本気な勇騎
一方、宙に舞う二人は物凄い速度でさやかのもとへ向かっていた。
「翔真君、今何を考えている?」
「何って、もちろんさやかさんの無事を」
「嘘つき、そういう顔はなかったよ。きらら師匠に言われたでしょ自分たちのやるべきことを、って、翔真君がやるべきことは伊万里軍師を助けること。佐野先生は俺に任せて。」
「兜をあんなにした相手だろ、一人で戦うつもり」
「だって翔真君殺すつもりでしょ、佐野先生を。ダメだよそんなのは」
「どうして問題ない!」
「殺したその手を伊万里軍師に差し出すつもり?
怒りに流されるな。殺すために戦うな。これ、ヒーローの鉄則。
結果的に命を奪うことはあってもそれは決して目的であってはならない。」
「俺はヒーローじゃない。」
「でも、伊万里軍師にとっては翔真君がほかの誰よりもヒーローだよ。」
「さっき翔真君を通じて感じた。佐野先生はすでにこっち側に足を踏み入れている。
翔真君が足を踏み入れちゃいけない世界。だから佐野先生は俺に任せて」
「それってどういう意味」
「翔真君は、軍師をお願いってこと、さ、つくよ、行くよ、レッドマグナム変身!!」
体が傾き始め落下を感じ取ると、勇騎は変身をする。このまま、かっこよく着地、と思いきや、減速もせずに二人はそのまま、廃工場に突っ込み、屋根を破壊し、爆音を立てて勇騎は地面に激突するとそのまま回転しながら壁にぶつかった。
変身していなければ死んでいてもおかしくない衝撃だ。その衝撃音に慌てて佐野が姿を現す。
翔真は素早く、蜘蛛の糸を展開することで倉庫のはるか上で、衝撃を緩和していた。
そのことで、翔真はこの倉庫内の状況を上から把握し、かつ佐野の視線は音の主の勇騎に集中しこちらに気づいていない。魂で、感じ取ったさやかの居場所はこの廃工場に増設された地下の部屋。勇騎は佐野を殺したい気持ちをぐっと抑え、気づかれないように静かに気配を消して壁伝いに佐野が出てきた扉に向けて降りていく。
一方、正気をほとんど失って、平常心を失い、突然の音に興奮する佐野を前に、ちょっと待ってと、勇騎は決めポーズからやり直そうとするが、佐野の光の槍がそれを邪魔する。
佐野はおびえる様に、叫びながら攻撃を繰り返す。
「危ないな、ヒーローの変身と名乗り中は攻撃しないのが鉄則でしょ、って、今の佐野先生に言っても無駄か、」
勇騎はその手に絡みつくムカデのように変質した光の槍を力任せに引きちぎると、その能力で燃やし、粒子に帰す。
「残念だけど、魔力耐性のない怪人ならまだしも、アーマーを纏った俺には効きにくいよ。痛いけど、ましてや今の俺、本気ですっよ!」
勇騎は力任せに踏む込み、兜張りに一直線で、佐野に向かっていく、完璧に正面をとらえ、腰を落とし、距離感を図れない佐野の胸部に強烈なひじ打ちを叩き込む。
「次!続けて、ライジングメテオ!!」
崩れ落ちそうに佐野の下に潜り込むと両手を地面につき、ばねのようにそれを伸ばし、佐野の顎下に燃える両足を叩き込み宙に浮かす。
「そしてこれで終わりだ!シューティングスター!!バーニング!!」
そして空中で飛ばされ、自由落下で身動きの取れない佐野に対し、勇騎はポーズを決め、宙に飛び上ると今度は上から下へと強力な炎を纏ったとどめの蹴りを叩き込む。
翔真が兜にした蹴りと同様、すさまじい破壊力を伴い、佐野は地面に伏すこととなった。
「先手必勝、そして浄化完了!エクスプロージョン!!」
やりすぎのように考えられるが、これがリミットブレイカーをはじめとする強化薬に対するもっとも単純で、効果的な方法だ。物理的に致命的なダメージを与えることで、生命としての自己防衛本能を呼び覚ます。そのことにより、強制的に生命エネルギーの優先順位を変え、変換の止める。ましてや勇騎の身にまとう炎は浄化の属性を持つ炎。よこしまなものを退け、より強く生命の本質的な力を喚起させる。
それをわかってやったのか、ただ結果的にそうなっただけか、佐野の魔力変換は止まり、佐野は正気をとりもす。自我を取り戻した直後、今まで失われていた痛覚が戻り、勇騎の攻撃にもだえ苦しむ。




