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世界を滅ぼすその力

そしてどれだけ経っただろうか、大人たちは自分の役目を終え、帰路につこうとしていた。

だが……帰る前にとふと下を覗く、そこでは勇騎が変わらず、樹里の名前を叫び続けながら、必死に彼女を探そうとしている。

見捨てればいい、所詮はヒーローだ。子供とは言えヒーローであればこのまま何かあって見殺しにしても罪に問われることはない、むしろ助けることのほうが、

「主任、帰りましょう!」

「少しだけ待ってろ。」

だが、だからといってそれを良しとするほど、ジョーカーに信奉してはいない。

「もういいかげんにしろ!こんなことは無意味だ。こんな広範囲を探せるわけがない。それにもし見つかったとしても生きているわけがない。こんなバカのことはただの自己満足だ」

「ふざけんな、ヒーローにとって絶対の正義はなんだと思う」

「は?」

「それは人助けだ!俺は半人前だ、でも、どんなことがあっても、どんな状況でも、一つの命をあきらめる事なんてしない!それがヒーローとそうじゃないものとの境目だ!!」

だが、だからといって彼の言うことも理解している。

こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎていく、ひとりの力で何ができる。たった一人で何ができる。一人の命も救えなくて何がヒーローだ。

「俺はヒーローの名前が欲しいわけじゃない。助けたいんだ。

だから、すみません師匠。約束破ります。」

勇騎は目をつぶり、精神を統一する。たったそれだけの事。だが、それがあたりの空気を換え。その異変はたちまち世界に歪みを生んだ。空間が歪み、勇騎の周りに黒い闇が集まり、勇騎の額の紋章が消えていく。

そして同時に作業員の心の中に禍々しく、おぞましく、恐怖という感情が広がっていく。

「な、何なんだそれは。その力は」

勇騎を止めようとした作業員は、呼吸すらままならず、その力に怯える。

「全力でやる、悪いけどどいていてください。」

勇騎がただ手をかざす、それだけで男ははるか上方の道路にまで吹き飛ばされ、その衝撃で男は気を失った。

「破門だな、あぁ、もうこれで全部終わり、でもいいや、それでも、」

勇騎はその手に自らの体から溢れ出る黒い何かの流れを集約し始める。

周りの重力が歪み、勇騎を中心に宙で聞いたことのない音がこだましている。

その異変を察し、最高速できららが戻ってくる。

「勇騎!なんだ、これは!」

「きらら師匠どいていてください。危ないですよ。

一か八か、空に山ごと土砂を持ち上げます。全力でやります。

下手したらこの島ごと沈むかもしれません。みんなの避難をお願いします。」

目の前にいるのが勇騎か、見た目は勇騎だが、その力がその当たり前の理解をきららから奪う。勇騎に近づこうにも、さっきから魔力が吸われていく、魔力だけではない、生命エネルギーも、吸い取られ、勇騎の両手に包まれた黒い球体は、よりその色を増していくこれは畏怖すべき力、人の持っていい力ではない。

「勇騎、なんだか知らないがやめろ、それは使っちゃいけない力だ。」

「わかっていますよ。そんなこと、でも、僕はこの力にかけるしかない。」

『一か八か分の悪い賭けだね。そういう考えは嫌いじゃないが、それにかけるのは自分の命だけにしときな、少年』


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