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絶対君主

「ね、言ったでしょ勝つのはあの子だって。」

「屑が、だから虫は使えないんだ。死んでくれてよかった」

獅子王は冷静を装うが、怒りのあまり、体の変身を完全には抑えられない。

「あら、彼死んでなんかいないわよ。何のために彼が最後にあれだけの糸を出したかよく見なさい。蜘蛛の糸と壊れた壁を、衝撃を逃がしている。本来の5分の1といったところかした。すべてが計算づく。いいわね、甘くて、理想主義者で、いつかそういう人の心を折たくなるわ。いい彼氏ね。将来有望だわ。」

「いえ、私はそういうのではなく、」

「あら、だったらなに、ただの幼馴染じゃなくて、彼はあなたの何なの、」

さやかは再度獅子王の顔色をうかがい口をつぐむ。

獅子王はここまで不快なことがあってたまるかと思いながらも、これ以上アンリの前で醜態をさらすわけにはいかないと、変身を抑え込み、薄っぺらな余裕を見せ、翔真に語り掛ける

「おめでとう、雲野くん。ところで、君が勝ったところで、君のお願いというのは何かな?

君の実力、見せてもらった、今の君なら僕たちの生徒会にだって入ることも不可能では、」

「お気持ちだけいただいておきます。形式だけでも誘っていただける会長の寛大な懐に甘えてして、別のお願いをさせていただきます。」

「それは何だい。言ってごらん。」

「僕は勇騎君じゃない、世界のすべての人を助けたいなんて思いもしない。

でも、ずっと好きだった人くらい守れるくらいは強くなりたい。その為に強くなりました。」

翔真はまっすぐにさやかを見つめ、求めるように手を伸ばす。

「守るって約束したのに、約束守れなくて、ごめん。でも、これからは俺が守るから、僕に君を守らせてください。僕は怪人だけど、君の中ではヒーローでいたい。

会長、さやかさんから手を引いてください。それが僕のお願いです。」

思いがけない要求に皆、ざわつきだす。何を言っているんだ、彼は、頭がどうかしているのか、でも、翔真の目は真剣で、その言葉には嘘はない。

「何を言い出すかと思えば、君は勘違いをしているな。彼女が俺のことを愛しているんだ。手を引くだなんて、なぁ、」

獅子王がさやかの顔に手を伸ばそうとすると、さやかは身を引く

「さやか、なにを」

「獅子王会長、本当にごめんなさい、今までずっと人間の私にここまでしてくれたことには感謝しています。でも、翔真君が約束を覚えてくれた、守ろうとしてくれた。私は翔真君のところに行きます。今まで本当にありがとうございました。そしてごめんなさい。」

あんな翔真の顔を見てしまった。何のために翔真が変わったか、そのことでさやかの中の何か大切なものが吹っ切れてしまった。あの日から日々翔真に絶望していった。幼稚園の頃に守ってくれた翔真。でもだんだんと距離が開いて、あの日の翔真ではなくなっていくことに、でも何も変わってなんかいなかった。翔真はあの日のままだ。

馬鹿なことだと思う、こうする事でどんな事が自分や家族の身に降りかかるか、でも翔真は守ってくれるといった。その言葉を信じる。

いや、そうじゃない、私がそうしたいそれだけだ。理屈の話じゃなく、感情の話だ。

「ごめんなさいだと、お前如きが俺を振る気でいるのか、あ?」

獅子王の目が変わり、その口には牙が見え、その手も、毛におおわれ鋭い爪が見える。

「違います。そんなつもりは、」

「ははは、いいざまね、いいわよ、行きなさい。まるでB級ドラマを見ているようですわ」

「アンリ!邪魔をするな」

「黙りなさい!獅子王家の最高傑作は平民出身の女一人を口説きおとすのに、権力に便り、揚句、感情的になり暴力を振るおうなどと、恥を知りなさい!」

アンリが手にした扇子を振るうとそれだけで獅子王は変身を強制的に解かれる。

「男なら、あの子みたいに正々堂々と自分の魅力で惚れさせてみせなさい。

女性の愛し方ひとつまともにできない自己中のガキが癇癪を起してみっともない。

そうだ、私との賭け、覚えている。賭けには私が勝った。予定通りあなたの一番大切なものをいただくは?」

「その話はあとで、」

「あなたの一番大切なもの、つまりそれは、彼女よ、今から伊万里さんは私のもの、今後一切の手出しは許さないわ。まさか、この私が、あなたの気持ちに気づいていないとでも、あなた、今まで嘘でも、私に愛しているといったことないのに、

まともに人を好きにもなれない男のゆがんだ愛情。

権力に負け、力に負け、それでもそれに頼ることしかできない、抗いがたい運命に逆らうこともできずに、」

「アンリ様、それ以上は、いくらアンリ様とて私が」

アンリののど元に龍千寺が刀を突き立てる。その眼には抑えがたい怒りが込められている。

「そうね、ごめんなさい。あなたの大切な人を悪くいってしまったわね。こんな手間のかかる子だけどよろしくね。支えてあげて、そうじゃないとこのまま本当にダメになるから。」

アンリは龍千寺の頭を撫でると、伊万里を連れてこの場を後にする。


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