力の世界
「俺が休んでいる間に随分楽しそうにしているじゃないか、あ?お前ら自分の立場と、この学校にいる意味を忘れてんじゃないのか。無能ども」
兜だ。予想もしていない来訪だが、それ以上に皆その姿に言葉を失う。
「か、兜くんその体。」
「どこぞの馬鹿のせいで、今では鋼鉄製だ。見ろよ、この体。お前たちに出来るか、あ」
兜は既に人の姿はしておらず、機械で覆われた兜怪人に姿、それはまさかの、凶化手術。
決して人の姿には戻れない怪人の最終手段。かつては比較的見られたが、この現代社会でこの異形は受け入れられ難く、心身ともに多分な覚悟と痛みとリスクを伴う。
皆、言葉を失う、傷つけられた誇り、一度ヒーローに敗北した怪人の末路とも言うべき状況。だが、そんなことを知らない勇騎はその兜に近づいていく。
「角を折ったのは、切羽詰っていたとは言え、やりすぎたとは思うけど、だからって、体を大事にしないとダメだろ、両親からもらった大切な体だ、傷つけていいものじゃないだろ、」
「誰のせいだと思っていやがる!!」
自分の感情など一切理解せず、よりにもよって情けを、勇騎の行動に怒りは頂点を極める。
「アルティメットサンダーフォーン!!」
何の前触れもなく電撃を帯びた角で、壁を壊し、勇騎を中庭にまで吹き飛ばす。その衝撃は窓ガラスを割り、踏み込んだ床に穴を開け、皆その様子にしゃがみこみ、悲鳴を上げる。
中庭に吹き飛ばされ、意識を失うように倒れ込む勇騎、威力は前回彼が食らったものとは比較にはならない、人間である勇騎は生きているかどうかもわからない状況だ。
「勇騎!」
そんな彼を本能的に翔真は心配し声を上げる
「なんだ、翔真お前あいつの仲間か?」
兜の黒く染まった複眼は翔真に狙いを定め、その刺々しい4本の腕で翔真の首をつかみ持ち上げる。手の刺が首に刺さり、翔真は思わず声を上げる。
「やめろ!翔真くんに手を出すな。お前の相手は俺だろうが」
翔真の悲鳴に反応し、勇騎が立ち上がる。が、満身創痍、目も虚ろだ。
「まだやる気かよ」
「や、やめろ、それ以上やると本当に死ぬよ、いくらなんでもやりすぎだよ。」
「お前は黙っていろ!」
翔真は兜にクラスメイトの方に投げ捨てられる。
「他に文句のあるやつはいるか?」
その兜の言葉に皆口をつぐみ、目が合うと命乞いをするように必死に首を横に振る。
それを確認し、皆が自分に恐れ従順なことに満足すると、一歩一歩立ったまま動かない勇騎に近づいていく。そして兜は勇騎が立ったまま気を失っていることを確認すると、その精神力に賞賛を送るわけでもなく、迷いなく、完全に再起できないよう止めを刺そうとする。
「な、何事ですかこれは!」
技を繰り出そうとするその瞬間、クラスの担任の佐野が騒ぎを聞きつけ、中庭に現れた。
クラスでのトラブルは困るという保身による行動、だが、それは兜の姿を見て後悔に変わる。兜がいるとは聞いていない、兜のいないクラスでの些細な揉め事だと思って出てきたことを後悔する、目の前にいる重症の勇騎よりも、自分の保身が頭をよぎる。
兜に教師という事は何の強みにもならない。兜に対してできることは、彼にとって快適な学園生活を提供すること、なのに今この状況では
「なんだ?てめぇ、いいところだったのに、邪魔をする気か!」
「すみません、すみません。わ、私は何も見ていないし、邪魔する気もありません。」
兜は佐野に近寄るとデコピンで吹き飛ばし、痛がる佐野の目の前で、地面に落ちたメガネを踏みつけ、蹴飛ばす。それはそのメガネが亡き父が大学に受かった佐野に送った大切な贈り物だと知ってのことだ。兜からすればそれは当然の罰だ。
「人間が偉そうにしてんじゃねぇよ!教師だからって、俺に命令できると思うな。
弱者は弱者らしく怯えていればいいんだよ。いいか、お前は俺がこいつを殺しても、コイツが悪いと証言すればいい、コイツが仕掛けてきて、俺は自分の身を守っただけだ。できるよな。お前はこの前俺が角をおられた時も見て見ぬふりをしたんだからな」
佐野はそんなつもりはなかった、兜のいじめを見逃すつもりだった。
だが、結果がそうはならず、兜からすればそれは立派な裏切りであった。
「やんちゃが過ぎるよ、兜君。僕の学園で好き勝手にするというなら僕にも考えがある」
佐野に詰め寄る兜の足元に鉛筆が投げられ地面に刺さる。