ワールドブレイクヒーロー 厄災の王
その日の夜。繁華街にて
「もう少しマシな場所はなかったのか?」
「文句を言うな、俺の手差しだ、これでも妻子持ちだ。どこでもいいといったのはお前だぞ」
月影はサングラスにフードをかぶった男と烈火を連れて家の近所の居酒屋に連れてきていた。
「ここは何ですか師匠!人が集まって焼いた肉片をむさぼっていますよ。祭りですか」
「ここは居酒屋という場所だ。欲に負けた者たちが、快楽を満たすためだけの過剰の栄養摂取を行い、飲酒、喫煙を行いながら堕落した醜態をさらし、この場にいない他者へのさげすみの暴言、
無意味で無価値な時間の浪費を行ったり、無意味な持論を表する場だ。」
「飲酒に喫煙」
「前に教えたはずだ、飲酒は果実穀物を腐敗させ菌が分解したアルコール成分を摂取することで自我を曖昧にさせる。そうすることで現実から目を背けるのだ。」
「なんという退廃的な場所ですか、」
「変な言い方をするな、価値観が歪むぞ、」
「いらしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」
「水」
「は?」
「じゃあ、俺も、師匠、お綺麗な方ですね。これがうわさに聞く、芸能人さんですか?」
「あー、すみません。冗談です冗談。えっとそれじゃ」
月影は店員さんに気を遣い、いくつかおすすめの品を注文する。
「おい!」
「なんだ?別に問題ないだろうが、」
「いや、水の注文はおかしいだろうが、それにその態度だ、睨みつけるな」
「年端もいかない女の子が、あのような格好をしてこんな場所でこんな時間まで働いているのが気に入らん。それになんだ、この歪み切った空気は、」
「落ち着け、抑えろ、頼むから力を使うな!というか俺はこの状況で力を使われればお前を止めるために遥を呼ばないといけなくなるぞ、身重のあいつを呼びたくはない。」
「人の妹を名前で呼ぶな。」
「……もう夫婦なんだ、そこに関しては、文句は言わせんぞ。お前よりも長い時間一緒にいるんだ。今まで遥のことを顧みず、正義で有り続けたお前にとやかく言われる筋合いはない。」
「……あいつもそれなりの覚悟はあったはず、理解もしている、はずだ。とは言え、確かにそれに関しては、お前が正しい。ヒーローとしてではなく、かつての友として礼を言わせてもらう。よく遥を守ってくれた」
烈火はフードを取り、頭を下げる。
彼がヒーローの頂点に立つ二堂烈火。かつて月影の友であり、大首領を倒した凶源だ。
「お前から、頭を下げられるのは予想外だな。」
「ところで、遥はなんといっていった?こっちに戻ってくる気はないのか?」
「あぁ、こっちで産むそうだ。それに今更帰る気もない、今の私の居場所はここだから、だそうだ。ただ、兄として遊びに来てくれるならいつでも歓迎するというとのことだ。まだ、会ってないのか」
「あぁ、会う気はない。あいつが幸せならそれでいい。今更会ったところで、」
「何かをしなければいけないわけではない。会うだけでいい。それが人だ。」
「お待たせしました生ビールに烏龍茶、サイダーに明太チーズ餅に、鳥の軟骨です。」
「師匠これは?ものすごくいい匂いがします」
「まぁ、せっかく注文したんだ。食わせてもらっておけ」
「ところでお前はこれからどうするつもりなんだ?17年も引きこもっておいて今更」
「1年ほど世界を回る。世界には正義を求める声に溢れている。まずは彼らの助けを求める声を救う。お前たちを裁くのはそのあとだ。まぁ、勇騎がどう判断するか次第だがな、」
「任せてください、しっかり学校で勉強します!」
「全く、こんな子供の判断一つで世界の行く末を決めることになろうとはな、
少し前に突然ジョーカー本部に現れたかと思えば
『この国は、かつて世界一と名をさせた、技術力も、敵がいなくなったことに慢心し、支援をやめ、技術人材を流出させた。今や改造人間のレベルは海外が圧倒的に上、貴様ら第一世代は言わずもがな、この国で保健適応範囲で行われる第5世代の技術など既に、過去の遺物。現在の第7世代の改造人間はアドヴァンスと呼ばれ、適応率も、その性能も第6世代までとは一線を画す次元だ。それどころか昨今では、改造出すら必要なく、薬によって怪人以上の力を手にする輩まで出現している。
