獅子王たちの夏休み
一方、勇気と別れた樹里は、見つからないように、別荘の裏口から静かに入ろうとする。
「遅かったね。どこかでサボっていたのかい」
「も、申し訳ありません。恋夜ぼっちゃま、少し道に迷いまして。」
「ぼっちゃまはやめてくれと何度も行っているんだけど、バカは覚えが悪くて困る。」
「申し訳ありません、恋夜様。」
「ここで獅子王は僕だけだよ。気軽に下の名前で呼ばないでくれるかな。」
「も、申し訳ありません、獅子王様。」
「うん、それでいい。同じ人間でも伊万里とはこうも出来が違うかね。」
「本当に申し訳ありません。」
「いいかい、身分が下の人間がいくら頭を下げて意味はない、それより頼んだミネラルウォーターは」
「はい、こちらに、」
樹里は買い物バックから2lのボトルを取り出す。
「それもういらないから、捨てといて。それと、今日はこのあと海いって、そのまま夜はみんなで外に食べに行くことになったからいらないよ。」
「……そうですか、分かりました」
必死に作り笑顔をする樹里を見て満足したのか、獅子王はその場を後にする。
そしてそれと入れ替わるように、心配したさやかが入ってくる。
「大丈夫?樹里さん」
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけし、ありがとうございます。」
「ごめんなさい、さっきアンリさんからきつい事を言われたみたいで機嫌が悪くなって、」
「いいえ、遅れた私が悪いだけです。それより、伊万里様は折角の休日です。私のことなど気にせずに、楽しまれてください。こんな高級リゾート普通めったに来れませんよ。」
「でも、」
「本当に大丈夫ですから、明日の朝ごはんで名誉挽回です。」
明らかな強がり、獅子王が買い取ったこの別荘、獅子王が招いた彼の友人や、彼と親密になりたい同世代だけのこの別荘では、樹里へのあたりが明らかに強くなっている。
それは周りへのパフォーマンスでもあり、同時に彼の本来持つS気がこの開放的な状況でより強く出ている。それはさやかに対してもそうだが、樹里に対してはさやかから見ていても目に余る。だが、ここでこうして話していることがばれると余計に状況が悪くなる。
さやかは後ろ髪を引かれながら、海へと向かう。




