憎悪を食らうもの
倉庫にはすでに倉庫の半分ほどの大きさにまで変化した佐野だったものがそこにはいる。
「そこ!」
勇騎は地面に転がった鉄パイプを持つと、佐野の上方のめがけてそれを投げつける、
鉄パイプは天井を貫く前に軌道を変える。
「くくくく、これはこれは、どうしてわかりました。」
仮面の男が、再び闇から現れる。
「これだけの憎悪の中、何も感じないところがある。お前か、この原因は」
「さぁ、どうでしょうか、しかし、その感覚といい、その様子。どうやらヒーローとしての力よりも、魔の力の方が得意と見える。お前、何者だ。」
「それはお互いさまだ!」
勇騎は佐野の攻撃をあしらいながら、目を仮面の男から外そうとはしない。
無数の闇の触手のような攻撃を奇妙に避けていく。
まるで今までの勇騎の動きとは違う、その姿に仮面の男の目が光る
「危険な力だ、まるで化け物だ。そう、その雰囲気、見覚えがあるぞ、そうだ、この国の大首領といったか、あれに似ている。」
「大首領さんを知っているとは、かなりの老体ですね。どうですか仮面でも外せば、俺はご老体には優しいですよ。もっとも善人に限りますけどね。」
「そうか、それでは期待薄だな。」
仮面の男は、まるで瞬間移動のように、勇騎の前に現れる。
「俺より速い!」
「虚を突いただけのこと、」
自らのマントの中から死角になるように、刃物を勇騎にめがけて突き立てる。
が、勇騎は、それよりも早く回避を行う。
「まっとうに戦うタイプではないでしょ、防御しても危険、距離をとるのが上策。甘い!」
「甘いのはどっちだ、常にプロは2の矢を持つ、そして使えるものはすべて使う。」
回避したことで、意図的に場所を追い込まれた、佐野の一撃が、勇騎の命中する。
最初の一撃を皮切りに雪崩のように無数の触手が次々に襲い掛かる。
「憎悪に飲まれ正気を失い、怨嗟の一部となるがいい。」
「……ふざけるな、その程度の憎悪など、無きも同じ、狂気を従えろ、絶望を蹂躙せよ。
ただ正義の名のもとに己が意志を遂行せよ」
黒い触手がより黒い炎により燃やされていく、
「悪魔か、貴様、」
「悪魔、冗談じゃない、これでも正義の味方だ。」
「行き過ぎた正義もまた狂気。座興もどうやらここまでのようだな。」
「臆するのか?」
「お前は不確定要素だ。俺の目的はすでに達したお前と戦うリスクを冒す必要もない。」
「待て!」
勇騎は再び闇に沈んだ仮面の男を追おうとするが、すでにその気配は欠片もなく、郷里を開けられて追跡も不可能。それに深い追いするわけにもいかない、まずは目の前の敵を
勇騎は目の前の佐野に対し両手を構え、精神を統一する。
佐野はその間も絶えずに勇騎に攻撃を加えるが、そのことごとくが勇騎の炎に飲み込まれ消し炭となっていく。
「無駄だ、すべては俺の糧となるだけだ。」
勇騎の炎は集約し、銃にその姿を変える、それは先代のレッドマグナムが使っていた銃に比べ、一回り小さいが、はるかにまがまがしく、そしてずっと暗い赤い色。
勇騎は両手でその銃を構え佐野の中心に向けて解き放つ。
「これで終わりだ。インフィニティペイン煉獄:デッドエンドクリムゾンマグナム」
炎の柱は轟音を立て佐野を貫き、跡形もなく、佐野を燃やし尽くした。
骨ひとつ魂ひとつ、何一つ残らない、すべては煙とともに空に消えていった。
「ふう、さすがに疲れるね。こういうシリアスのも嫌いじゃないけど、向いてないのかな」
勇騎は変身を解き、その場に座り込む。今日は朝から疲れた。
でも、とりあえず、さやかが無事だったことを素直に喜ぼう。
勇騎は寝そべると自分開けた天井の大穴から空を眺める。夏休みは終わったがまだ夏の空、
その空を見ながら自分の手に残った引き金の感触を反芻する。
他に方法はなかったそれは分かっているし、きっと人が思うほどの罪悪感も感じていない。自分の中の正義を完遂しただけだ。
でも、もし、あれが、佐野ではなく、翔真であったとしても自分はきっと同じことを選んだだろう。心の葛藤もなく、敵であれば容赦なく。
この感覚を狂気と理解しながらも受け入れている、選択している。そうさせているのは自分の中の正義。それが情には流されない確信を得ていた。
正義の味方としての理想の自分、翔真の友達としての自分、樹里さんに好かれたいと思って演じる自分。そしてさっきまでの自分。全部が本当の自分で、どれも大切な自分。
でも、その全部が両立しないとも知っている。最終的に自分がどうなるのか、いや、今は考えるのは止そう。どうせいつか決めないといけない時は来る、それまでは、今のままがいい。
勇騎が足音に反応し、そのまま頭を真上に向ける。そこには静寂を察し、二人が恐る恐る下から姿を現す。
「翔真君、ここからどうやって帰ろうか」
何事もなかったかのように勇騎は笑う。




