絶対秩序
この異常な光景の原因を作り出した当事者を見ると、無表情な、いかつい男がその顔を少しだけゆがめ、はるか遠くから威圧感満載で近づいてくる。
「しまった。大切な学び舎に傷を、後から会長に報告せねば、少し力加減を間違えた。」
「誰です。あれ、なんかめちゃくちゃ雰囲気あるし、あの人絶対、俺より強いですよね、」
勇騎がその信じられない光景にきららに耳打ちをする。
「虎城風紀委員長だ。獅子王の取り巻きの人間だが、幸か不幸か、自分のルールは曲げない。だから、別にお前たちの明確な敵ではないんだが、まぁ、面倒な相手ではある。時々いるんだよあぁいうヒーローよりも堅物が、お察しの通り、お前のヒーローとしての力なら、どうあがいても勝ち目はないぞ、まぁ、風紀を乱さなければ問題ない、今みたいにな、」
「だったらまずいじゃないですか、あの人、たぶん会長よりも強いですよね。」
「うーん、純粋な腕力だけなら、そうだけどそこら辺は何とも、」
「何をこそこそ話しているんですが、天都保健教諭、あなたも教育者なら、この校則違反の私闘を止めるべきではありませんか?」
「止めようと思ってきたところよ、でも、わたしじゃとめられないしぃ、それにぃ、私じゃなくて、それに佐野先生が、」
「佐野教諭?」
ここで自分に降りかかる火の粉を払うために佐野にこの騒動の責任を戻そうとするが、佐野は、さやかが注意を引いている間に逃げてしまっている。
「あいつ、絶対ぶんなぐる。」
「まぁ、いいでしょう。では、ここは自分が納めさせてもらいます。」
そういうと、虎城は吹き飛ばした柱を取りに行き、まるで飴細工のように、手で不恰好ながら、柱を元に戻すと、それなりの形で、体裁を取り繕う
「兜、貴様、まだ、雲野に勝てるつもりでいるようだが、お前との戦いのあとでも雲野は強くなり続けている。努力もしていないお前ではすでに相手になる次元ではない。」
「そんなのやってみなけりゃわかんねぇだろ、」
「それがわからない時点で、お前の勝ち目がいと言っているんだ。
愚か者が、雲野、手を見せてもらっていいか」
「は、はい」
緊張感と威圧感のある男を前に、翔真の殺気は影をひそめ、降りてきて手を出す。
「わかるか、この傷の重みが、どれだけの努力をして生きたのか、あの日お前に勝つ事はできた。すべては雲野の計算通り、だが手の内を知られた次もうまくいくとは限らない。だからこそだ、奇策に頼らず、正面から戦える力を求めた。ありがとう。」
そういって虎城は手を放す。
「その鍛錬は敬意に値するが、いささか焦りすぎだ。お前の標準よりも高い怪人の再生能力をもってしても蓄積された疲労はなかったことにはできないぞ。
そのようなことを続けていれば学業にも支障をきたす。今日のようにいつ敵が現れるとも限らん。日々万全である事を考えて鍛錬を続けるといい。この間の戦いといい、お前には潜在的な身体能力、怪人としての能力は恵まれていないのは明白。だがそれを補って余りある、感覚、そして判断能力。何よりその意思に基づく鍛錬は見事だ。」
「きらら師匠、あの人めっちゃいい人じゃないですか、すごいカッコいいですよ」
「だから厄介なんだよ。自分の信念を曲げないし、融通も利かない。だからこそやるときは徹底的にだ。敵への敬意もあるからな、隙がないんだよ。」
「いっつも、一人で先に帰って何をしているかと思えば、そんなこと」
「ごめん。でも、僕は臆病だからさ。絶対に勝てるようにならないと、さやかちゃんを、守れるだけの強さがほしいんだ。僕を頼ってくれるように。」
「馬鹿、もう、頼りにしてるわよ。」
「きらら師匠、いま物凄くほほえましい光景のはずなのに、なぜかイライラします。」
「心配するな、それは正常な反応だ。あいつら空気読めよ。」
「さて兜、まだ納得いかないという顔をしているようだが、お前のご両親の体裁もある。これ以上敗北の分かっている戦いで泥の上塗りをさせるわけにはいかない。
なにより、貴様は会長の前で立てた誓いを破ろうというのか、」
「関係ないね」
「恥を知れ!恥を知らざるは武人にあらず、獣、いや虫けらぞ!誇りなき、敗北した虫けらに生きる価値なし、もし、いや確定事項に近いが敗北をしてみろ、その時は自然の摂理同様、敗者には死んでもらう。貴様は秩序を乱す根源だ!」
「……ふん、まぁいい。興が冷めちまった。行くぞお前ら、」
兜は取り巻きを引き連れ、自分の居場所の空き教室に戻ろうとする。
「そう、それでいい、お前には命を捨てる覚悟などみじんもない。」
「なんだと」
「言葉のままの意味だ。お前はそういう奴だ。恥じることではない。ただ己の分をわきまえろ、お前の才能で届く世界の限界をだ。」
しばらく、虎城を睨むが、全く目を背けない相手にしばし沈黙の後兜は身を引いた。




