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孤高の王

全ての決着がついて2時間後、翔真から事件解決の報を聞いた月影はボディーガードに背負われ学園を後にし、身柄を引き取るため、3人が向かった警察署に車の手配していた。

事件は解決し、3人は無事。佐野がどうなったのか明確に聞けてはいないが、しばらくのちに、任務完了を告げる空メールが捨てアカウントから飛んできたことで

残る獅子王の心配は一つとなっていた。月影がいなくなった今、気にする目線はない。

直接様子をうかがいに行くか、それともここで待ち続けるか、まだ龍千寺が戻らないことに苛立ちながら窓から警察の撤収作業を眺め、次の手を志向している時だ。

ノックもせずに生徒会室の戸が開いた。

そこに現れたのは天都、そして龍千寺だ。その龍千寺の表情から獅子王は暗に最悪の状況を考えつつも、何事もなかったかのように笑顔で答える。

「天都先生、どうされたんですか、それに龍千寺も、いなくなっていたと思ったら。そういえば聞きましたか先生。さやかさんも保護されて無事事件が、」

「いいよ、そういう白々しいのは、後、私を消すことを考えるのは結構だが、お前じゃ無理だよ。本気になった私相手にはいくらなんでも経験が違いすぎる」

「何の話ですか、先生、なんだかいつもと雰囲気が違いますよ。」

「そうだな。面倒だからお前にはこっちの顔は見せるつもりはなかったんだけど、女を利用してお前の罪を隠そうなんてするやつを見逃すほど、私は職務怠慢じゃなくてね。

教育的指導だ」

きららは素早く魔方陣を展開すると、虚を突かれた、獅子王は一瞬にして拘束される。さらにきららは間髪入れず、さらなる高速術を展開し、獅子王は一切の身動きが取れなくなってしまう。

「龍千寺、僕を裏切ったのか?」

「裏切ってないよ。何もこの子はしゃべってない。今もこの子は私の術で拘束されているだけだよ。でも、今のお前の言葉で私の予想は的中したな。」

「ふ、だったら何なんだ!俺が何も、」

「何も、何だ、効くだろ私の拘束術は、虚を突かれれば意図もたやすく、特に私のは特別だからな。」

「甘い!」

獅子王は口から毒針を飛ばしきららに命中させる。が、目の前のきららはまるでホログラムが揺らぐように消滅し、屋上から箒の上に仁王立ちしたきらら窓から入ってくる。獅子王の足元には魔法陣が展開されている。頭の真上から時間のかかる拘束術を、やられたと後悔する獅子王に間髪入れずに、きららは何重にも異なる方式の拘束術を展開し、完全に獅子王を無力化していく。

「口から毒針って忍者かよ。意外に姑息なまねをするな、お前を拘束するほどの術式はそう簡単には張れないから上から展開して落としてたんだが、意外なことで薬になったな。」

「お前、何者だ。」

「別に、ただの保健医でいいよめんどくさい、とはいっても、お前は人のことをこそこそ探りそうだけどな。ま、どうせ、お前じゃたどり着かない次元にいるとだけ言っておくよ。」

「何が目的だ、」

「目的ね、しいて言えば私はこのままお気楽な学園教諭でいたいわけよ。だから獅子王君には、今まで通り当たり障りのない支配を続けていてほしい、そういうお願い。」

「これがお願いには見えませんけどね。」

「まぁ、いうなれば保険かな、志堂君が来てから君、彼を目の敵にしてるでしょ。ついでに彼女を取られたことで雲野君も、小さいよね、君ほどの男が、どっちにしろ、あと半年でしょ。できればそれくらい我慢してくれないかな。どうやったって彼らと君の接点はこれ以降もないわけだ。聞いてるよ。ここを卒業したらジョーカーの幹部候補生として海外の大学を回るって、あっちこっちで女作ってコネ作っていい思いするわけだからさ、いいじゃない、あぁいうのも見逃してあげても、出会ったのは不幸な事故、お互いにかかわらないほうが得でしょ。」

「目の前を深い害虫が我が物顔で通り過ぎれば駆除するのが当然でしょ。」

「下手に手を出して、つぶして、手を汚すよりも、窓を開けて逃がすほうがいいでしょ。

もう少し広い心もとうよ。百獣の王でしょうが、王様は寛容じゃなくちゃ」

「そういうのは敗者の思考です。敵は全力で叩き潰す。狡猾に確実に、だ」

「そう、なのかねぇ、まぁ、そっちはいいや。とりあえず。で、それじゃ、取り急ぎの本題に入るわね。」

きららはいったん獅子王から離れると。必死に抵抗するような眼をしている龍千寺に近寄り、その胸に手を当て、何か呪文を唱え始める。

「何をしている?」

人形のように、微動な動きすらできない龍千寺の心臓のあたりが赤く光ると、きららは彼女の体にまるで水に手を入れるようにすっと手を入れ、小さな短刀を取り出す。

「ちょっと黙ってて、これ結構神経も魔力も使うんだから、」

そしてその短刀を手にし、呪文を続けながら、獅子王に近づき、胸に短刀を突き立てる。

「何をする気だ、やめろ!」

ただならぬ気配に獅子王は何とか抵抗しようとするが首から下が全くいうことを効かない。

「まったく、大した力だよ。私の封印術がはがされそうになっている。術式の構造を理解してるのか、末恐ろしい子だね。でも、今はまだ私の方が格上だ。」

きららが手を放すと、吸い込まれるように短刀が体の中に消えていくと、同時にそこから全身に紋章が広がりすっと消えた。

「痛みがない、何をした。」

「はぁはぁはぁ、どうやらうまくいったみたいだね。」

魔力をほとんど使い切り、白髪交じりの姿になったきららは息を整える。

「命を繋いだ。もし彼女が死ねばお前は死ぬ、もし彼女が痛みを感じればお前にはその数十倍の痛みが全身を駆け巡る。言っとくが、無理に説こうなんて思うなよ。

私のは特別だ。聖典クラスの魔法使いじゃないと解けないからな、今じゃ、もう私くらいしかいないぞ、下手に解こうとすればお前の魂と肉体は変質する。一種の浄化の力、それも飛び切りのが発動するぞ。」

