清明様の憂鬱 第三章②
「 ごめんなさい 役立たずであなたを走らせるなんて」ハンカチを握り締めながら葛の葉が言った
(あやまんならそっちじゃないだろう)と思ったがもうさんざん泣いて誤っている相手に怒ってもしょう
がないので黙って車を走らせた。
帰ると見た事のない女の子がニコニコしながら出てきて「おかえりなさい」と言った
その声を聞いてひっくり返りそうになった。
それは朱雀だったいつもは朱色か赤の着物とはかまで真すぐな髪をたらしているのに、淡いピンクの
セータを来て茶色の短めのスカートをはき 同じ色のタイツをはいて髪はゆるめの三つ編みにしてい
る。
「 ささ はやく」
「どうしたんですか」 思わず言うと 笑顔が消えて
「似合いませんか やっぱり」 としょんぼりとして下をむいてしまった。
「いえ、似合いますよ」
慌てて言うとパッと顔が明るくなって「本当ですか?」と言って顔を覗きこん
だその顔がものすごく可愛かったので
「すごく似合います」 もう一度言うとにっこり笑った 。
夕食が終わって、部屋に帰ろうとすると
「ああ今日からこちらへ」朱雀が言って客間に連れて行かれた。
「何ですか?」と言うと「明日部屋をお掃除しましょう それまでこちらへ」
実は白虎の部屋はものすごく汚いので、それでらしいが、 またもものすごい温度差を感じた
フワフワしたピンクのセータの 朱雀が心配そうな顔になった 。
こうしてみるとただの小娘にしか見えない、なにか悪い気がして手をひかれるままついて言った
急におしゃれになった二人に腫物のように扱われながら2週間がたった
「今日は、診察の日ですわね、一人のほうがよろしいですか?」 葛の葉が言った。
「はあ」 なんだかもうどうでもよくなっていたが次に発せられた言葉にぎょっとした
「あのシャワーを浴びて言ったほうが・・・・・」
「は」
「だって触診とかありますでしょう」 葛の葉がちょっと顔を赤らめて言った 。
「触診てこないだやったでしょう?」
「それはそとがわからでしょう、ですから内側からですよ」
「ああ」 そういえばそうだ、地面に吸い込まれていくような心持がした 。
「男同志ですしね、相手はプロですから気にすることありませんよ」
「ゼーンリツセーン キュキュ キュキュ キュキュット」
スマシが変メロデイで歌ってクルクル回った 。
「あんたたちやめなさい」葛の葉が言って近くにあった、果物ナイフを投げた。
一人に刺さって「キュ」と言って倒れた
他のスマシが引きずって逃げていった
「すぐに蘇えりますから大丈夫ですよ」葛の葉が笑ったが聞こえなかった
(そうか そういう気遣いか?)
自分はまだこの事態を受け止めてはいない当然とも愚かしいとも思えたが事実は確かめなければ一人で
行くと言った自分をニットのワンピースに長靴みたいな短めのブーツを合わせた朱雀と紺色の細いストラ
イプに シームの入ったストッキングとパンプスを履いた葛の葉が見送ってくれた。
「気を付けて」 と言って広げた朱雀の手が絆創膏だらけなのに驚いて
「どうしたんです」というと「稽古しすぎちゃって あはは」と笑った。
教わったようにエレベーターのボタンを押す ドアが開くとこの間の医師が立っていた。
確か岸先生・・・・
「時間ぴったりだね」今日は全身に理知的なオーラをまとっている そういえばこの間は気づかなかった
がここはやけに静かだ 。
部屋に入ると変な椅子があって下着を脱いで横になるように言われる
「はあ」しぶしぶうなづくと
「緊張してる?」と聞かれた
「はあ、少し」
「自分には毎日のことだから、でも男の患者は珍しいがね」 いかにも楽しそうににっこり笑った 。
「はあ」
「ああ、気を悪くしないで、緊張するなら外でいようか?」
「いえ、大丈夫です」といいつつ下着を脱ぎ寝そべった。
医者が足を触って「思いっきり力が入ってるんだが」 と言って
「ちょとリラックスするガスを吸おうか」 言って例のシャシャシャという独特な声で笑って
鼻にチューブを当てた。
その笑い声とともにまとっていた理知的な雰囲気はあっという間に飛び去った
そして以前に感じたみだらで動物的な感じが待ってましたとばかりに吸い付いてまとわりついたように
見えた 「笑気ガス、楽しくなるはず何か楽しいことを考えて」
(さあ、何をして遊ぼうか?)と問いかけるみたいな表情で言った 。
痛かったら言って」言いながらクツクツ笑っている声がする
ガスが強くなったような気がして非現実的な感覚に襲われた
それでもがんばって耐えているうち、なんでか頭の中で確信に満ちた声がした
彼はあまりいい人間じゃない 何でだ?
