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清明様の憂鬱ネット小説大賞六   作者: @のはらきつね
44/72

清明様の憂鬱水べの夢をこの頃見ない㉓

 「なぁ、これを食べるんじゃ わかるか?」 


 小さな葛葉の一番古い記憶は清明様の真剣な顔だった


 言われた通りにしていると元気が出てきたので裸足でパタパタ忙しく周りを探検した


 暗い物置の中には長持ちがたくさんあってたいていが空だったが時々宝物があった


 煤ボケた真鍮の火鉢をごしごし磨くと鏡みたいにピカピカになったし箱の隅に転がっている


さびたぎやまんのグラスは磨くとびっくりするほど光って綺麗だった


 それは長いこと葛葉の宝物になった


挿絵(By みてみん)


 今考えるとエルメスのカップより上等に思える

 

奥にはたくさんの本があった 字は分からなかったが挿絵がついたものもたくさんあって


 それを見るたびにドキドキした


 一人だったがそれが当たり前で寂しいという概念を持っていなかった


 夜になると窓の外をいろんな者が通って行った たいてい急いでいたり何かに浮かれて自分には目


もくれなかった もしかしたら清明様が張った結界のせいで見えなかったのかもしれない


 ある日青い煙がフワフワ入って来たので葛葉は慌てて隠れた


何か来る  葛の葉はそう思って顔をあげた


  突然蔵に青竜がやってきたのは一人で本を読んでいた時だった 


 葛の葉はユラユラ揺れていた蝋燭を 吹き消して 長持ちの影に隠れた

 

そのころには 簡単な幻術ができたし 人間が第6感と呼ぶような力もあった


長持ちの中に隠れなかったのが それが いいものか 悪いものかわからなかったからだ.



葛の葉の目は明かりなしでも見えるし 隠れた場所からは 葛の葉がよく磨いた真鍮の火鉢がピカピカ


光ってそれに映った煙はすっと立った青年の姿になり


「心配しなくていい 俺は清明様のお使いだ」と言ったのでおそるおそ


る顔を出した それが青龍との出会いだった.


挿絵(By みてみん)





髪が長いせいか女の人の様にも見えたしこんなに綺麗な妖怪は初めて見たと思った


 「せーめー様のお使い」葛葉が顔を出すと「そうじゃなきゃ 結界を破れないだろう」と言って


にっと笑った 笑うと犬歯が膨らんで幼く愛嬌のある顔になった  


青龍は字を教えてくれたり本を読んでくれたり優しかった 


葛の葉胸に青い星がともった


 そのままだったら確実に王子様になっただろう


事実 しばらくの間 青竜は 青く輝く星のように葛の葉の心にたゆたっていたしかしそれが儚い夢


だと気づくのに時間はかからなかっただった青竜は気まぐれで不安定で話すことは60パーセントくらいの


割合は嘘で紛らわしかった


 悪質なものでは なかったが実にくだらない嘘をや知識を教えこもうとしたりたまに持ってくるお土産


は呪われた人形や引っこ抜くと悲鳴を上げる植物や世にも恐ろしくいまわしく呪わしい絵のついた着物な


どで葛の葉を怖がらせた

 

清明様が来たとき字を覚えたと言うとカードをくれた 


印を結ぶと 薄くて透き通ったペタンコの人が来て本をおいていく


自分の訪問者はそれだけだった


 だがある日 (何か来る)違うものの気配を感じて葛の葉は顔をあげた


二番目の訪問者は空からやって来た


 烏のような嘴をした顔 黒い羽毛に覆われた体を持った大きなカラスだった


バサバサっと音がして 窓の端からそっと覗くと黒く艶めいた羽が見えたときその美しさに思わず息を


のんだ


 それが体全体に流れるように綺麗に整えられて広がり 力ずよく収縮したり 広がったりして 果てし


なく自由なぬくもりを感じさせ それでいて 何の苦もなく操作できる大きな羽は広がる大空に浮かぶ喜


びを備えなおかつ機能的で幾何学的だった


なんて 素敵なデザインなんだろうと葛の葉は思った


 大きなカラスは 眼光が鋭く天狗の顔に似ていた優美な羽の動きに葛の葉は隠れるのを忘れてしまっ



 本で見たことあるこれはカラス天狗と言う者だ


「お前は だれだ」 カラスが聞いた


その時初めて カラスが結界を気にせずに ここまで来たことに築いた


 それに 天狗の仲間なら悪いものではないはずだ 天狗は天や山を守るものだと聞いたことがある


「わしは葛の葉 あなたは せーめー様のお使い?」 葛の葉は聞いた


 「せーめー様?」 カラスはしばらく考えこんだ様子をした


「陰陽師の清明様じゃしらんの?」 と聞くと 


「ああそれなら 知ってる 中に入ってもいいか?」


 葛の葉はしばらく 考えてから うなずいた


  カラスはいきなり万力のような力で葛の葉の顎をもって顔を覗き込んで言った


「お前はいくつだ?」


「しらん」葛の葉は涙がにじんでくるの感じた 相手の眼が怖かったからだ


「ふん」カラスは乱暴に手を離した  葛の葉はひっくり返って動けなくなった


 「お前 一人か?」 「これから清明様が来る」とっさに嘘をついた


「そうか じゃあまた来る」カラスは意外にあっさりと出て行った


式神を飛ばしたのに 清明様はなかなか来なかった


 不安になってきてそれを紛らわすため長持ちの中で本を読んでばかりいた本にのっていたお札を自分で


作って隠れる場所も作った 

 

カラスの羽音が近くなるとじっと隠れてやり過ごした


そしてやっと清明様がやってきたがお札をべたべたはって帰ってしまった


  初めて一人が怖くなった


それから また季節が 過ぎて ある日人間の子供が顔を出した


(どうせ人間には見えないんだ) と思ったとき 「お前 誰だ 」 その子が言った


葛の葉は考える


思い出したくないが 考えずにはいられない


 あの人にはどうして私が見えたのだろう


自分たちは すぐに打ち解けた


 素直で 正直で 勇敢だったあの人は自分を外に連れ出してくれた


 それから世界は大きく変わった


金の時間 銀色の景色 


あの頃はなんで すべてがはっきり くっきりと鮮明になっていたのだろう


 気持ちは毎日夢を見ているようだったのに・・・・


 夜にこっそり野原に行くと 疑いもなく素晴らしものが確実に単純にそこにあった 


春で林檎の木が 空いっぱいに 白い花をまき散らしていた


 新芽の匂い きれいに洗ったような月の光


何もかもが 新しく 嬉しくてあの人は何でもよく知っていて色々なことを教えてくれた


 自分が 見えてよかったと言ってくれた


嬉しくて涙が出た 

 

でもそれは間違いだった 喪失の始まりで予言だった


しばらく考えてから お母様にはすべてを話そうと思った  


また 喪失するかもしれないが 胸を焼く炎が消えてくれないとすぐに生きていくのが嫌になるだろう


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