彼女の生き方②
「何?」
「いや打つのが早いなって、それに反応するのもすごく早いなって思っただけです。」
「優先順位が高いだけよ、あなたと会長だとね。どっちが重要かということよ。
あなたとの会話が中断しても何の問題もない、でもこういうものはすぐに返信する、それが好印象につながるの。さっき私の言葉遣いとか絵文字とかも言っていたけど、それもこういうものでは重要なこと。絵文字は使わないと逆に失礼なの、ちゃんとその状況に合わせて百以上の絵文字から適切なものを選択する。
文字だけでは伝わらない言葉のニュアンスを伝えないといけないから適切に選べるかどうか、そしてちゃんと考えて使っているかが重要なの、絵文字を使わなかったり、同じものを何度も使いまわしたりするのは手抜きで失礼になるわけ、そこまでは理解できる?」
「うっす、勉強になります。」
「で、この中の言葉遣いは会長の中ではこっちが本当の私になっている。さっき少し印象の悪い抜け方をしたからそのフォローも兼ねていつも以上に、バカみたいな言葉遣いで本当の自分を演出するの。そうすることで優越感を感じてくれるから、効果的なの」
「本当の自分?」
「そう、直接では言えないこともメールでは言える。私のキャラは完全に真面目キャラで、いつだって理性が自分を抑制するキャラなの。だからみんなの前や、会長の前だと、素直な自分を出せない設定になっているの。」
「設定、」
「そう、勝手に向うがそう思い込んでもらえればそれでいいの、だから、直接電話があった場合はこんな喋り方はしない、そうね、だいたいこんな感じかな」
さやかは急に高く、間延びした、明るく好印象の口調で、聞いている勇騎が恥ずかしくなるような言葉を口にするが、表情が少しも笑っていない。
「だいたいこんな感じわかる?こうすることで、会長の中の私の印象を高めているの。」
「どうして、そこまで、」
「決まっているでしょ、上に行くためよ。この社会は皆が平等じゃない、力が物を言う世界、そしてこの社会で最も重要な力が権力よ。
あなたたちヒーローがいた頃は、あなたたちを倒すことで、一気にその地位を上げることができたけど、ヒーローがいなくなった社会で、私みたいな普通の人間が成り上がろうとすれば権力者に頼るのが一番、いくら頭がよかろうと、どんなに強くても、それを使う場所がなければ意味なんてない。お金もない私が、そんな今の社会で上に行く機会に恵まれる唯一の方法、それは純粋にお互いの関係性、絆ともコネと言われるものよ。
私はずっと努力をしてここまで来た、あなたとは違う、自分の意志で、自分の努力でここまで来た。それでも私はこれから先に行くためのスタートラインにも立っていない。
私はまだ与えられた課題を成し遂げてきただけ、これからここを卒業し、ジョーカーに認められ、安定した職務に付けるようにならないといけない。
そのためにはいい成績でこの学校を卒業するのは前提。でも怪人の才能を受け継いでいない私はここから先の社会ではこの学校の誰よりも不利なの。
改造手術を受けて怪人になることはできても、確実に有益な力を得られる保証はない。昔よりもその精度も成功率も上がっているとは言え、私に先天的な才能がなければどうしようもない、いいえ、それ以前に私の家の経済にはそんな余裕はない。
そんな状況で私は勝ち上がる必要がある。そうしないと私はただの負け犬、今まで積み重ねてきたものが全て無駄になる。そうさせない為の努力は惜しまない。
そんな私が努力でもどうしようもないところをカバーするために、一番すべきことが会長に気に入られる事、会長は卒業すればすぐにジョーカーの幹部、そしておそらくは人事権を持った重要な役職に就くことになる。
彼にはそれだけの才能も資格も、そしてそれだけの後ろ盾もある。
だから会長が卒業までお気に入りでいて、私は卒業するまで学業で優秀な成績を示せば、私はジョーカーで安定した地位を手に入れることができる。
そのための可能性が一番高い方法がこれなの、
もちろん、会長は私のそんな意図をある程度は見抜いているけどそれでも、どこかでそうやってあがいている私を可愛いと思っているだから当然それを利用する、機嫌を損ねないように、気づかれていることに気づいていていないふりをして会長に望まれる自分を演じる。そうすれば下手に深入りされずに、私はローリスクで、欲しい物が手に入る。
私が会長に愛されたいだなんて本気で思っている?冗談、あんな傲慢チキで自分しか見えていない男を好きになるわけ無いでしょ。女を自分のステータスをはかる装飾品だなんてしか見えない男と一緒にて幸せなのは、同じ考え方を持つ女だけよ。
私は何が本当の幸せなのかを知っている、お金は幸せを維持するために必要な条件であって、幸せを図るためのステータスじゃない。社会から与えられた地位役割、いわゆる名誉もなんの役に立つの?馬鹿じゃないの。私が欲しいのは私の大切なものが何の心配もしなくて、できるだけ一緒にいられること、その為にたかだか3年がなによ。青春くだらない。
いい、その時にしかできないことなんてないの、私はこれから先の60年を平穏無事に暮らせるために、他の人がほうけている時間を全て使って、手に入れる。
その為に昔の友人も、今までの関係性も犠牲にしたことを少しも後悔していない。
だからこそ、こうしてパーティーに参加することも、メッセージを送ることも私にとっては学業と同じ、いいえ、1年の今の時点ではそれよりもはるかに重要なことなの。
私の言っていること、理解できている。」
自分で言っていても嫌になるほど自己中心的で利己的な考え方だ。
だからこそ、常に自分の流儀の正義を振りかざす、勇騎がどう反応するかなんて目に見えている。でも、そんなことは関係ない、母親や妹の期待に応えるためにも私は、
だが、勇気の反応は予想外だった、尊敬する人を見るような目で才加を見つめ、すげぇカッコイイそうつぶやいた。それは勇騎の心からの言葉だった。
「引かないの?」
「どうしてですか?意味がわかりません。それだけ考えて、その為に努力する。すごくかっこいいと思います。伊万里さんは漢の中の漢です。」
「だから男じゃねぇし」
「すみません。今まで伊万里さんのこと誤解していました。何という先見性、なんという頭の回転の速さ、さっきの演技力見事でした。軍師と呼ばせてください」
「はあ、なんでそうなるの?」
「師匠から、お前はいつも思慮が浅いと言われています。直線的で相手の裏を見抜くことに劣っている。と、それに比べ伊万里さんは、己を知り、武の及ばずを、知にて補ってあまりあります。だから是非俺の師匠に、」
「断る!私はあなたになんて構ってられないの、それに会長はあなたのことが嫌いなの、あなたと話しているところも知られたくないの。わかる。」
「なるほど、了解しました。あれ?でも俺会長と話したこともないのに、」
「あなたはヒーロー、理由はそれだけで十分でしょ。」
「なるほど、そういえば伊万里さんもそうでしたね。」
「そうよ、もっとも、あなたは大分思っていたヒーローとは違うみたいだけど」
結局そのあとは、一言も会話をすることなく、さやかを寮の前まで送って行った。
「一応、ありがとうは言っておくわ。でも、明日から学校では、」
「わかっています。今まで通りですね。それじゃ、おやすみなさい。」
「えぇ、おやすみなさい。」