なぜならこの治療は度を越えてないか?
時間がかかりすぎてないか?
それから相手は楽しんでないか?
「あの こんなに時間がかかるものなのでしょうか?」
頭が重たくしゃべるのは苦痛だった 。
「もうすぐだから心配はいらないが、この格好じゃ時間が長く感じるんだろう」
確かにこれは想像以上だったが、それにしても、いや思い過ごしだろう
「もう一本注射をしとこう」言って腕ががちくっとした 。
朦朧とした視界に顔が見えた、物凄く邪悪な笑顔に見えた
それから何もわからなくなった 。
「大変だ、式神が来た」朱雀が慌てふためいて走ってきた
「どうしたんじゃ」 「読んでみろ」
葛の葉は式神を読んで顔色を変えた。
「いいか、逃げるぞ、時間がないここからトンネルを作る、その間集中しなければならん清明様に説明し
てこい 荷物は作ってあるな?」 朱雀がうなずいて走って行った。
「清明様」部屋に駆け込んで朱雀が言った
「こら、ノックぐらいしろ、って何だお前そのかっこは・・・」 朱雀はぴったりとした黒のセーターに
黒のパンツをはいている「一回しか言わないのでよく聞いてください」
「なんだ」
「休暇をいただきます、1週間ほど」
「別にいいが、何じゃ急に」
「ちょっと出かけてまいります」言いながらホルスターを装着し始めた。
寒気をともなう物凄く嫌な予感がしてきたが聞いた
「ちょっとまてどこにじゃ」
「コロンビアです」
「は」
それから朱雀はクリニックに白虎を連れて言ったことを言った。
「まさか、あの息子に見せたのか?」清明が青くなった 。
「そうです」
「あれは物凄いホモじゃないか」
「知ってます、でもプロです、それから白虎殿は逃げたそうです、ものすごく強い薬を使ったのにかかわ
らずそっちのほうが問題です」
「何でじゃ」
「あの、ボンボンの後ろに誰がついてるか知っているでしょう」
「あ」 清明がへなへなと崩れ落ちた 。
「だから武器の調達に行ってきます 幸いコネクションがありましたから」
「お前は、陰陽師の式神だろう、何で南米の闇ルートとつながってる」
「時代とともに状況は変わります、使える手駒は出来るだけ確保しなければ、それからどうしても必要な
ものがあります」
「なんだ」
「 ナパーム弾用の消火剤です」
「ナパーム?」
「相手は今ナパームをつかってくるそうです、初期に開発された火炎放射器状のもの
ではなくナパーム弾の充填物ゼリー状で張り付い身体や木材が灰になるまで消えません
水をかけても消火が困難で燃え続けます 消火するためには界面活性剤を含む水が必要です
すばやく消さないと一酸化炭素中毒死に至ります もちろん対妖怪用です」
「ちょっと待て何でそんな話になる」
「もちろん攻めてくるとは限りませんが 相手は、最強です
最悪の場合を想定して準備をしておかなければ この屋敷がなくなるのに1時間とかからないでしょう」
「戦いを回避する方法はないのか?」
「私たちが留守の間 あの先生の好みにぴったり合った。変態を投下しますそれが成功すればなんともな
いでしょう
この戦いはオール・オアナッシングです、あと白虎殿は薬を打たれて別人になっております
地下に葛の葉が結界を張っておりますので清明様も地下に隠れてください、正気に戻ったら記憶をすり替
えておいてください」
「あいつはどこだ」言ったそばから 「できたぞ、早く来い」と叫ぶ声が聞こえた。
朱雀が「それでは行ってきます」と言って走り出した
清明もその後をおった。
へやの奥にまっ黒な穴が開いていた その中からごうごうと風の音が聞こえる
「早くしろ」葛の葉が言って、 朱雀が穴の中にスーツケースを放り込んだ
清明を見ると「清明様も早く非難してください」と言った 。
狐ではなく狼のような冷静で知的な目になっていた
「これは、ただの予防線です、最悪の場合に備えておくだけですから御心配には及びません」
「そうなのか?」
「もちろん」 葛の葉はもとの孤独で寂しい自分を守るつもりはなかった
「清明様もこの屋敷も私の全てなのですよ」
「行くぞ」朱雀が言って穴に飛び込んだ
「それでは行ってまいります」葛の葉も飛んだ、それからシュッと言って黒い穴はぴったりと閉じた車
の音が聞こえたような気がして 清明は地下に走った
地下には夜行性の妖怪用の部屋がたくさんある
時々黄金色のかけらが通りぬけたりちらばったり不規則に運動するほかは静かで意味の分からない顕微
鏡(顕微鏡)をのぞいているようなイメージだったが、そこも大騒ぎになっていた
あっちこっちに、狐火や人魂が燃え盛り、昼間はうつらうつらしているだけの妖怪たちが右左さおうして
いた.
