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格差の世界

ヘラクレスビートル県菱川重工市採石場町1丁目。財源確保のため、市の命名権の売却に成功したかつて聖地と呼ばれたこの場所に、ジョーカーの旗が大きくはためく大きな建物。

ここはかつて輝かしい未来を夢見て作られたジョーカーの幹部候補生育成のための学校だ。

多くのヒーローたちを苦しめた怪人の子息や、全国から優秀な人材を集め、時代を担うリーダーを育成する国家機関。国家の安全と未来のための大義名分を掲げ、今でも多くの利権をまき散らしながら、巨額の公費が投じられその運営が続けられている。

そして、今日は週に1度の全校集会、先輩怪人たちによる過去の栄光の講義の最中だ。

「安全な国産の米が食いたいと市民は抗議を起こす、甘えるな!いいか俺たちの頃は、」

「ったく何時代錯誤の言ってんだよ、大体お前、まともに戦ってないだろっての」

「いいじゃん、言わせておけば、どっちにしろ、時間が来たら終わるんだし」

教壇に立つ50半ばの怪人の熱とは裏腹に、学生は俯き携帯をいじっている。

エリートの為の学校という看板は掲げているが、中身は普通の学校の大して変わらない。

異国で一人の男の天才的は発想によって生み出だれた新しい携帯電話は、かつてのそれとは違い、瞬く間に世界を魅了し、今や誰もがそれを手にし、当たり前のように使いこなす。世界を変えたと言っても過言ではない。この進化は多くの人の第一の出需品となり、ライフスタイルさえも変えた。かつてのこの学校なら、舶来製品などと禁止もしていただろうが、その利便性。何よりそれに取って代わるものを作れなくなった今のこの国ではこの世界を流れる潮流に遅れないためにも受け入れるしかなかった。

「ねぇ、光、漏れてるよ、」

「あ?なんだと雲野」

申し訳なさそうに後ろから小さな声で注意したクラスメイトに、大柄の生徒は明確に不快感をあらわにし、睨みつけながら、相手の襟元を掴み、顔を寄せた。

「いや、携帯の光が漏れてるよ先生も見ているし、せめて明るさを落としたほうがいいよ。」

「うるせぇぞ、んなこと分かってんだよ。お前が気にするようなことじゃねえ。」

「それに、せっかく、鷹野さんが話してくれているし。ちゃんと聞かないと」

「うるせぇつってんだろ。大体、担任も見てんだから文句があるなら言いに来るだろ、いいにこないってことは問題ないってことだろわかったか。あ?」

「雲野くん、真面目、マジうける」

男の横にいる女子生徒が高い声で、馬鹿にするように笑う。

「これだから、勉強しかできない奴は、礼儀も知らねぇ、だいたいなんでいつも最初にやられていた蜘蛛怪人の出来損ないがこの学校にいるんだよ。しかもこのクラスに」

「しかないですよ、大首領様のお気に入りだったわけですから、特別扱いで」

「違うよ。僕は自分の実力でここにいるんだ。君たちとは違う」

取り巻きの男の言葉が琴線に触れたか雲野は珍しく言い返した。だが、弁護の為のその言葉が携帯の所有者である大柄の生徒にはまるで自分たちを馬鹿にしているように聞こえた。

「あ!だったら試してみるか?」

彼の名前は兜=ハーキュリー=剛。この県を代々収めるヘラクレスオオカブトの怪人の直系だ。非常に暴力的で、甘やかされて育っており、先生でさえも彼に逆らうことはできない。生まれ持った体格と腕力がそれに拍車をかける。兜は目の色を変え、怪人の片鱗を見せる。

一方もう一人は雲野翔真。蜘蛛怪人の力を受け継ぐ少年だが、兜ほどその才能は引き継ぐことができなかった、学業だけで取柄で、怪人としての素質はC-。変身もできない。

「ちょと、騒ぎを起こしたらマズイって!」

「関係ねぇ、こいつにはいい加減覚えさせねぇといけねぇからな、社会の序列を、な」

手下とも言うべきクラスメイトを睨みで黙らせると、掴んだ雲野を軽々と持ち上げる。

「わかったよ、ごめん、僕が悪かった。だからみんなの迷惑になるから、」

雲野は周りの迷惑にならないようにと事態の収拾を図るため引き下がる。

だが、それが気に入らなかったのか、兜は思いっきり、頭を怪人の力で変身させ、その角で雲野を宙に浮かせ、壁まで吹き飛ばす。

「何事か!」

「すみません、雲野くんが携帯をイジってたんで、せっかく先輩が話をしてくれているのに失礼だろって言ったら、関係ないって言ったんで、我慢できずに、つい、なぁ」

「そ、そうか、雲野、お前は、そこに立っておけ、後から職員室に来るように」

あからさまな嘘、嘘をつく気すらない口調。だが、周りが彼に同調し、先生もそれを表面上は信じたことにした。これがこの学校の現実。最優先されるべきは権力だ。

「そ、それではこれで鷹怪人の鷹野さんの話を終わります。皆さん、盛大な拍手を」

まばらな拍手と後方から、下品な指笛が講堂内に響き渡る。

「えー、それでは続きまして、今日は転校生を一人紹介します。」

転校生、その言葉にあたりはざわつく、それもその筈、この学校は開校以来40年。

転校生など一度もなかった。そもそもそんなことができるのかというザワめきだ。しかも、1学期が終わろうとしているこの時期に、どんな権力者の子供だ。今までよりも大きなザワめき、だが、その壇上に上がる姿を見てさらにざわめきが大きくなる。


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