今や、戦場は彼らと彼らに類する技術の見本市だ。それでもなお、我が国の技術力は世界トップクラスだと、お前らは言った。だが、否、それはまだ特許を使わざるを得ないだけの話、しかしそれも間もなく終わりを告げる。知っているかこの国の隣国は既に、先天的にアドヴァンスと同様の力を持った人間を生み出す研究まではじめている。この国みたいに、ありもしない根性や、くだらない精神論でどうにかなる次元じゃないんだよ。
お前たちはいつだってそうだ。過去にしがみつき、過去に囚われ、過去にだけ生きる。
今の子供たちにそんな過去の栄光ばかり教えてどうする。
俺たちは今を生き未来につなげる、そして俺たちはお前たちみたいに過去に何かをしたわけではない。くだらないことを受け継がせようとするな。
そもそも今のご時世、怪人になりたいという志願者自体が減っているというじゃないか。
今の世の中、人気があるのは大手の広告代理店に、ジョーカーそのもののではなく、その下部組織の公共機関、その他商社に大企業。安定と、安心を求めるかつてのジョーカーの思想を引き継いだままの価値観とは真逆なんだよ。
怪人たちの高齢化に、後継者不足、後先考えない国民総貯蓄を超える国債の発行、海外共同事業による、技術の流失と、自国の自治権の放棄。人、土地、主権あってこその国家。ジョーか本部の喫煙室で屯する幹部どもは国産の無農薬のコメが食べたいだ?目先の金目当てに自由貿易をおすすめ、農地を売り払い、命の礎となる水そのものもさえも土地ごと他国に売り渡し、作物の価格が高騰した現代社会で、輸入のイニシアティブをとらなくなったのは誰のせいだ。俺はキサマらの大首領の覚悟を見た、故にいままで黙っていた。
だからこそだ、今のこの国の有様は我慢ならん。弱者から搾取し、失うだけの状況でもなお、我だけは助かろうとするその姿勢、お前は未来に何を残す。恥か?憎悪か?貧困か?』
などと長々と持論を語り、挙句今から世界を破壊するだ。」
「よく覚えているな、俺にはその力があり、そうする理由も十分にある。」
「ふざけるな、ひとりの人間の意思や力で世界が滅ぼされてたまるか。」
「一人ではない、俺の中には過去に敗れていったヒーローたちの魂がそうさせる。」
「それでもだ。今ある世界は今を生きるものたちのものだ。」
「それに関しては同意だ。だからだ、その時代を生きる者に判断させる。勇騎ほどその適任はいない。そして、その勇騎を敵であるお前に托する意味も理解して欲しいものだ。」
「悪いが、俺はお前の妹も、お前の愛弟子も人質に取る気などないぞ。」
「分かっている。お前は敵だが、あくまで俺の正義の敵にすぎず、悪ではない。人を救おうとする思いは同じだ。」
「うま、師匠これうまいっすよ。師匠も食べてみてください」
「そうか良かったな、で今日学校に行ってみてどうだった、この傷の跡早速やられたか?」
「でも、師匠との約束は破っていません、大した事ないっす。それに今日も友達も出来ました、雲野翔真君っていう少し大人しめの子で、」
烈火は勇騎の頭を撫でると、立ち上がる。
「その友から大いに学べ、この世界がどういうものか、お前が何をしたいか、自分自身でそれを見定め、真の正義に気づいた時。お前を一人のヒーローとして認めよう。」
「どうした?」
「そろそろ行くとする。ここに長居してもイラつくだけだ。」
「分かりました、それでは師匠お気をつけて、」
烈火は何も言わずに店の外に出る、後を負う月影であったが既にその姿はどこにもない。
月影は変身し、あたりを探すそして目線を空に移すとところどころ、月の光が屈折してみる。それは烈火は空を蹴り、空間を歪めながら大陸へ渡った痕跡だ。
「師匠は?」
「もう行ったよ。……それより、なんだこの料理は?」
「いや、これを押したら店員さんがきちゃって、なにか頼まないといけないかなって」
「頼みすぎだ。お前これ、お前の小遣いから引くからな、多分半年間小遣いなしな。」
ここまで飄々としていた勇気の表情が初めて曇る。
「まぁ、寮生活の前夜の宴だ楽しめよ。」
月影はグラスを手に取り酔いもできないビールを飲み干す。