第一話
「おい、其処な男子よ。わしを助けてくれんかのう」
「……」
放課後に図書館で本を借りに来た俺こと柊 一進は何故か本棚の上にいる変な喋り方の女の子に助けを求められていた。
「…え?」
頭を一度掻いて、周りを見渡し、もう一度聞き返す。
「じゃから、そこにある脚立が倒れてしもうて降りられなくなってしもうた。助けてたも?」
「あ、あーそう言うことか。よっと」
「あ、ダメじゃその脚立は壊れておる」
「え?あ、ホントだ。金具取れてる」
「すまんが、わしを受け止めてくれ」
そう言った途端、ぴょんと俺の方へ飛んだ。
おい、まだ準備出来てない!
「うおっ」
「うにゃ」
女の子の腰のところを抱いて、キャッチ。
つまり現在向かい合ってるということ。
「おー、凄いのぅ主」
「そりゃどうも」
「名は何という?主」
「柊 一進。葉っぱの種類の柊に一歩ずつ進むで、一進だ」
「ほう!漢字まで良いと来たか!気に入ったぞ一進や。わしの名前は伊勢 若葉。若葉でも若でも好きに呼ぶが良い」
苗字じゃダメなのかと思う。
まぁいいか。
「おうよろしく若、そんな事よりそろそろ降りてくれないか。重くは無いが、これは誰か来たら誤解されるパターンだ」
「おおぅ、すまんのぅしっかり支えてくれて楽じゃった。再度例を言う、ありがとう」
「いいえ」
ストンと降りて、俺の目を真っ直ぐ見てくる。
「一進は、顔が綺麗じゃのぅ、羨ましい限りじゃ〜」
「そうか?そんな事言われた事無いから素直に嬉しい」
「うむ、わしは好きな顔じゃ」
「う、おう…ありがとな…」
普通に褒められた。しかも好きとまで言われた…。恥ずかしげもなく、微笑みながら。
「あんたも綺麗だと思うぞ。女の顔の基準はよく分からないが」
「何じゃ?お返しかや?気を使わんでも良いのじゃぞ?」
「いや、普通に今さっき至近距離で見た感想だよ」
「んー、んふふふ。素直に言われると嬉しいのぅ!」
嬉しそうに、両手で口元を抑えて、クネクネしてる。
若の容姿は、今時の女子高生には見えないほど綺麗という感じだった。
染めたことが無さそうな艶やかな長い黒髪、綺麗な二重、整った少し高い鼻、細く控えめな唇、加えてすらっと長い脚と出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでるスタイル。さっき抱き抱えた時、想像以上に細くて、驚いた。
喋り方を除けば、絶対モテるだろう子だ。
「む?わしの顔に何かついとるかや?」
「いや、何も。んじゃ俺ぁ帰るよ。本も見つけたし」
「そうじゃ、一進や。何を借りに来たんじゃ?」
「あぁ、これだよ」
「シェイクスピアのロミオとジュリエットではないか!ほう、一進はこんなものも読むのじゃな」
「シェイクスピアは好きなんだ。ロミオとジュリエットって思ったより暗い作品だと知った時は驚いたけどね」
「死んだと勘違いして自殺したら生きておった。じゃったかの?」
「うん、この小説の中の時代は名が重きを置いていたから、本当にもし二人がこの名前じゃなかったらって思うとやっぱり考えるものがある」
柄にもなく、喋ってしまった。
しまった、そんな興味なかったかもしれないのにペラペラと喋りすぎた。
「一進は優しいのぅ」
「っ!」
それは見たことないくらい綺麗な笑顔だった。
あまり女の子と喋った事無いからそういうのに耐性無いぞ俺。
「…あ、あぁ、親にはよく言われる」
「そうか」
苦し紛れに照れを隠していると、下校のチャイムがなった。
「む!もうこんな時間か!一進や、早よ帰ろう」
「え?一緒に帰るの?」
「何じゃ、嫌なのか...?」
シュンと寂しそうにした若。
ちょっと良心が痛んだ。
「あー、分かったよ。荷物取りに行くから校門前で待ってて」
「うむ!じゃあまた後での!」
「ああ」
パァっと明るくなった若は図書館に置いてあった鞄を持ち、去っていった。
俺も鞄を取りに教室へ行ってから校門前へ向かった。
変な子かと思ったけど、素直でいい子じゃないか。それに面白いし。
下駄箱で靴を履き替え、校門前の方向に歩いて行くと、もう若は来ていた。
俺を見つけて、手を振ってここにいると主張する。
「一進や〜!ここじゃ!」
「あぁ分かりやすかったよ。もう嫌になるくらい」
「?」
言っている意味が分からなかったのか頭にはてなマークを浮かべていた。
そのあとは、普通に談笑して帰っていった。知ったことは、意外に家は一駅違いだったとか、同じ学年で同じクラスだったとか、中学の時はどうだったとか、お互い友達と言う友達はいないとか、そんな事だった。最後の話題はお互いの気分が沈んだ。
とりあえず、友達になった...のかな?
まぁこれから楽しそうな気がしてきた。