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ディアナという名のその女王は、病死した先代国王の後を継いで数年が経っている。だが、彼女はまだ20歳にもなっていなかった。
賢く、勇敢ではあるが、いまだ幼さを残した女王の出陣に、重臣達はこぞって反対する。
「どうか、今一度お考え直しください!」
「あなたの身に何か起これば、この国はもはや立ち直れませぬ!」
宰相を筆頭に、臣下達は懸命に訴えたが、ディアナは頑として考えを変えなかった。
「このまま私が閉じ籠もっていても、死者が増えるだけよ」
「失礼ながら、あなたが出陣なさったところで、事態は好転するとは到底思えませぬ!」
宰相は、若い君主を鋭い瞳で睨みつけたが、彼女はそれを上回る眼光で睨み返した。
「だからと言って、民を盾にしておめおめと生き残ることなどできない!」
燃えるようなその瞳と激しい声音に気圧され、宰相は思わず口を閉じた。
女王は、一転して静かな声で続ける。
「大丈夫よ。この国は、海の女神に護られている。私達が諦めなければ、道は必ず開ける」
「で、ですがっ…」
声を上げた者は、静かな、それでいて力強い瞳に見つめられ、息を呑んだ。
「私がいなくなっても、リアナが――妹がいる。あなた達もいる。何よりも、大勢の民がいる」
女王は、威厳に溢れる瞳で、重臣達を、父の代から国を支え続けている大切な師であり戦友である者達を見渡す。そして――、ふっと花が開くように笑った。
「1人でも諦めない者がいるならば、この国は何度でも生き返る。だから、私は皆に諦めさせないために、行くの」
臣下達はもはや何も言うことはできず、ただ黙って頭を下げた。