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そして、出陣の時は刻一刻と迫る。
城内が慌ただしい空気に包まれる中、女王は戦支度をしていた。彼女を手伝っていたのは、たった1人の血縁である妹・リアナであった。
「…何か言いたそうね?」
リアナは口に出しては何も言わなかったが、その表情は彼女の心情をはっきりと映し出していた。
「言っても聞き入れてくれないでしょう。お姉様はいつもそうなんだから」
ようやく口を開いた少女は、ぴしゃりと言う。
「…そうね」
気が強くしっかり者だが、本当はとても泣き虫な妹の頭を、ディアナはそっと撫でた。
身支度が終わり、最後に槍と弓を渡してくれた妹に、ディアナは手を出すように言った。言われた通りにしたリアナに、美しい銀の指輪を渡す。リアナは、顔を強張らせた。
「やめてよ!こんな、形見を渡すみたいに「よく聞いて」
強い声で抗議を遮る。
「戦が終わったらこの指輪を嵌めて。大事なことだから忘れないでね。戦が終わったら、必ずこの指輪を嵌めて」
「わ、分かったわ」
「いい子ね。ありがとう」
もう一度頭を撫でて離れようとした姉の手を、リアナは素早く掴む。
「約束する、必ず戦の後に嵌めるから、だから…」
お願い、生きて還ってきて――。
ディアナは軍を率いて城を出ていった。それを見送る妹の頬を、涙が一筋伝う。
傍らに控えていた侍女は、少女を痛ましげに見つめた。
だが、
「宰相を呼びなさい。皆を避難させます」
「姫様…」
「大丈夫、私がしっかりしなくては。今の私は、女王陛下の名代なのだから」
凛と背筋を伸ばして身を翻した時には、すでに彼女の双眸に涙はなかった。