清明様の憂鬱 水辺の夢をこの頃見ない⑱
不愉快極まりない汚水をぬけてとにかく病院に行かねばそうだ箒を使おう
後ろで ひどい音楽が聞こえた だんだんだん 太鼓の音だ 地鳴りみたいなでもしっかりした音だ
「なんだ」 朱雀と顔を見合わせた
また走って 部屋をのぞいた
朱雀が「あああああ」と叫んで座り込んだ
俺はまた虚脱したと 同時にすましにこんなことができたのかと感心さえ感じた
百鬼夜行なら何度も見たし 参加したこともある
でもこれは異様だ 異質だ 悪ふざけだろうこんなの 「メタタアメタタアワンツー」
スマシたちが綺麗にそろって華麗に舞い 踊りの合間に カエルめがけてキックボクシングを繰り出し
ている
当然カエルの下には目玉が無くなった二人がいる
もういい とにかく 病院へ行こうと思ったら どんどんと大太鼓の音が聞こえトランペットが
鳴り響いた
お揃いのユニホームを着たスマシがカエルの上を鼓笛隊を組んで通っていく「ううわあああん」 朱雀が
泣き出した 俺だって泣きたい
「泣くな いいか早くしないとどんどん大変なことになるんだ あの二人が気を失っている間に何と
かしないといけないんだ」
朱雀は うぐうぐ と喉の奥に昆虫が詰まったような声を出して泣きやもうとしている
「お前 箒に乗れるか」べそをかいている 朱雀に聞いた
「ごめん まだ乗れない」ひっ ひっ っと引きつけを起こすんじゃないかと思うよな声で朱雀が言った
「だいじょうぶだから 二人乗りでいこう」言ってから 頭の中はほとんど混乱とパニックだったが 一
部だけ澄んだ部分があって 何か訴えている
なんだろうそうだ まだ 問題がある 空が濃淡のぼかしをかけたようになっている
俺の頭の中にも硯をすっているひとがいるみたいだ
静かな規則性をもってそのたびにまた逃避の願望が来る
いけないいけない 頭をふって 朱雀をみた
朱雀は世の中に 俺しかいないような目をしている
こいつを 今 見放したら 絶望と孤独の中で 滅びてしまうだろう
それに俺もまだ力はない ここは当然のごとく力を合わせなければならないが
とても気まずいが大きな問題がある こいつが白虎と結婚したことをキッシーに知られたらすべては終わ
りだ
アイツのプライドは高いし、白虎への執着はとても強い
こいつの知能がいくつくらいなのかわからないが説明しないと
「朱雀 重要なことがあるよく聞いてくれ」
「まだ 重要なことがあるの?」 朱雀が言った
「うん あのな お前と白虎が 結婚したことは内緒だ キッシーにもまわりにもだ」
「なんで?」 朱雀が不思議そうに聞く
「うーんと」 いいよどむと「キッシーは白虎殿が好きなの?」朱雀がさらっと言った
「そう 周りも全部だ 胸キュンなんだ」そうだ小さくても女の子のほうが理解が早いんだ
こういうのきっと そうだそうだそうに決まった
「周りも全部?」 そうだそうだ 問題はそこだ 「蜂の巣みたいなかんじで」 何でだかそんな言葉が
出た 「キッシー 蜂の妖怪なの?」 朱雀がまた言った
「そう スズメバチ あそこスズメバチの巣なんだ そんでもってキッシーが女王蜂で一番偉くて だれ
も逆らえないんだ」
「キッシーが 女王なの? 男なのに・・・・」
「はは、は 蜂に男も女もないだろう そんでもって 白虎を王様蜂にしたがってる だから お前が
白虎と同じ部屋にいることとかい言ったら大変なんだ わかるな」
「ごめん 全然わかんない」
空が また暗くなっている
「とにかく行くぞ 詳しいことはあとで言う いそがなきゃ」 箒にまたがると朱雀も後ろにまたがった
そういえば ここ数日スマシが チアガールの衣装でバトントワリングの 練習をしているな
と思っていたが あれは抗議運動の一部 で スマシ春闘 だったのだなと気づく
大人だったら 気付けただろうかとかまた余計な事を考える
いや無理だ 豚肉と眞露を切らすとスマシが意味の分からない行動
を 起こすの知っていたが ここまで悪化したのは初めてだし 白虎だって 清明様だって気付かなかったじゃないか
現実をみないと今一番大事なのは急ぐことだ 二人は死ぬことがないが
永遠にすましのパレードと偽物のカエルと謎の生き物下で汚水にまみれたままだ
うう 思い出すだけで気持ち悪い ぬめぬめのあの卑怯な体液を放つ糜爛した生き物
色々想像するのは無意味だ やめようとか思っている最中に 朱雀がえぐえぐと変な声を出し始める
「せ、せいりゅう」朱雀が 水着の上に羽織った俺のパーカーで顔をこすり始めた
「ヤメロ こら」 「き、気持ち悪い、はきそう」
「俺だって気持ち悪い 我慢しろ変な生き物なんかたべるからだろう」
「こんな中に吐いていい」 俺のパーカーの 頭にかぶる部分フードを引っ張る
「ダメに決まってるだろう この野郎 」
「 なんでそんなことゆーの」 「何でって何で そんなとこに吐こうとするんだ おかしいだろう
それにそんなことしたら白虎が連れていかれるぞ 」
「なんでえ?」
「俺がいろいろ言いつけるからだ」
「なんだと この卑怯者」 朱雀が後ろから 首を絞めた。
「ヤメロ 墜落する」
「こうなったら お前も道ずれだ」 朱雀が言った
「それに キッシーはともかく周りは何で白虎殿をつれていきたがる?」
この野郎ほんとのことを言わない俺の優しさを踏みにじりやがって
(ホモだからだ) 答えは単純明快なので言ってやりたい
でもそしたら きっと ホモの説明をもとめられる
そして俺まで気分が悪くなる なんて大人は汚い 世界は薄汚れて腐っている
でも キッシーは 金持ちでカルビをおごってくれる。
ウロボロスじゃなくってメビウスの輪ってこういうことか?
