1-05 吸血貴族
今日から表題をつけました
馬車の扉の影から見えたのは、黒いチャイナドレス風の服装に、両サイドのスリットから艶かしい太腿を覗かせた妖艶な肢体。
髪は頭頂部の両脇で二つの団子を作り、襟元にグレーのファーを設えた中華風の出立ちの少女。
暗い配色の服装とは対象的に、真っ白な肌は仄かに光っているようにも見え、高貴な雰囲気を漂わせているが、黒く大きな瞳に整った顔立ちでありながら、何処かあどけなさを残す表情が、貴族の長ではなく姫君だと判る。
少女は口許に苦笑いを浮かべて、リリー達一行に話しかけた。
「ごめーん!寝坊しちゃった」
リリー達の周りの空気が、しんと静まる。
「………あら………怒ってないみたいね……」
シリアスな登場から「てへっ」と破顔する無邪気な表情への変貌ぶりに、肩を落として拍子抜けするリリー。
そして、少女は周囲を見回すとリリーに訊ねた。
「リリーさん、まだ依頼の品は届いてないの?ラリーさんも見当たらないみたいだけど………」
「屍体は、ついさっき目覚めて逃げられちゃったよ。お陰でパウリーが死にかけたんだ」
リリーの返答を訊き、パウリーの方を見やると、地面に寝そべり玉兎の太腿の上で介抱されている状況が目に留まった。
「パウリー君!大丈夫⁉︎………ていうか気持ち良さそうね………」
獣人化したパウリーは子供とは思えない程の巨躯で、加えてナース姿の兎獣人に介抱されている訳だから、どう見ても何かのプレイを愉しんでいるようにしか見えない。
そこで、龍弥とミウが呟く。
「うん、気持ち良さそう。俺も介抱されたいなぁ」
「………なんかキャラ被ってる様な気が………」
ミウが初見の少女に、自身と重なるキャラ性からくる危機感を抱きつつ、誰とはなしに呟き、その一方では、玉兎の膝枕で、気持ち良さそうに治療を受けていたパウリーが目を覚まし、飛び起きるようにして馬車から出てきた少女に報告した。
「すいません!ノエルお嬢様!………依頼は完遂できませんでした………僕のせいです………」
「何言ってんだよ!油断した姉の私にも責任があるさね。あんたのせいじゃないよ」
途中厳しい言動でパウリーを詰っていたのとは対照的に、優しい姉の表情で弁明するリリーを、ノエルと呼ばれた少女はじっと見つめ、何か言葉を探しているように思えた。
その表情を察してか、龍弥がノエルに語りかける。
「バンパイアの粛清………」
その言葉を聞いた瞬間、ノエルの肩がピクリと反応し龍弥を見やる。
視線を交わすと、龍弥は言葉を継いだ。
「君は吸血貴族の血を引く者だろ?あのバンパイアハンターの屍体を調べて、突然変異体の事を探るつもりだったのかい?」
「あなたは?」
「あ、失礼。俺は龍弥って言います」
「リューヤ………」
「しがないドラゴンティマーでね。何でも屋みたいなことやってる。
今回の騒動に駆り出されたって訳ですよ」
「竜使い………ですか」
そういえば、という顔でワイバーンを一瞥すると、ノエルも言葉を続けた。
「煌翅族の長から、突然変異体の粛清に際して、助っ人を寄越すからと文が届いていました。
確か、竜使いの不死人だとか………」
「早いね………てことは、もう大分前に連絡してくれてたんだ………長老に余計な約束しちゃったかな………」
「しかし、此度の騒動は我々吸血の眷族が失態。尻拭いは一族がすべき事だと、母様が返答した筈では………」
「やっぱりね。でも、相手は昼日中でも活発に活動できるデイウォーカーだ。貴方達純血のバンパイアじゃ分が悪すぎるだろ」
「私は太陽を友に迎えた、ダンピールです」
「ダンピール………てことは、人間とのハーフ………それが貴族の正式な姫君として迎えられているのか?」
