学園の支配者
「獅子王会長、」
「退院おめでとう、元気いっぱいなのは分かるけどやりすぎだよ。ここでやめときなよ。
そりゃ君のその覚悟、怒りはごもっともだから、今なら見逃してあげないこともない」
「見逃してもらう必要なんかないね、今の俺を止められるもんなら止めてみろよ」
その言葉を聞いて必死に笑いをこらえていた獅子王はこらえきれず笑い出し、それにつられるように上の階から3年生がつられ笑いをする。
「いやいや、ごめんごめん、たかだが、その程度の力で溺れられるとは、めでたいな。」
「てめぇ!馬鹿にするのか!」
今度は会長に狙いを変え、背中の羽で飛ぼうと凄まじい風圧で翼を羽ばたかせ、舞い上がろうとした瞬間、肩を捕まれ、宙に飛ぶことをあっさりと止められた。止めたのは細身で決めの細やかな肌を持った腕。そしてもう一方の手は腰の刀にかけ、いつでも抜く気満々だ。
「バタつくな、ゴキブリみたいな羽で気持ち悪い、あとスカートがめくれる、クソガキ。これ以上、この学園の伝統と歴史に泥を塗るような横暴を続けるのなら、いくらお前といえどただではすまなさないぞ。何より師子王様にてめぇ呼ばわりとは死にたいのか」
「言っても分かりませんよ、所詮は虫、知能なんてありはしません。だからこうして動けなくするのが一番、堅牢な外殻は甲虫の名に恥じませんが、関節部分は脆いものです。」
何をされた、一瞬にして兜は体の自由を奪われ、羽の動きを止められた。
「生ぬるいな、こういうものは体に教えるのが一番だ!甲殻ごと砕いてやる。」
「龍千寺副会長、朱雀宮書記、虎城風紀委員長」
いつの間にか中庭に現れた3人が、兜を取り囲む。
彼らは獅子王の親友であり、同じく生徒会を支える学園最高峰の実力者たちだ。
「僕は、悪くない、僕は悪くない」
「佐野先生、大丈夫ですか」
兜が動けない隙にさやかは、怯え混乱する佐野に駆け寄り、壊れたメガネを拾うと、鼻血を出す佐野をこの場から逃がそうとする。
「お前か、伊万里、会長にチクリやがったのは、」
「ここまでの騒ぎを起こせば誰だって止めるわ、当たり前よ」
「会長がいると強気だな、怪人の力も受け継いでいない、色仕掛けだけが取り柄の妾の女が、ビッチの娘はやっぱりビッチか、困ったことがあれば自分の男に直ぐに頼りやがる。」
「おい訂正しろ、ゴキブリ野郎、私の会長を愚弄する気か。会長がそんなものに惑わされるわけがないだろうが、下賎な発想しかできないバカが、首をはねるぞ」
「本当のことだろうがよ、知ってんだぜ、そいつが会長の家から出てきてるのを何人も見てんだよ。媚びることしかできない人間風情が」
「だったらなんだ?君には関係ないことだろう、君は僕のストーカーか?」
「ふん、透かしやがって……どけよけ、もうそこの死にぞこないに用はない、暴れもしねえよ、ちょっとそこの売女に話があるだけだ。心配すんな手はださねぇよ。」
兜は、さやかを睨み、3人の会長の部下の拘束を緩やかに解き近づこうとする。
彼らも騒ぎを起こさなければ、会長の指示がなければどうこうするつもりはない。
その様子をクラスメイトもじっと見守っている、そして翔真もまた、同じように様子を伺う、だが、内心は穏やかではない。
さやかさんが傷ついている。兜の心ない言葉で、悪意しかない、でも、悪気のない言葉で、そんなに簡単に放たれた言葉で、罪の意識も何もないそんなもので傷つけた
勇騎は俺のために怒ってくれた。俺がここでやらなくてどうする。
自分が傷つけられることではあり得なかった感情が、翔真の損得勘定を吹き飛ばし、兜の腕をめがけ、翔真は糸を出し絡みつかせる。
「兜、それ以上さやかさんを侮辱してみろ、俺が殺す。」
「何いきがってんだよ、雑魚が!!きもちわりぃ糸で何ができんだよ。」
兜はなんの苦もなくあっさりと翔真の糸を引きちぎる、だが、翔真も悔しくて泣きそうなさやかの表情を見ては引き下がれない。翔真は連続で糸を出し、兜を止めようとする。それが鬱陶しくなった兜はその糸をちぎるのではなく、まとめあげ握ると、力任せに引っ張り、翔真を中庭に引きずり出す。
「会長さんよ、これは俺に対する攻撃だよな。まさか止めはしないよな。」
「なるほど確かに、でも死人が出るようなら困る、」
「了解、だってよ、雲野」
「翔真!」
「さやか、男の勝負だよ、邪魔しちゃダメだよ」
先ほど兜が恋人であるはずのさやかを言葉で傷つけようとした時は止めなかったのに、
「でも獅子王会長!」
「彼は君にとってそんなに大事かい、ただの幼馴染そういったよね」
獅子王は冷たい目でさやかを見るそれがなんであるか理解できないさやかではない。
感情に任せて動くべきじゃない、今後のためにも今は、そうするするしかない。
「そう、それでいいんだ、君は僕ものだ、そうである限り、君の欲しいものは手に入る。嫉妬深い僕をあまり失望させないでくれよ。」
結局、翔真が一方的に暴力を振るわれ、さやかはただその様子を見せつけるだけだ。
今は耐えなければいけない、そうすれば最後には会長が助けてくれる
それに今会長に見捨てられれば、自分の夢も、翔真の命も保証はない。
翔真はピクリとも動かなくなると、獅子王は目線で指示をし、龍千寺に止めにはいらせる。
やりたいように力を誇示し満足したのか兜は中庭から全校に響くように高笑いを始める。
それは今まで以上の、暗黒の時代が始まることを告げる鬨でもあった。




