プロローグ
今から50年前、復興には100年はかかると言われた大きな厄災から、
立ち上がろうとするこの国に、その心に大きな野望を秘め、
その目標を達成するために、自らの肉体の犠牲もいとわず、
ただひたすらに努力し、研究し、あらゆる手段を講じ、
失敗も糧とし、明日に向ってただひたすらにたった一つの目標達成の為に組織が一丸となって行動する者たちがいた。
時には仲間の犠牲も踏み台とし、時には己が踏み台となり、
ただひたすらに、愚直なまでに、どんな困難に出会おうとも、
どんな苦難が待ち受けようとも、彼らは決してあきらめない、
その手に世界を掴むまでは
そう、かれらこそ、悪の秘密結社ジョーカー
彼らと共に、この国は経済成長を生き抜いた。
世界第2位の経済大国まで上り詰めたこの世界には常に彼らがいた。
しかし正義の味方、ヒーローらは駆逐され、戦うべき相手を失った彼らは年老い、やがて安寧の中で徐々に衰退していた。
かつての様に渇望するわけでもなく、かつてのように貪欲ではない。
ただ不幸だと嘆いていても、希望を持てないとしても、
今ある社会は穏やかで、混乱とは程遠い秩序ある世界。
それを捨てる必要がある程、この世界は終末には向ってはいない。
とは言え今ある社会には、かつてとは違う問題が山積だ。
この国を支えた技術も、資本も、そして変えるだけの可能性を秘めた新しいものが生まれる環境も、新しい発想、強い意志、変えるだけの行動力持った人材も、そして何より、
信頼でき、責任のとれる指導者もすでにこの国にはいない。
この国のジョーカー支持率は常に半数以下、だが同時に、ジョーカー以外の支持率も10%を超える事はない、選択の余地なく、可もなく不可もなくそれがこの国の本質だ。
ジョーカー歴50年、ヒーローたちが表舞台から消えて約20年経過した。
だが、闇あるところに光あり、ヒーローは完全にはいなくなったわけではなかった。
かつて九州と呼ばれた地に彼らヒーローは集結し、通称、修羅の国と呼ばれ、恐れられた。
地図上からも消され、報道されることもなく、人々の記憶から消えながら、為政者達の間では、暗黒の地として恐れられ、今もなお存在していた。
この日、修羅の国より、一人の少年が、ジョーカー本部を目指し、海を渡った。