清明を見て「清明様」とみんなが近寄ってきた
「どういうことなんどす、何が起こってるんどす」 絣の着物を着た女が近寄ってきた。
「ああお六さん、久しぶりじゃな」 言いながら清明はできるだけ不安感をあおらないように説明した
そのそばから上の階でどかどかと音がする、たぶん何かにぶつかっているのだろう
「こうしてはいられない」何人かが走って行ったがたぶんどうにもならないだろう
大体 、有能な戦闘用妖怪は朱雀と白虎だけで最強の戦闘と幻術を使える青竜と玄武は鉄砲玉よろしくす
ぐどこかに行ってしまう
清明の記憶では 地下にいるのは、小豆洗いやすましのような人畜無害の人材だけのはずだ
「取りあえず、青竜様と玄武様に式神はとばしたんどすか?」とお六さんが聞いた。
「ああしたが・・・・」
後ろからズシン ズシンという音がして
「清明様 もう安心です」 ハアハア息を切らした からかさお化け達が現れた
「なんじゃ、それ」 みんな銀色に輝いている。
「これで 防御はかんぺきでさ 鉛とか銀とか塗りつけましたで、わしらが屋敷の周りをおおてしまえ
ば、爆弾だろうが ナパームだろうが はねかえいしまさぁ」
「お前ら中身は紙だろう」
「大丈夫、コードネームはフルメタルジャケットでさあ」
ズシズシいいながら傘たちは階段を上がろうとした 上の音が大きくなった
どんどんどんふぉんどん
「なんださあ」 先頭の傘が頭を出して覗こうとしたとたん
バランスを崩して後ろにのめった。
「あああああああ」 そのまま、ドミノのように傘たちが階段から転げ落ちた
下の者は意識を失いだらりと舌をたらしたまま白目をむいている、 上の者も自分の重さを支えきれずう
なっている
「あ、でもバリケードになってますぇ」お六さんが言った
階段の下では、鉛の傘がうんうんうなりながら山盛りになっている
「誰も出られなくなっただけだろう」清明は言った 。
その時「犬を使いましょう」言ってアポロのような青年が現れた
「誰じゃ」清明が言うと
「わしですわ」 とつるんと顔をなぞった、顔がなくなった。
「ああ、むじなの・・・・」
「はい、この先の妖怪銀座で営業させてもらってます真面目にうどん屋やってます、この格好なら、あの
先生も 気に入るでしょう」
「ちょっと待ってくれ、妖怪銀座?ってなんじゃ?」
「知りませんでしたか?半年前からありますがその奥にスマシ牧場も・・・・」
「スマシ牧場?」後ろから「ちょっとあんた」声が聞こえた 。
お六さんの首が伸びて、おっちゃんの体をグルグルまきにした上に頭突きを連射した
実はこの二人は夫婦なのである
「あんた変態の仲間にはいんのか ええ?」
「屋敷のピンチや、ないか」 ゴッという鈍い音がして鼻から大量の血が出た。
「ひい、かんにん 清明様犬を・・・・」
見ると普通の顔の人面犬が並んでいた、しかも小型犬か豆しば位のサイズしかない
「シェパードとか軍用犬みたいのはおらんのか?」人面犬たちが首を振った
人間は驚くだろうがなんの脅威にもならない 。
だしぬけにうんざりして疲れて悲しくなり悲しくなって疲れた
後ろで激しくなった夫婦喧嘩と傘たちの唸り声がする。