清明様の憂鬱 水辺の夢をこの頃見ない⑧
車を走らせていた葛の葉は 後ろからたくさんの熱気と 轟音が近づいてくるのを感じた
「来たぞ」 「ああ」 朱雀もすぐ 気が付いたようで 後ろを見ている
葛の葉 が まず感じたのは目的意識だった
その徹底ぶり 無駄のなさ 集中力は今まで感じたことがないほど強かった
(相手は 全力で 自分たちを殺しに来ている) 正体はわからなかったがそれは強く思った
それ以外は何も考えていなさそうだ
「すごい殺気だな」言った朱雀に 「いいか 絶対に生きて捕まるな」 それから結界を強化した
あいてはすぐに現れた
「すごいぞ すごいわかりやすい悪者だ 北斗の拳のヒャッハーの軍団だ」
後のシートに身をを伏せた朱雀が言った
「結界に切れ目を作っておいたからな そっから狙え」
一台のバイクが横図けしてきた 「おい止まれ」 あからさまにバカにした顔でニヤニヤしながら言った
「ちょっと 道に迷って 通してくれないかしら」 葛の葉が柔らかく笑って言った
「そいつはできないな」 まっだニヤニヤしながら言った
殺しになれている
いままで全勝してきたのだ だから 生きるか死ぬかのやり取りをおざなりにしているのがわかっていない
「そう それなら しょうがないわね」 葛の葉が言ったとたん 隠れていた朱雀が車の後の窓から
ぱっと起き上ってショットガンでバイクの前輪をうち抜いた
車輪は木端微塵になりバイクは横滑りして 後ろの車の下に入り込んだと同時に朱雀がガソリンタンク
を打ち抜いた
バイクと 車は炎上したが 朱雀がそこに火炎瓶を物凄い剛速球で投げ込み始めた
「火を絶やすな、 火をおこす、火をたく 体を温め 料理をする 夜には視力を与えてくれる
創造的で、建設的な反面 破壊的だ 火ははなんだって殺す力がある」 葛の葉が少し火照った顔を
しかめて言った
そしていったいなんだろうこいつらはと考えた
闘争心以外何も感じらない
行動は何かの目的の為に起こすものだがそれが見当たらない
だが彼らには 仲間にしか理解できない秩序がある
広いところで襲われると人は散りじりになりがちだ そうしたら一人になることを忘れてしまう
問題はこの一本道 でも一本道の怖さを葛の葉は知っている
周りは白い煙に覆われている
どこかに、何か仕掛けがあるかもしれない 結界は最強にしてあるがそれで間に合うだろうか
昔もあった いつだったろう 緊張感に耐えられなくて 何人も切腹してしまった 思い出せるのは
あの残忍な空の色だけ その時「葛の葉」 朱雀が叫んだ
大きな丸太が降ってきた あっという間だった 一部は結界を破り 破片が飛んで葛の葉の顔の横に当
た跳ね返った 原始的だが合理的なトラップだ
「大丈夫か」 朱雀が言った
「なんでもない」言ったが 耳の一部が無くなったようだ
血止めの気を送り 手拭いでぎゅっと縛った トラップがある「また来るぞ」
次に隠れていた男を見つけると 朱雀がショットガンを立て続けに打ち込んだ
至近距離からだったので、男が粉々になるのが鮮明に見えた 死の瞬間でも感情も痛みも見当たらな
かった
「朱雀運転を変われ」朱雀が滑り込むように 運転席にもぐりこんだ
トラップはたくさんある これが奴らの自信になっている
葛の葉は助手席にたくさんの武器を置いてやってから 集中して 印を結んだ
(快眠を惜しみて現に言いい離してして再び熟睡せり豪放なる平常を織りければければ慎重厳粛なる音調
を持て)
今待ち伏せているものは呪文きいていれば眠っているはずだ




