決意の背中
結局、この日一日を見ても、成長したのは明らかに翔真の方、いや今日は特にというべきか、今日は翔真がここにいる最終日。それに昼間のこともある。
「やべっ、でもま、骨は折れてないだろうし、小一時間程度で起きるだろ」
翔真にまともな一撃を食らったきららは反射的にカウンターを入れ、彼を吹き飛ばした。
「まだです、まだ、」
「嘘だろ、気を失いっていないのか、でも無茶だ、ここまでだ。君は充分強くなった、明日には実家に帰らないといけないのだろう、これ以上は危険だ。」
「僕は、帰りませんよ。さやかさんが、会長とこっちにいることを知って帰れますか」
「心配するな、私がちょくちょく邪魔しに行くから、お前が心配するような間違いは起きない。……勇騎、先に帰って、風呂とご飯の準備」
「了解っす。」
勇気がいなくなると、翔真を砂場に正座させ、話を始める。
「さて、翔真君が伊万里さんのことを心配する理由もわかっているし、そうする理由も分かっている。でも、そう思っているならなおさら君は帰るべきだ。
残念だが、短期間で、私に教えられることはすべてで、君はそれを間違いなく習得している。これから先、君を鍛えたところで、劇的な、成長は見込めない。
元々君は怪人だが、私は魔法少女。どちらかといえばヒーローよりだ。
基礎は教えられてもそれ以上は私には教えられない。」
「それでも!僕は強くなった!それにもっと強くなります!」
「気持ちはわかる。でもそれだと獅子王の思うつぼだ、今日の事で君の心情を確信した獅子王にとって、君がここにいる事は逆効果だ。
それこそ、この場になぜ伊万里さんを連れてきたのか、そして獅子王らしからぬあの振る舞い、完全に君へのあてつけだ。もちろん獅子王の目的は君ではいないが、ついでであぁいう事が出来る奴なんだよ。ここにいる間、伊万里さんは私が守る。信じろ、」
「天都先生、」
納得できるわけがない、何のために力を求めた何のために、変わろうとした。
「だから二学期からはお前が守って見せろ。」
「そのために強くなれ、その為にも今は実家に帰れ、さっきも言ったよう私に教えられるのは基本だけだ。あとは、君の身内に聞くことだ。」
「身内、家族にですか?」
「戦えるだけの体は出来た。あとは戦う術と、経験を補う知識だ
それを手に入れられればお前は文字通り、時間と空間を支配できる。」
「でも、おじいちゃんは、そんなに強くなかったし、お父さんに至っては、怪人である事も捨てているわけで、」
「君のおじいさんは確かに能力的な意味では強くはない、だが、ヒーローの中で君のおじいさんを軽んじる者はいない、それは経験と勇気はそれを補ってあまりあるからだ。それと君のお父さんはな、まぁ、本人から聞くといいが、暴力など意味がないというだけで戦う術は知っている。むしろ、君の大きな力になってくれるのはお父さんの方だ。」
「お父さんが?なんでそんなことを言いきれるんですか?お父さんは怪人としては、」
「そうだな、君のお父さんは、怪人として戦った事は一度もないと思う、だが、私は海外を旅していた時、犯罪が集約するゴラムの街で君のお父さんに出会ったことがある。あれは、ねぇ、まぁ、何というか。戦いが嫌いというのは本当だろうし、暴力では世界を変えられないと信じているからそうしないだけだ。だけど、君以上にない才能を補えるだけの知識を持っている。ゴラムの街を夜スーツ姿で堂々と歩いている姿は後にも先に見た事がない。お爺さんの経験、お父さんの知識それをしっかり教えてもらえ、それが、君が強くなる一番の近道だ。その為にも事情は話しておけよ。そうすればきっと協力してくれる。君を育てた家族だ、きっと君の為になってくれるさ」
全てを納得したわけではない、だが、きららが嘘を言っているわけでも体よく説得しようとしたわけでもないと理解は出来た。だからこそ
「僕が強くなれるって本気で思いますか」
「疑う余地はない、君の覚悟は本物だ。いいか、才能というものは確かにある、でもそれが全てじゃない。人は神様じゃないし、機械でもない。完璧でもなければ、同時に限界なんてない、獅子王は強い、でも私は君が負けるなんて微塵も思っていないよ。
最もそれは今の君ではなく、明日の君だ。」
言葉に嘘はない、だったらそれに賭けてみる。
ありがとうございます。と、翔真は予定通り荷物をまとめ、寂しがる勇騎を残し、一回りも二回りも大きくなりこの島を後にした。




