第二話
若と友達になって早一ヶ月が経とうとしていた頃、自席で携帯をいじっていたところ若がやってきた。
「一進や!同じ班にならんかや!?」
「何の話?」
「来週の金曜日にある校外学習の行動班の話じゃ。わしは一進と同じ班になりたいのじゃ」
「あー、あれか」
俺たちの高校は六月の上旬に校外学習がある。
俺たちは今二年生なので、東京の鎌倉に行く。観光みたいなものだ。
若はその際行動する班を俺と組みたいと言っているのだ。嬉しいし、俺も是非そうしたいが、
「まぁいいけど」
「よし決まりじゃ!ではそういう風に計らうからの〜」
「待った待った。若、残念だがこのままじゃ俺たちは一緒に回れない」
「………」
あれ、黙っちゃった。
「い、一進は...わしと回るのは...いやっ、嫌なのかや...?」
ちょっと泣きそうになりそうな潤んだ目でこっちを見てくる。
申し訳ないからそんな目で見てくるなよ。
「違うよ、若。これ見て」
「ぐすっ、しおり?」
「ここ、読んでみ」
「『行動班の人数は定員三人以上にする事』」
「わかった?つまり俺と若二人だけじゃ回れないんだよ。あと一人班に入れなきゃダメって事」
泣きそうな顔はいつもの顔に戻り、状況を理解した若。
よかった…、泣かれると思った。
「むぅ、そういうことか。ではどうするんじゃ?他に当てがあるのかや?」
「一応俺にも少なからず友達はいるからその人を当たってみるよ。幸いクラス内で班を作らなきゃいけないわけじゃないみたいだし」
「ほう!そうか、一進の友達はどんな奴なんじゃ?」
「あー、一言で言うと面倒くさがり屋さんだね。この校外学習だって下手したら休みそうだな」
「ほう、それはまた筋金入りじゃのぅ」
「んーまぁ今だけ名前書いて当日んなって欠席したら俺と若だけで回ることになるけどね」
「そうなったら、わしと楽しもう」
「ん」
こうして三人班が出来た。
絶対休むなあいつ、去年も休んだし。
不安になりながら、当日を迎えた。
『あー、一進か?悪い風邪を引いた。ゲホッゲホッ!って言っといて〜じゃあな』
こいつ、殺してやろうか…。
何だこの申し訳程度の演技は、腹立ってくる。
しょうがないから先生にはそう伝える、
「先生、関谷(一進の友達の苗字)は休みです」
「ん?あいつ今回も休みか?まぁどうせサボりだろう」
「……」
残念だったな関谷。お前の行動なんぞ先生にはお見通しらしい。
なら当面の問題である、
「班は伊勢と柊だけになってしまうな」
「あー、それに関してはあっちがオッケーしてたんですけど、マズイっすかね二人だけは」
「いや伊勢がオッケーならいい。余計なお世話かもしれないが、清く正しくな」
「あ、はい分かってますよ?」
何故、そんな事を言ってきたのかは分からないがとりあえず若のところに行こう。
「若、お待たせ。やっぱりあいつは休んだよ」
「む?そうか顔だけは見たかったが、しょうがないのぅ」
全員の待ち合わせ場所であるところから少しだけ離れたベンチに座っていた若、その前に立つ俺はとりあえず二人で回ることを伝える。
「ほう!やはり一進と回ることになったか!なんだかんだ、思い描いた構図になって嬉しいぞい!」
「そうか?まぁ若がいいなら構わないけど」
そう言いながら、若の服装を見た。
若の私服は何と言うか、カジュアルだった。
黒のスキニーパンツに五部丈の白のシャツに薄い灰色のカーディガンを羽織っている。
若はこういう服が好きなのかな。
そういう俺も若と同じ様な格好をしている。
「今日のわしの格好と一進の格好は似ておるのぅ」
「あぁ俺も思った」
「ぺあるっくと言うやつみたいで、嬉しいのぅ!」
「………お、おう」
ペアルックとか言うなよ、ちょっと意識するじゃんか。これ周りの人達、変な誤解を生んでるんじゃ…。
そんな事を考えていると、集合がかかった。
