最終話 夕季編
「私を選んでくれて、ありがとうございます」
「僕は迷っていたんだ。僕が夕季さんに惹かれるのは、ゆうに似ているからじゃないのか。夕季さんが僕に優しくしてくれているのは、僕の隣にいてくれているのは、ゆうを犠牲にした儀式の、罪の意識からじゃないのか。そんな風に考えていた」
「けれど、僕は逃げない。ゆうがいない世界でも、すべてに立ち向かうって決めたんだ」
「……」
「確かに罪の意識がないわけではありませんでした。けれど何故だか、今は祐人さんが背負ってくれているような、安心感があります。今の私は、祐人さんのことを好きだって断言できます!」
夕季さんは笑顔で言った。
――今目の前にいる人だけを幸せにすればいいわけじゃない。けれど、僕はゆうの代わりとしてでなく、そしてゆうを忘れたわけじゃなく、今僕の前にいるこの人が好きだ。
ゆうなら、きっと今の僕を許してくれるだろう。
「くすくす。祐人さん、何か忘れてませんか?」
「何か? 不思議と、僕には力があるような気がしているんだ。この世界の秘密に関わる、力が――」
「それはそんなに重要なことじゃありません」
「えっ?」
「私が、男の娘ってことです」
久しぶりの夕季さんの、少し強情な、だけど最高にかわいい笑顔。
「それが最重要ってこと?」
思わず笑ってしまった。
「僕は、夕季さんのすべてが好きです。たしかに夕季さんは特殊なのかもしれないけれど、だけど、夕季さんを好きになったら夕季さんを形づくるすべてのものも好きってことじゃないかな」
「そう……ですか。くすくす。やっぱり私のご主人様は祐人さんです!」
「ま、またご主人様なんて言って……」
僕と夕季さんはこれから幸せな生活を送れるような、明るい展望が見えた。
「でも、その前に、決着をつけないといけないかな」
「記憶を、取り戻したんですね」
「ああ。今はゆう、そして君の罪を背負っている。そしてこの力は
――もとは僕自身の力だった」
………………………………
………………
……
少年は世界を創り変えた。そして今の世界では、神と呼ばれていた。
少年には力があった。
世界は男と男の娘との恋愛が普通の場所だった。少年はある一人の男の娘に恋した。
だが、運命は無情にも少年と男の娘を引き裂いた。
少年は泣き叫んだ。世界を恨んだ。
涙の洪水が地を満たし叫び声は轟々と鳴り響き空を覆った。
そして少年は、二度とこんなことがないようにと世界を男女のものにした。もう二度と自分のような者が生まれぬように。
彼は最後にこう言った。
「それでももし、君とまた幸せになることが出来たら、そのときはずっと一緒にいよう」
そして神となった少年は男色を禁止する法を子孫に与えた。しかしその魅力に世界の人々は取りつかれまたもや世界はもとの通りになった。
神は男の娘と結ばれる人々に嫉妬を抱き、或いは再び悲惨な出来事がないように、人類を滅ぼすことにした。
そして男女の番いだけを救いそれ以外を滅ぼし、同性愛を禁じた。そして世界から隠れた。
彼の子孫は、御子と呼ばれるようになった。
「その少年――神というのが、僕だったんだ」
「そして彼と恋仲だったのが、私」
「まるで自作自演の悲劇だ。その悲劇の中の少女に、ずっと恋をしていたなんて」
「祐人さん自身は、きっとゆうさんが好きだったんでしょうね」
「ははは。やけに、だったっていう部分を強調しましたね」
「今は、私だけを見ていてください!」
「ああ。これからは僕が力を管理して、こんな悲劇は終わりにしよう」
「そしたらやっと、ずっと一緒の時を過ごせるよ」
「悪いけど、消えてもらおうか。青紫垣の御舟――神を欺き、ゆうを殺した組織の人たちには」
僕が腕を天に掲げると空から世界を劈くような雷鳴が轟き、莫大な熱量が地上に降り注いだ。
「そういえば、ミョルニルハンマーの使い手、雷神トールは、女装をすることでミョルニルを使いこなせるようになったと言っていたよ。もちろん、君の美しさとは比べることはできないけど」
「あら、お上手ですね」
「これで、悲劇は終わりだ」
これからは、楽しい日々が続くだろう。
だって、考えてみるだけで楽しくなってくるだろう? こんなにかわいい男の娘との生活なんてさ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
こちらを先に選ばれた男の娘マスターな方は是非「優奈編」も読んでみてください。
これにて『夏菊 小説版』完結となります。最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました! ご意見・ご感想頂けると励みになります。次回作の参考にさせて頂きます! 評価も頂けると泣いて喜びます!
是非、番外編 回想&後日談もご覧ください。
おかげさまで『夏菊 小説版』のPVが現時点で963アクセス頂いております! 自分の作品がこれだけの人に見てもらえたことは初めてなのでとても感動です。1000アクセスに達しそうな勢い……
いえ、番外編も合わせればもう1100PVを超えているんですよね。本当にありがとうございました! 皆様のおかげです。
次回作も楽しみにしていただけると幸いです!
渡会ライカ(Twitter @Laika_50NM)