「それが発動すればどうなる。」

「簡単にいうと人間になる。昔、悪魔に魅入られたものを戻すための特別な術式が発動する。この仕掛けに少し手間取ったわけだよ。」

「何が目的だ!答えろ!」

「大声を出すな、人が来てしまう。いいか、兜の24時間の記憶をまるっと消した。忘れたのではなく、消去した。決して思い出すことはない。お前がこの件にかかわっていることもあいつの口から洩れることはない。

本当はこんなことをしたくはないが、彼女を守るためだ。彼女のお前に対する愛は本物だ。

私に見つかり勝てないと悟ると、自殺しようとした。

彼女は自らの手を汚してもお前のために、自らの命を絶ってもお前のために、

まったく馬鹿げた話だよ。でも、私は彼女には死んでほしくない。

だから命を繋いだ。お前にも殺されないためにもな、いいか獅子王。よく聞け

これからお前は全力で彼女を守れ、彼女が死ねばお前も死ぬ。彼女が傷つけばお前も傷つく、彼女の心の痛みさえ、お前には激痛として走る。

つまりはもうお前は彼女を道具のように使うこともできはしない。」

「どうしてそこまでする。」

「彼女は、いいや、お前もだが、私の生徒だ。死んでほしくはない。本来ならお前はすでに何度も人としての道を踏み外している。」

「人じゃない!怪人だ!一緒にするな!」

「どっちでもいいが、お前は歪んでいる、間違っているだから。本当であればすべてを暴露し、お前を更生施設にでもぶち込んでやりたいが。そうなれば、彼女は自責の念でどうなるかはわからない。」

「だったら彼女の記憶も消せばいいだろ。」

「彼女の記憶の中で、お前は中心にいすぎる。お前の存在を消すということは今の彼女を否定すること。そうなれば彼女にどんな影響が出るか変わらない。

お前の悪行を裁くことより、私は彼女の命を守るそれだけだ。」

「そこまでするメリットがどこに?あなたが本気なら、僕を殺すなんてわけないはずだ。彼女だった絵お前にとっては他人のはずだ。何のメリットもない!」

「……獅子王、お前はどうしてそうなった。家庭環境も恵まれている。お前を思ってくれる人もいる。確かに、お前の見ている世界はロクでもないように映ったかもしれない、それでもここまで性根が腐る理由にはならない。」

「だったら生まれつきなんでしょう」

「何がそんなに憎い、こんなにこの世界が嫌いか」

「嫌いですね。こんなに思い通りにならない世界なんて、世界は俺の支配を受けるべきだ。」

「世界征服の誇大妄想、か、いやというほどそういう奴の末路を見てきてるはずなんだけどな。」

「それは今まで俺がいなかっただけのことです。」

「世界を手に入れてどうする。いいもの食って、好き勝手に遊んで、愛する家庭を気付いて、そんなの今のお前でもできるだろ」

「俺は、大首領をも超える。この腐りきった世界を壊し、支配し、未来永劫俺の名を刻む、それが俺の使命だ。そんな堕落な快楽など何になる。未来の希望を繋いでどうする。今俺がやるべきことをやるだけだ。その意味でも、この学園を完璧に支配できなくてどうする。」

「なるほどね、そんなんだからお前の心はいつだって満たされないんだよ。何でもかんでも世界単位でものを見る、人っ子一人で何ができる。」

「黙れ、敗者。俺は違う、常に王は一人であり孤高だ。理解などされる必要ない。利用できればそれでいい。」

「わかった。残り半年だが。私はお前を更生させて見せる。」

「そんなことできるわけがない。」

「そんな奇跡をやってのけるそれが魔法使いとしての私の最後の仕事だ。獅子王、私はお前にも幸せになってほしい。これは私の本心だ。お前のいきつく先を私は知っている。

一人で世界を変えようとしたバカの末路を悲惨なものさ。夢半ばで敗れたとしても、その夢にとらわれることも、兎に角、この件はこれ以上深入りするなそうすればお前の足がつくことはない。そういう風に仕組んでいるんだろ。まずは私のことを信用しろ」

「信用できるとでも?」

「だが、お前にはどうしようもない。そして私もこれ以上何もしなければ何もしない。

今回は龍千寺さんに救われたな。お前は自分を孤独だと思っているかもしれないが、

彼女だけは本当にもお前のことを思ってくれているそれを忘れるな。」

そういうときららは獅子王の拘束を解く、拘束中に体の生命エネルギーを吸われたのか、

彼女に襲い掛かる力も出ず、その場にへたり込んだ。

「それじゃな、」

きららは龍千寺を連れて、この部屋を出ようとする。

「待て!歩をどこに連れていくつもりだ!」

「お前が彼女の心配か、心配するな。彼女にはもう少し話があるだけだ。それとここ数時間の記憶を消す。下手に記憶があると、彼女はお前に対して負い目を感じるからな。

言っておくが、彼女には黙っておけよ、このことは、」

「……信用していいのか、もし彼女に何かしてみろ」

「ふ、まるで雲野君を見ているようだな。お前が本気で他人の心配か、心配するな。

でも、見なおしたよ。獅子王。お前でもそんな余裕のない顔をするんだな。」

「俺は、ただもし歩に何かあれば、俺にも、」

「いいさ、それでも、今はな」


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