃、パン焼けた〜?」
「あと、一分〜」
着々と準備を進め、
「でーきたっ!目玉焼きとキャベツとベーコンのサンドウィッチと、野菜サラダの出来上がり〜」
「よし食べよう。もうお腹ぺこぺこじゃ」
全員席についたところで、
「「「いただきます」」」
「うまいのぅ」
「うめぇ〜」
「うん、上手くできてる」
談笑しながら、パクパク食べてく莉乃や若を見ながら思う。
こんな賑やかにご飯を食べたのは、久しぶりだ。父は小学校の時に他界してしまい、今は母と二人暮らしをしている。
その母もバリバリのキャリアウーマンで休みの日曜も朝ごはんを食べてくれない時がある。
「ふふ」
「何笑ってんだ?一進」
「別に、何でもない」
「?そっか」
食べ終わり、後片付けもして、そろそろ帰ろうかとなった。
「さてと、莉乃。そろそろ帰るぞ」
「えー、まだいてぇよ〜」
「ダ〜メ、ワガママ言うな。これ以上迷惑かけんな」
「ふふふ、まだいてくれて構わんぞ?」
「甘やかすな若。もう帰る、ありがとな楽しかったよ」
「うむ、また泊りに来るが良い」
「じゃあなぁ〜若。また月曜学校で」
「うむ、莉乃もじゃあの」
若は玄関まで見送ってくれて、靴を履き替えた莉乃はもう外に出て待っていた。
俺も後を追って、家を出ようとしたところに、
「また髪を触らせてやる。今度はいくらでも触れるよう二人きりでの」
「っ!」
「ししし」
耳元で囁かれて驚き、バッと、若の方を振り向いて見ると、若は悪戯を成功させた子供のような笑顔でウインクしていた。
(っ、くそ…)
何かムカつくぅ。悔しかったから、そそくさと帰った。
絶対いつかやり返す。