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助け舟

「応援しに来たんだよ。兜くんに勝とうという勇騎君をね。いや、流れとは言え、僕もつい無理を言ってしまった手前罪悪感があってね、勇騎君に肩入れしてしまうんだよね。」

「うっす、ありがとうございます。でも、男の勝負です。余計な気遣いは無用っす。」

勇騎は言葉通りに受け止め、獅子王の嫌味が通用しない。そのことがよほど不快だったのか、表情を変えずに、さやかに聞こえる程度の舌打ちをし、握った手の力が増す。

嫌味とは言え、コイツの応援をしていると思われた。

「伊万里さんの水着、会長の趣味ですか」

「そうだよ。いい趣味だろ。」

「そうですね。僕にだけ見せてくれるなら、でも伊万里さんにはワンピースのほうが似合うと思いますよ。露出だけが魅力の格好なんて会長らしくない下世話な発想ですね。」

こっちはこっちで、今の様子からこれまでの全てを見てきたかのように、乱れたさやかの髪や赤くなった体から察し、推察を膨らませ、それを勝手に事実と思い込み、不快極まりないく高まった感情を、強気な態度で会長に突っかかる。

だが、獅子王にとって翔真など敵としても認識されていない。馬鹿にしておちょくるだけだ。

歩けば散りゆく子グモも同然。だが、その明確な敵意の原因が何にあるかは明確。ならばと、獅子王はさやかの手を力づくで引き、体を引き寄せると、その肩に手を回す。

「そうかな、よく似合っていると思うよ。彼氏の僕が言うんだ間違いない。」

「そうですか、嫌がっているように見えますけど、」

「そんなことないよね。よく似合っているよね。さやか」

「え、えぇ、」

「ほら、さやかもそう言っている。」

翔真の気持ちを理解している獅子王はわざと嫌味を込めてさやかの名前を呼ぶ。

そして回した手をさらに絡みつかせ、翔真を本気で怒らせようとした瞬間

「あれれ?獅子王くんじゃない、それに伊万里さんも、どうしたのこんなところで?」

外面用の高い声で、物陰から大きな麦わら帽子をかぶったきららが出てくる

「天都先生。」

「あれ?もしかしてデート中?見せ付けてくれるのは結構だけどダメだよ。まだ二人共学生同士なんだから、清い交際を心がけないと。あ、そうだよかったらこれからお昼ご飯にしようと思ってたんだけど、獅子王君たちもどう、それによかったら夜も一緒に、勉強見てあげるわよ。」

「……せっかくですけど、僕たち、友達と来ていてみんな待ってるんでここらへんで、」

「そう、残念ね。あ、なんだったら、私そっちに遊びに行っていい?志堂君たちの合宿の監督もつまんなくてそっちだと楽しそうだしぃ、あ、そうだ伊万里さん、私と一緒にビーチバレーしない、私こう見えてもうまいのよ。こうやって、ポーンって」

「すみません。みんな先生がいきなり行くと驚くと思うんで、みんなに確認を取ってからまた連絡しますので、それじゃ」

「そう、残念ね。」

獅子王はきららと関わることが得策ではないと判断し、さやかを連れこの場を後にする。


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