集合して、諸注意をして解散。
帰りは時間通りに戻って点呼をとったら帰宅、という流れらしい。
何はともあれ校外学習を楽しもう。
「さて一進や、どこから回ろうか?」
「鶴岡八幡宮でいいだろ」
「ふむ、では行こうかの」
「ん」
人混みの中、若を見失わない様に若をずっと見てる。
すると振り返った若が、
「あまりジロジロ見るでない。恥ずかしい…」
「え?いやこの中迷ったらキツイだろ」
「………もうよいわ」
「?」
何がだろうと考えるが、答えは見つからない気がして、考えるのをやめた。
鶴岡八幡宮周辺は人が多すぎて全部回るのは時間の無駄だと思ったので、外れに来て作戦を考える。
「若、ここからバスに乗ってもっと外れに行くと静かな場所が続くし歩いてて楽しいところがある。ここで良かったら行かない?」
「うむ、わしは一進とならどこでも行くぞい」
「ふふ、ありがと。じゃあ行こ?」
そう言って笑いかけ、バス停まで歩き出す。
ぼそりと若が、「一進は時々ずるいのぅ…」と言っていたが、意味が分からなかったので、これも考えるのをやめた。
そこからバスに乗り、外れまで行く。
もうそこには人はおらず、俺と若だけで、一本道が続いていた。
右手には森があり、左には町並みと先に海が広がっていた。
一本道の先には喫茶店や道の駅などがあり、ゆっくりと歩いて目指す。
途中そよ風が吹き俺たちの頬を撫ぜる。
「のどかじゃのぅ…」
「そうだね。今日は天気が良くて本当によかった」
「暑くもなく寒くもない。絶好の散歩日和じゃな」
「後で海の方まで行ってみる?バスで行けるみたいだけど」
「うむ、行ってみよう」
そんな会話をしていると、良い雰囲気の喫茶店を見つけた。
ちょうどランチの時間だったので、入ってお昼休憩にした。
「いらっしゃいませ」
「俺、ナポリタンとアイスコーヒー」
「わしは三種のサンドイッチとアイスティー」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
ご飯が出てくるまで待ってると若が、
「なぁ一進や。わしはの、主と友達になれて良かったと思うておる」
「?どうした突然」
「わしはいかんせんこんな喋り方で、思春期の子供たちには気味悪がられる。じゃが、主はそんな事気にせずわしと接してくれる」
「………」
「わしが主にどれだけ救われているか分かるか?主がいてくれんかったらわしはきっと、主の友達の様に今日ここには来なかったはずじゃ」
「…あぁ」
「ありがとう一進。今日はどうしてもそれを伝えたかったのじゃ」
「…そっか。役に立てて何よりだよ」
きっと、若はありのままの自分を見せきれていない。
俺をまだ信用しきっていない。
でも、不思議とそれでもいつかは見せてくれると信じている。
若が自ずと俺に本心を晒してくれる日を俺は、待ってみようと思った。
昼飯を食べ終えて、海まで来た。
海ではしゃぎ回る若を携帯のカメラで撮る。若は写真映えするのを知った。
カメラマンってこういう気持ちなんだな。
「はぁ〜遊んだ遊んだ!」
遊び疲れて砂浜に寝転がる若の横に座る。
もう、時刻は三時を回ろうとしていた。
「楽しかったか?若」
「うむ!じゃが一進はどうじゃ?わしばかりが楽しんでおった様な気がする」
「俺もちゃんと楽しんでいたよ。今日は若と回れて良かった」
「ん、そうか!それはよかったのじゃ」
波打つ海を二人で見ながら、黄昏てみる。
波の音が心地よく響き、風が潮の匂いをさせながら吹き抜けていく。
「さて、帰るか。時間ももうそんな無いし」
「んむ?何じゃもう帰る時間か?早いのぅ」
「残念だが、お開きだ。帰ろ、若」
「………うむ」
残念そうに立ち上がり二人で歩き出す。
時間通り帰り点呼を取れた。
解散して、家に着く。
今日はいっぱい歩いたのですぐ寝てしまった。
とりあえず若が楽しそうで良かった。