ノエルの言葉に、驚きの声を隠せない龍弥だった。
バンパイア、その中でも始祖の血を引き継ぐ、直系の子孫である吸血貴族。
彼らの中で、稀に人間と結ばれ子を産む女性がいて、産まれた子をダンピールと呼ぶ。
純血種と違い、力の減退はあるものの陽光下でも活動でき、人間と変わらぬ生活を送る事が可能なバンパイア。
しかし、本来捕食対象である人間との間にできた子は、忌み子としてバンパイアからも、人間からも嫌厭される存在である。
当然、貴族の血縁として迎え入れられるなど、まず有り得ない事だから、目の前にいるノエルが姫と呼ばれる事は俄かに信じがたいものであった。
龍弥に対する、ノエルの返答は早かった。
「母は、私を実の娘として認めてくれています。一族の慣習の事も分かった上で、です。だから私は、身を窶す母のためなら何でも……例え汚れ仕事であろうとこの身を賭すのみ………」
感極まってか、ノエルは語尾を濁り詰まらせ、双眸を薄っすらと緋色に染め涙を滲ませている。
その時、馬車の奥の闇から声が聞こえてきた。
「大袈裟ねえ、ノエル。泣き虫なのは幾つになれば治るのかしら?」
小声で囁くような声音でありながら、凛と鳴る錫の音のように透き通る声は、高貴なる歌姫の歌声の如くに周囲へと響き渡る。
その声の主が扉の影から姿を表し、目にした一同は感嘆の息を呑んだ。
「初めまして。竜使いの御一行でよろしいかしら?
私はブランドー家が当主、ラヴィ・ブランドーと申します」
簡素な自己紹介ながら、貴族然とした佇まいから発せられる言葉が、一つ一つ心にまで澄み渡るような、魅惑の声音で語りかけてくる。
加えて、腰まで伸びた艶やかな黒髪に、切れ長でいて柔和な表情の瞳、整った鼻筋や口許に何処かノエルと通じる美貌を感じさせる。
服装も襟元から肩口に広がる黒い羽飾りと、黒くタイトなドレスに身を包み、妖艶さが強調されるスレンダーな体型が、人を魅惑へと誘うバンパイアの女王の風格を備えているラヴィの肢体に、一同は陶然たる面持ちで見つめるほかなかった。
ただ一人、時雨を除いては。
「街では、大変な騒ぎになってますね。彼らに依頼したのは私です。バンパイアに吸血された遺体を連れてきてほしい、とね」
「煌翅族の長老から聞いてるとおり、変異体のバンパイア討伐に、俺たちも加わらせてもらいたいんだけど」
「レオ、ですか。懐かしい名前です。旧友の事を心配して下さるのは嬉しいのですが、これは私達一族の問題。外部の人間の手を借りる訳にはいきません」
「いや、貴女達一族を助けるって訳じゃないよ。そもそも助けなくても大丈夫でしょ。
彼奴らは人間を無差別に襲ってるんだ。どのみち大規模な討伐隊が組まれるよ。そうなる前に俺が専任で今回の討伐依頼を受けるって訳。そうすれば、貴女も余計な気を遣わずに済むでしょ」
「貴方が……なるほど……不死人の貴方なら、人間のように気遣う必要はないと。それに、時雨様も御一緒なら、なおのこと心配なさそうですわね」
「へ?時雨の事ご存知で?」
突然名を出された時雨は、素知らぬ顔でそっぽを向いているが、額の辺りがピクピクと引きつっている。
「ふふふ。ええ、よおく存じ上げていますとも。でも、時というものは色々と変えるものですね。あの聖なる暴君が、今は人間の従魔とは……」
「ま、まあ色々とあってだな……些末な事だが……それより、よく俺だと分かったな」
ばつが悪いとも照れ隠しとも取れる仕草で、時雨が頭を掻いている。
その仕草を見つめるラヴィの眼差しは、優しさの中に何処か哀愁を感じさせた。
「ワイバーンですからね。龍神とは似ても似つかない姿に一瞬我を疑いましたわ。でも、魂魄に懐かしい温もりを感じましたから………」
