闘技会7
カーレル様は少し黙った。よく考えてから話すとき、カーレル様はこうしていることが多いので待ちます。
「彼が辞めてすぐ、新しい補佐官を採るよう言われました。君はとっくに知っているでしょうが、補佐官は護衛も兼ねますから、ある程度強くて事務仕事もできる人間から選ばれます」
うん、そうだ。強い、という部分だけなら私が選ばれても不思議ではない。でも事務仕事ができるか、というところで私では引っ掛かるはずだ。平民の出ということから候補にすら挙がっていなくてもおかしくはないのだ。
「だって私は力はあっても事務とかそっちの能力はないと思われていたでしょう?なぜ他の明らかに優秀な候補を採らなかったんです?」
「いえ、別に事務仕事ができる必要はありませんよ。あくまで参考ですし。事務仕事なら私だけでもできます」
そうですよねー、カーレル様の書類の処理速度物凄く速いですからね。でもそれ、面と向かって言われると悲しくなってくるのですが、実際そうだから言い返せないし。
「別に君が必要ないとは言っていませんよ。書類は減るから楽ですし、一人だけで作業していると寂しいですから」
私の表情に気付いたのか、珍しくカーレル様が少し慌てた様子でフォローしてくれました。
「君が事務仕事はそこまで得意でないことは知っていましたよ。でも最近はもう慣れてきてだいぶ速くなっています」
いえ、もう大丈夫です。わかってることですからもういいですよ。
「でもなぜ私を?事務仕事ができるようになる保証もないのに」
力くらいしか取り柄ありませんし。
「君は……言いたくはありませんが、貴族から見れば平民です。実力で明らかに劣っているのに地位では下だから、という理由でいいように使われてしまう気がしました。大きすぎる力は見えるところにあっても使わないのが一番。平民の才能を見出だすのは下手なくせに、それを潰すのは得意ですからね。貴族というのは。権力争いの駒になるのは誰だって嫌でしょう」
私も貴族ですが、とカーレル様も自嘲するように言う。
「しかし、宰相の補佐官であればあのまま精霊院に居続けるより貴族の言いなりにはなりません。まあ私付きの補佐官なので、言い方は悪いですが私の言いなりみたいなものですけど」
カーレル様はそう言って笑った。確かに補佐官ですから、カーレル様の言いなりみたいなものだけど、家柄だけの貴族に使われるより何倍もいいに決まっている。
でも、なんとなく他の理由もそこにある気がした。私は隠し事が多いから、わかるときはなんとなくわかるのだ。まあ、聞いてほしくないことなんだろうし、これ以上詮索するのも私を補佐官に選んでくれたカーレル様に失礼だろう。
「ありがとうございます。あの、そろそろ動けそうなので戻りますか?」
腕も普通に動くようになった。身体のどこにも痺れは感じないから、もう歩けるだろう。
「そうですか、あまり向こうを留守にして騒がれても面倒ですし。君が目をかけていたあの二人の試合が始まるかもしれません」
私はソファーのひじ掛けに手をかけて立ち上がる。いきなり立ち上がったから一瞬頭がくらっとしたけどすぐ治った。
まだ少し不安なので、カーレル様に横にいてもらい、私は部屋を出た。




