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ディアナの戦いが始まった。
敬愛する女王に率いられ、兵士達は奮い立った。
「この国を侵略者に明け渡すわけには行かない!全軍突撃!」
美しい女王が馬の腹を蹴ると、兵士達は喚声を上げて後に続いた。
「美しきウィルネのために!」
「我らが女王陛下のために!」
猛烈な勢いでぶつかってくるウィルネ軍に、ファイス軍は怯んだ。
何倍もの数の敵軍に、徐々に呑み込まれていっているにも拘わらず、彼等の勢いは止まらない。
血まみれになっても動きを止めず、たくさんの敵を巻き添えにして死んでいく。
ウィルネの戦士達の心に、死への恐れはすでになかった。
だが、そこまでしても、戦況は悪くなるばかりだった。
勝機はどこにも見当たらず、ディアナは唇を噛み締める。
ディアナもまた、無傷ではいられなかった。身体中から血が流れ出ている。矢傷を受けた左腕は、ほぼ意志の力のみで動かしていた。
――これで終わってしまうのか。
絶望しかけた彼女だが、眼前で戦い続ける同胞達の姿を見ると、その瞳には再び力が宿った。
(させない。終わりになど、させるものか!)
彼女は、槍を掲げ、あらん限りの力を込めて叫ぶ。
「――海を守護する麗しの女神よ。私の命と引き換えに、我が民をお救いください――!」
戦場の隅々にまで響いたのではないかと思わせるほどの大音声だった。
一瞬の静寂。そして――、
「海が…!」
彼女の声に応えるかのように、突如海面が持ち上がり、戦場に巨大な波が押し寄せてきた。