二人の間になんとも言えない擽ったいような、甘酸っぱいような空気が流れているが、今は風雲急を要する事態のはず。
龍弥は二人に、と言うかラヴィに対し共闘の答えを求めた。
「旧交を温めてるとこ悪いんだけど、取り敢えずオッケーってことでいいのかな?」
「ええ、取り敢えずは…ね。でも、あれは我々バンパイアでも殺せるかどうか……」
「確かに、陽光の下でも始祖の眷族と同等以上の力を持っているだろうから、対応策を考えないと。そこはお互い知恵を出し合うって事で」
「そうですわね。では、続きは私共の屋敷でどうですか?」
「共闘の承諾感謝します。ラヴィ・ブランドー伯爵」
とんとん拍子に話が進んでいたが、ひとつ忘れている事に気付き発言したのは、パウリーだった。
「あ!ラリー兄ちゃんがまだ来てなかった。僕らの囮になってくれてたんだ」
「仲間を三人殺されてるんだ。ギルドの連中は、多分容赦しないよ。それとも、殺してない事を証明できるかい?」
「………」
追っ手のハンターを引きつけるため、13番倉庫前で孤軍奮闘していたラリーの事を龍弥達に伝えたが、龍弥からの詰問にまたも困窮するパウリーだった。
そこへ、リリーがまた助け舟を出すように返答する。
「あたし達が着いた時には、既に殺されてたんだ。結界も半分程が壊されてね。
獣人とはいえ、殺しはあたし達の専売特許じゃない。盗人まがいの事はしても、あくまでも運び屋なんだ」
それもどうかという面持ちで、パウリーが言葉を継いだ。
「あとの半分は僕が壊したけど、大怪我しちゃって、足引っ張っちゃう事になって………」
リリーが事の経緯を説明するが、心情的に彼等がギルドの監視員を殺害したとは思えなくとも、安置所の結界を破り遺体を攫った事実から、殺害の容疑が簡単に晴れるとは考え難い。
取り敢えず、13番倉庫付近の様子とラリーの安否について、龍弥が金烏に確認をとる事にした。
金烏との思念通話は、もちろん玉兎が中継する。
「囮の方は今、強力な捕縛陣に絡め取られとる。ありゃ逃げられんだろうな。ハンターもかなり殺気立っとる」
「追っ手は何人やられてる?」
「気絶させられとるのは四人だな。死人は出とらん。お、爆炎魔術か?捕縛陣の中で殺るつもりだぞ」
「玉兎!其奴らのやろうとしてる事、止めてくれ!」
「オッケー♪」
龍弥の怒号に、玉兎が緊張感のない軽い口調で返答し、金烏の透過眼をスピーカー代わりにして思念波を繋げ、声を響き渡らせた。
「はーい、みんなストップー♪」
周りにいた全員がズッコケたのは、言うまでもない。
◇◆◇
薄暮の刻からすっかり日が落ちた闇夜の空を、まるで地を駆けるように、空を蹴り疾駆する馬二頭に引かれ、馬車が飛ぶ。
背景に満天の星空を抱くその姿は、宛ら銀河鉄道の客車のようである。
馬車の中には、ぬいぐるみサイズのワイバーンを始めとする龍弥達一行と、リリーとパウリー二名の運び屋、そしてラヴィとノエルのブランドー親子が乗車していた。
豪華な革張りのソファーかと見紛う程、優雅な座り心地の四人掛けシートがコの字型に配置され、ゆったりと寛ぐ事ができそうだ。
馬車の外観上の大きさからは想像できない程室内が広い。
シートに深く腰掛け、居心地良さそうに寛ぐミウが、ラヴィに話しかける。
「ラヴィさん、この馬車の中って不思議ですね。見た目よりすっごく広いですもん」
「私の魔力を付与して、空間を広げる術式を施してますからね。ゆったり出来るでしょう」
「はあ、空間拡張の魔術ですか?凄いんですね〜」
感嘆の息を漏らすミウに、クスッと微笑み会釈を返すラヴィ。
その脇で、心配そうな面持ちで龍弥に話しかけるパウリー。
「兄ちゃんは、ホントに大丈夫なんですか?」
