エピグラフ
==一書に曰く==
古に世界は在らず
混沌の中
それは紡ぐべき存在を待っていた
物質の存しない無という晦冥が
果てという概念すら抱きようのない
闇という表現すら妥当かどうか
表現するものなど居らず
やはり無と呼ぶべきなのか
無はただ待ち続ける
晦冥の底にて
紡ぐべきもの達の現れを
無から有への変遷は
前触れもなく天地開闢を齎した
闇を遍く照らす眩耀と共に
世に存するものの象を顕す
陰と陽相違なるも世に在りて理を表し
相生・相剋が織りなす世の象
群れなす光芒と陰影
それにより世界に姿が与えられた
映し出された世界は影を燈し
其処をまた光が照らす
彼は思う
世界の創出にまつわる顛末を
彼は願う
世界の悠久なる殷賑を
彼は憂う
世界の行く末の興亡を
彼は求める
世界の深淵なる最果ての在処を
彼は決する
世界の永劫なる調べに資することを
光と影が生まれ創出されし世界に
紡ぐべき調べの拠りどころ
陰と陽、表と裏
天と地、善と悪
正と負、空と色
相違えながら全く一体不二なるを
紡ぐ調べは『時』という
時は紡ぐ
陰陽分け隔てる事なく
ただ紡ぐ
過去・現在・未来と悠久を紡ぐのみ
嘗ての晦冥の底を
忘却の彼方へ押しやるかの如く
それは願いか
それとも憂いか
斟酌の術を持たぬ
現世のもの達は探求する
現世の間に生まれしもの達は言う
光を統べるものを聖
影に棲まうものを邪
聖邪は常に表裏を成し以って一つ
これを真理と現す
仮初の生と死の間に
時を慮るは人という
かくも懐しき常世の神々を
時に畏敬し
時に仇なし
時に哀しみ
時に親しみ
時に感佩の念を捧げ
有限の時へと生を刻む
刻は紡がれた光と影を纏いながら
現世と共に流れ行く
時は何も語らずただ紡ぐのみ
然れど語りかけよう
繚乱の意識より一筋の標を縒り上げ
萬の言の葉を飾りて時の堡塁となろう
幾星霜の時をその身に刻み
数多の刻を紡ぐを業とする者
それを人は『時縒りの者』と呼ぶ