「わかったいいつけないとにかく放せ 」
「ちゃんと説明しろ」 朱雀の手が離れた。
「えーっと あいつは ローヤルゼリーを出すんだ 」
「ええ、白虎殿が そんな技がつかえたの?何でいわないの」
「人間に 出したってしょうがないだろう 」
「どっから」
「尻」
「ほんとに・・・・知らなかった」考え込んでいる よかったバカで と思ったのも刹那
バサバサ羽音が聞こえた 朱雀が振り返っていった
「せーりゅー あのカラスがまた来たぞ」「まったく しつこいなー」 このしつこさは たぶん俺に恨
みを持ってる奴だが思いだせないその時まだポンポンに張っている朱雀の腹を見て思いついた
「朱雀 後ろ向け」
「ええ 余計きもちわるいよ」
「思いっきり 吐いていいぞ」 「ええ」
「あいつ 斜めになってるだろう さっきのお前の矢がきいてるんだ そこを 狙え思いっきりいけ」
「ええええ そんなうまく 当たんない」
「 いいか ああいうタイプは 弱いものにはめっぽう強いんだ 俺たちが子供だと思ってウキウキし
てる だからしつこいんだ 捕まったらひどい目に会うし 戦ってる暇はない
飛び道具はそれしかないんだ 白虎連れていかれてもいいのか それにプールのことで怒られるのはアイ
ツだぞ」
「ええ もう会えないの?」
「そうだそれに あの偉い人を怒らせたら あの屋敷自体が無くなるかもしれないあの汚い水で流れて
流れ解散だ」
「えええええええ」
青竜は印を結んで 紙パックのオレンジジュースを出した
このくらいは 確実にできる
「朱雀 これ飲め」 濃縮100%のオレンジジュースを出した
「えええ 気持ち悪い」
「頑張れ 屋敷と 白虎のためだ のんだらなるべく近く見ろ 近くを」
「うう」 朱雀が泣きそうな顔になった
「お前 遊びじゃないんだ まけるな 屋敷のピンチを 救うんだ」「わわわかった うう」朱雀も
覚悟を決めたらしい うげ うげ うげ 真剣に口に指を突っ込んで 胃のあたりを殴ったり押たり
している 「吐け 吐くんだ ジョウウウウウウウ」 言ってやった。
だがなかなか吐けないらしく 苦しそうに目を白黒させている
こっけいか可哀そうに見えたが これはれっきとした真剣勝負だ
俺は思いついて 小さな塊を出した
「それ食べてみろ」
「なにこれ マグロから ほんの少ししか取れない一番いいとこだ ぱちってきたんだ 」
「だって岩みたいに固いよ」
「今柔らかくしてやる」 術をかけた
「くさっ、くさい、くさい」
「珍味ってそういうもんなんだ 大人の中の大人が食べるんだ 早くしろ あいつが来るぞ」
カラスが スピードを上げ始めた
「まけるもんか」 いいながら朱雀が 鼻をつまんで ごっくんと飲み込んだ
とたんに 体が冷たく なるのわかった
「それから いいことを教えてやる それがくさいのは珍味だからじゃないんだ 俺が冷凍して忘れて
漁に出たら 葛の葉がもったいないってコンセントを抜きやがったんだ 」
「それって いつのはなし?」朱雀が 苦しそうに言った
「3年前だ」
「ぎゃあああ おおおおお お前 よくもお」
「その悔しさは俺じゃなくて アイツにぶつけろ」
「食らえ 忍法 うっげげげっげ うま、まうままっま ままああああマーライオン
「どげえええ」わけのわからない音とともに大量の吐瀉物が正確に相手の羽の傷に襲い掛かった
しかもペデグリーチャムの様にぎっしりと身が詰まっている
「ぎゃああああ」これには相手もたまらずバランスを崩してあっという間に下降した
「ぜえ ぜえ ぜえ」 自分の背中に もたれかかって 朱雀が荒い息をしている
「やったぞ 朱雀 アイツをやっけった えらいぞ」
返事がないので 後ろを見て後悔した 朱雀は 普段の姿では無くなっていた
全身が まだらになり 半分白目で目を見開いて開いたまんまの瞳孔が開きっぱなしになっている
しかも色とりどりの吐瀉物にまみれ半死半生の状態で異形の者のようになってしまっていた
意識があるのかわからないが 当分声をかけるのはやめておこう清明様の時もそうだがこういう時って
なぜか神妙な気持ちになったするのははっきり言って見たくない 考えたくない
夢想 無念と言うのは 悟りの境地だと言うけれど同時に究極の現実逃避なんだと気づく
ますます 蒸し蒸してきた空に向かってできるだけスピードを上げた
ついてもこのままだったら幻術を使って 元にもどしてやらねば こんなんじゃ白虎以外誰も同情して
くれないだろう 白虎はすごいな こいつや大入道の世話を普通に淡々とこなしている
それともなんか脅迫されてるのかいやこいつにそんな企みはできないはずだし全裸の写真やカレンダーが
普通に売り買いされている それも細部にわたって拡大されてあれ以上に隠すことがあるのか?