「ロウにも進言しておいたから、生命の保証はしてくれるさ。
もっとも、君達が遺体を攫った事に関しては、なんらかのペナルティがあるだろうけどね」
「でも、僕らが人殺しなんかしてない事、信じてくれてありがとうございます」
「囮になって、追っ手を相手に誰も殺してないんだ。一応は信じておくよ」
金烏からパウリーらの実力を聞いていた龍弥は、四人のハンターを殺さずに倒した事に、彼らの供述の信憑性を認めたのだった。 勿論、証拠があるわけではない。
事件性のある遺体を連れ去ったのは、立派な犯罪だ。斟酌すべき事情があれども、然るべき処分が下されるのは間違いない。
ただし、今回の事件は未曾有の災害を齎す恐れが多分にあり、バンパイアの突然変異体を討伐する事が最優先事項である事から、不足している人手の補充もまた急務であり、猫の手でも借りたいのが本音である。
よって、充分な実力を知らしめた運び屋が、件の突然変異体の下僕でないのなら、共同戦線を張らせるのが得策だろうと龍弥は判断し、ロウに進言したのだった。
さて、これから向かう先は、吸血貴族のブランドー邸。
陸路でも行けるが、今回はラヴィの馬車で空路を行く。 入り江になっている地形の岬にあたるところへ、彼等の邸が建っており、いかにもな西洋の城のような建物を想像していたが、木造で大きめの洋館と言ったところか。
部屋数は窓の数で一見すると、二十程だろうか。貴族の邸としてはごく一般的な規模だと思料される。
邸に門番や警備の者も見当たらず、ここに親娘二人住まいと言うのなら、些か広すぎる。
貴族としての地位は然程高くないのだろうか。そんな事に思い耽る龍弥だった。
邸の庭に馬車が降り立ち、一行が玄関に通された時、中から執事と思しき男が一人、客人に恭しく挨拶をした。
「ようこそお越しくださいました。応接間にてお茶とお菓子をご用意いたしておりますので、先ずはお寛ぎください」
客人の出迎えもそこそこに、執事は中へと消えていく。
龍弥達は、ラヴィに促され応接間へと入ると、用意された紅茶と焼き菓子をいただき暫し寛いでいた。
そこへ再び執事が現れ、紅茶のおかわりを勧め終わると、
「紹介が遅れました。私、ブランドー家の執事をしております【セイバス・サンロード】と申します。御用向きの際は何なりとお申し付けください」
と話し、脇へ控えた。
老齢でありながら毅然とした佇まいは立派な執事だが、それがまた違和感を助長する。
これだけの規模の邸に、他の召使いなどが見当たらず、執事がただ一人とはあまりに貴族としての威厳が無さすぎであろう。
しかし、貴族としてのポリシーを強く持つ者は多数いるし、対して、かなりの地位に上り詰めても、そういったメイドや警護を敢えて取らない者が一定数いるのもまた事実であり、ラヴィが特別という訳ではないだろう。
後者は得てして変り者、落ちこぼれなどと揶揄されるが。
その後、別室から応接間へとラヴィとノエルが戻ってきた。
ラヴィが掌大の水晶を携えている。
ソファーに囲まれた中央に古木で設えたテーブルがあり、ラヴィはその先、奥の白壁の近くに位置し、テーブルの上に水晶を置き、傍のソファーに腰掛けて皆を見回した。
「早速ですが、私達が標的にしている突然変異体について、お話ししましょう」
そう言って水晶の脇に黒い小箱を置くと、ラヴィが魔力を込めた。
小箱が薄く青白い光を放ち、次いで水晶から白壁に向かって光が放たれた。
壁には映像が投影され、まるで小型のプロジェクターのようだった。
画面には一人の男が映っている。
何処かラヴィに似た線の細い容貌で、いかにもビジュアル系のアイドルといった優男風だ。
「最初に申し上げておきます。彼、突然変異体は、私の弟でした……」
