清明様の憂鬱 第四章 水晶の廊下③
書き直しました
男は中にいた
食事や入浴など人間らしいことは何一つしていないように見える。
そして、 まる一分ほど返事はなく波様を凝視していた。
その横には切り刻まれた死体の山があった。
男はこれをモデルにしていたのであろう
やがて声がした。
奇妙で低くもつれた声で「あなたは」といった。
波様は答えず男を見据え、まったく突然に反対側の窓がいきおいよく音を立ててあき
月光と光る、冷たい吹雪のような水晶が吹き込み陰惨無残な床を隠した。
それはある種の弔いのように見えた。
男はそれでも懸命に近寄ろうとする。
が波様は凛として少しも崩れる様子も見せずに立っている。
その自信に満ちたこの世ならぬ美しさに、悪鬼のように痩せて汚れた男は
まったくの無力だった。
男の足元に透明なすんだ水があふれみるみる部屋に広がった。
近づけば近ずくほど小さくなる男はやがて黒い鯉に姿を変えて足元に来ると
それを見下ろして白い指を伸ばした。
その肩に、髪に惜しげもなく雪のような水晶が降り注ぐのを気に留める様子もなく
「そう、あなたは必ず後世に名をのこすでしょう
でも、それを見ることはできないのです」
いいながら細い爪でずるずると目をえぐってしまった。
「それが、あなたの罪業なのですからねぇ」と言ってにっと笑った。
魚は力をなくしたように沈んでいった。
「朱雀」振り返りビニールの中の魚も同じようにした。
黒い魚たちはすんだ川を上がっていき、波様が唖然としている、二人を振り返り
「ご苦労でござんしたね」言いながら水の上をすいすい上がり人の形が
かすれてなくなるまで動けなかった。
後になって白虎に、尋ねたところあのあと、玄武様を地下牢に入れて戻ってくると
青龍が倒れていたらしい
目の下にクマができている。
「お前ずっと寝てないんじゃないか?」白虎が聞くと
「そういえば、そだな」と目をつぶったまま言った。
「もう大丈夫だ」と言って布団まで運んでやると
「白虎」とぼそっと言ったので
「なんじゃ」と返すと
「朱雀と離婚したら結婚してくれ」と言ったきり寝込んで一度も起きてこないらしい
帰ってきた、朱雀と葛の葉もしばらく放心状態だった。
「あれはねえ」
「すごかったな」
月光の光輝にしっとりと濡れて降り注ぐ神聖な水晶の輝きの快さを忘れられず
二人は水晶の中にいた。




