善も悪も、ただ正義の名のもとに
「僕がいるんだから、空いてるにきまってるだろ」
「いや、なんとなく雰囲気でつい。それ?」
「あぁ、俺一人だとどうしようもない、ここは二人で、」
ガコン!話も終わらないうちに勇騎は力任せに檻をへし折り、ついでに翔真が確保していた鍵も使わずに、手足の錠を、器用にさやかに痛みを感じないように引きちぎる。
「空気読んでよ、ここは俺の活躍の場所でしょ」
「あ、ごめん、でも、」
「翔真!」
「さ、さやかちゃん?」
「おいしいところはそっちに譲ったから」
「ごめん、守るって約束したのに」
「ううん、いい、ちゃんと助けてくれたから、助けてくれるって信じてたから」
勇騎が来る前まで、励ます翔真に対し、焦らせないように気丈にふるまっていたさやかだったが、こうして助け出されたことで、不安や嬉しさ、色々な強い感情がごちゃ混ぜになり、彼女に飾らない行動をさせた。怖かったと何度も口にし、必死にしがみつく。
「さてと、それじゃ僕は、上に戻るから、しばらく二人だけの世界を楽しんでてよ。」
「佐野先生、苦戦してる?僕も、」
「うーん、片はつけたはずだったんだけど、ま、詰めが甘いのもヒーローの宿命だよ。
とりあえず、ここは俺に任せてここにいて、」
「だめ!勇騎君、佐野先生は普通じゃない一人じゃ絶対に勝てない。兜君も佐野先生に、」
「知ってるよ。まぁ、その程度であればさっきので、片が付いているはずなんだけど、なんでだろうな。今の上のあれ、放っておいても勝手に消えるだろうけど、変なパワースポット作られてもかなわないし、何よりヒーローとして逃げるわけにはいかないし」
「勇騎君やっぱり俺も行くよ、二人でやれば」
「だめだよ、俺はまだ二人の友達でいたいから、それに、これは人の悪意の塊だ、さっき俺と繋がったことで、翔真君も多少なり魂が敏感になってる、下手をすればあれに引っ張られる。あれは俺が処理するから、僕がいいっていうまでここにいて」
あれ、あれといった自分の担任だった相手に対してあれと、
仮面越しで勇騎の顔をうかがうことができない。口調はいつも通りポケーット落ち着いている。だが、本当に自分たちが知っている勇騎か、まるで別人だ。それともこれが本当の、
「それじゃ、ちょっと行ってくるから、」
そういってちんたら歩いて勇騎は階段を上る。
「科学の進化が人の心の進化を超えることがあってはならない。だから俺は科学が嫌いだ。
師匠はいつもそういって山で生活していた。便利な生活は心の堕落を生む、安易な力は心の思考を奪う。過ぎたる力は悲劇しか生まない。
でも、俺はそんな科学で作られたこの世界は嫌いじゃないんです。今の社会が本当のお父さんの志をもとに月影さんたちが頑張って作ったと考えると誇らしいとさえ思うんです。
でも、だからこそ、俺はこんな力は許せない。間違えを正す。」
『落ち着け、少年』
「ダンディさん、力を託して成仏したんじゃないんですか?あんまり死んだ人が出てくると興が冷めます。」
『俺はお前の中にいる、とはいえ、今回は特別だ。いいかよく聞け、上のあれはさっきまでの敵とは違う、あれは一種の現象だ。周りのあらゆる憎悪を飲み込んでいる。
ヒーローは己の内なる魂を燃やす、それは言うなれば正の力だ。あれはその真逆、あたりから無尽蔵に憎悪の感情を飲み込み、負の力に変換している』
「それくらいは感じていますよ。だからこそ、正の力が効きやすい。」
『馬鹿が、お前の力は己のうちの魂を燃やす、烈火ならまだしも、お前の魂はまだ小さく弱い。それに対し、向うは周りから無尽蔵に取り込んでいる、それではマッチの光で闇夜を照らすようなものだ。いくら燃やしたところでも勝ち目はない。』
「そうですか、だからって諦めるわけにはいかないでしょう」
『いいから落ち着け、あれだけの強い力を一人の人間が受けられるわけがない、すぐに限界を迎え崩壊を始める。』
「そうなれば負のエネルギーがこの場所に定着する。ここは龍脈ではないのがせめてもの救いですが、それでも草木は枯れ山は死に、ここは数十年は人が踏み込めない土地になる。」
『だが、それで済む話だ。あとはジョーカーの奴らに任せろ、隠ぺいを封鎖は得意事だ』
「でも、それだけじゃない、かつてそうだったようにそれが起点となりさらによからぬものを呼び寄せる可能性だってある、魔界や異界から望まぬ者がやってこないとも限らない。」
『だからと言ってどうしようというんだ。』
「俺には、そのどうにもならないことを、どうにかできる。そう思っています。」
『はぁ?だからお前の力じゃ』
「善悪の差異はなく。正義の心さえあればどんな力だって使いこなして見せる。
その為に俺は師匠に教わった。この間の樹里さんの件で理解しました。
清濁あわせ持ってこそ、俺は俺だ。善でもなく悪でもなく、正でもなく負でもない。
これは力そのもの、使うは意志。俺の意思は何者にも飲まれはしない!
俺は師匠から魂を受け継いだ。力を恐れるな、力に溺れるな。
俺に従え、数多の怨嗟よ。俺に託せ星ほどの無念を、それでもなお、俺の心の炎は燃え盛り、俺の希望は消えはしない。行くぞ変身!クリムゾンマグナム」
『黒い炎、お前、いつからそんなことが』
「今からです!」
今まで歩いていたにも関わらず、急に走り出し、最後の扉は蹴り飛ばす。