運び屋の二人や龍弥とミウが驚きの表情を作ったが、またも時雨だけが冷静な表情で頷いた。
「サム……か」
時雨は、さも親しげに愛称であろう男の名を零す。
それを聞いたラヴィが、目を伏せてやや悲しげな表情を見せた。
「ええ、サミュエル・ブランドー。
本来ならば、この家の当主となるべきブランドー家の嫡男。
でも彼は、魔界にその身を堕してしまいました」
時雨は表情を変えず黙したままだったが、おそらく思い浮かべたであろう疑問を、口を開いた龍弥が投げた。
「魔界に?……魔術の儀式か何か……つまり、禁忌を犯したって事?」
「そうですね。彼は我々種族の間で決して犯してはならない事を、実行に移してしまいました……」
「それって、どんな?」
龍弥の質問に、ラヴィではなく時雨が答えた。
「共食いだろう。つまり種族同士で吸血したって事だ」
「ええ、そうです。彼はあろう事か母を襲い、その体から血を吸い尽くしたのです」
種族同士の共食い、とも言える吸血行為。
しかも、自身の母親を襲うなど、人間でなくとも、高い知性を持つ種族ならば、親殺しは重大な罪と認識しているし禁忌であろう。
しかし、禁忌を犯した事が何故突然変異体への変貌に繋がるのか。
その事についての説明を、龍弥達は固唾を呑んで待った。
「種族間での吸血は、猛烈な拒絶反応を呈します。人間でいうところのアナフィラキシーのようなものです。血縁が近ければ近いほど、拒絶の度合いが強く、大抵は死に至ります。
しかし、稀にそれを克服して生き残る者がいて、それが突然変異と呼ばれる者となるのです。
この時、体は大幅な変異を遂げているようで、陽光下でも活発に活動できるようになるのですが、反面、より多くの血を求めるようになります。
種族を問わず、精気を伴う生き血への渇望と、そして吸血の際の快楽に耐え切れず、やがて精神を崩壊させていくのです。そうなっては、もはや高潔なる我が貴族とは言えず、血に飢えた怪物、ただの吸血鬼、それも恐ろしい力を持ったアンデットと成り果ててしまう……放置すれば、世界にとって必ず大きな災厄となるでしょう」
「なるほどね。でも、当の本人は一切血を吸ってないみたいですよ。下僕の連中は、自我を失って血を求める亡者に成り果てたみたいだけどね」
リイシャやミウから聞いた話によれば、突然変異体と思われるバンパイアの中で、全く吸血行為が認められなかった個体がいたという。
ラヴィがいう、共食いによる拒絶反応の影響で発生した突然変異ならば、大量の血液を欲するはずだが、その点で今回の者と差異が生じてしまう。
この点に関し、ラヴィが見解を述べる。
「バンパイアである以上、吸血は必須の行為です。人間でいえば食事を摂るようなもの。大なり小なり、必ず吸血しているはずです。でなければ、バンパイアとして強力な力を得るなどあり得ません」
そのラヴィに、龍弥が疑問をぶつける。
「バンパイアの中でも、あなた方みたいに殆ど吸血を行っていない者もいるでしょう?」
「貴族と呼ばれる者達は、生き血を摂り入れなくとも生命を維持することは可能です。代わりに、大幅な力の減衰を伴いますが。
バンパイアという種族の特性上、力を維持するためには必ず多くの血液を必要とするのです。それは、突然変異体といえども同じ。人知れず吸血を行っている筈です。」
「なぜ、そう言い切れるんですか?」
ラヴィの高揚しつつある語気と、言い切るような物言いに、龍弥が質問を重ねたところ帰ってきた答えは、悲しみを伴う驚きの内容だった。
「前当主も突然変異体でした。私達ブランドー家が衰退した原因が父であり、そして………変異した父を殺したのが、この私だからです………」