第三話
「一進、一進や」
現在授業中。そんな時、若が話しかけてきた。
「なに?」
「これ!これ!見てくれ」
「何これ?」
若が渡してきたのはスイーツが一面に貼られたチラシだった。
「この駅の近くの店で、限定スイーツとやらが発売するんじゃ!食べたいから一緒に行ってくれんかや?」
「………いや、そういうのは女の子と行ってくれないかね」
ゴッテゴテの女子向けの店の様で、男子には入りづらい店だ。
「分かっておろう?わしには女子の友達はおらん」
「………ごめん」
「次から気を付けい」
お通夜の様なテンションになった。
「でも、行くにしてもこんなとこじゃなくっても...。もっと他の店無いの?男子でも入れそうな」
「無いのぅ。良いではないか、何も買って来いと言うてるわけではないのじゃ、一緒に食べに行こうと言うておるのじゃ」
「...うむぅ」
腕を組んで考えていると、
「それとも、わしと行くのが嫌なのかや?」
若が不安そうに聞いてくる。
「…恥ずかしいんだよ、女の子と一緒にそういうとこ行くの...」
今俺めっちゃ顔赤いだろうな。
だからやだったのに...。
「そうか…。では諦めるかのぅ」
「いや、諦めなくても。中学で友達だった奴とかに頼めないのか?」
「わしは一進と一緒に行きたかったのじゃ、他の者と行っても面白くない」
「…」
ここまで言われちまうとなぁ…。
「わぁったよ。行くよ、着いてく。連れてけ」
「本当か!?良いのか!?」
若の顔がパァと明るくなった。
こんな素直に喜んでくれるとは...、でも、
「伊勢〜静かにしろ〜」
今は授業中だ。
注意されて縮こまる若を見て、笑ってしまう。
「じゃあ、放課後に」
「うん」
お互い注意されない為小声で喋る。
〜放課後〜
「さぁ!行くぞい一進!」
「おー…」
両者の温度差は非常に激しい模様。
行くと言った手前もう引き返せないが、
嫌と言えば嫌なのだ。
「一進や。もう行くと言ってしまったのじゃ、諦めい」
「分かってますわ。行きませう」
最後喋り方が古典的になったが、とりあえず行こう。
お店がある駅は、学校からそこまで離れていなかった。
だから、目的のお店には意外とすぐ着いた。
「ここか」
「わくわくするのぅ!」
目をキラキラさせて楽しそうな若。
周りには女子がいっぱいいた。
そりゃそうか、あんな大っぴらにチラシを作れば女子達は黙っていられないのだろう。
「行くぞ、一進や。わしに着いて来い!」
「ここで俺が先導したら、周りからあらぬ誤解を生むわ」
当たり前だろって顔をして店に入る。
「「うわぁ」」
二人とも同じ反応だが、恐らく抱いた感想は逆だ。
「すごいのぅ!キラキラしておる!」
「眩しい」
「甘い香りがいっぱいするのぅ」
「匂いがきつい」
「壁とかカラフルじゃあ〜」
「もう一度言う、眩しい」
若がじっと見てくる。
「なんだよ」
「…文句ばかりじゃのぅ」
「こればかりは許してくれ」
「仕方ないのぅ、ボヤくのは許してやろう」
席に着き、俺はアイスティー一つ、若は、限定スイーツと紅茶を頼んだ。
しばらくしてメニューが来たが、いかにもなメニューだった。
「美味いのぅ〜程よい甘さじゃ!」
「…よくそんなん食えるね」
「一進も食うかや?」
「いらね」
「むぅ、そうか…」
ばくばく食って、すぐ食べ終えた。
「美味しかった。ご馳走様」
「そりゃ良かった」
店を出て、駅まで歩く。
もう辺りは夕焼け色に染まっていて、帰ってくるサラリーマンや学生達がチラホラ見えた。
二人で並んで歩いていると若が、
「今日はすまんかったのぅ」
「ん?」
「無理に誘ってしもうて、楽しめてなかったのは見てて分かった」
「いや、まぁ、うん」
「じゃから、もう誘わん。主が楽しめぬのなら意味がない」
少し寂しそうな顔で若は話す。
「別に、楽しくなくてもいい」
「?」
「お前が頼ってくれるなら、俺もそれに答える」
「一進…」
「だから、何だ、あの…、誘わないとか、言わないでくれ」
言い終えて、恥ずかしくなって少し早歩きになる。
若が隣からいなくなったから後ろを振り向いたら、
「………」
黙って、赤い顔をしていた。
「どした?」
「何でもないのじゃ」
「ん、そか。…帰るぞ」
「うむ…」
また二人で歩き出す。
でも、若はそれ以降喋らなかった。