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宰相様のお土産

殿下主宰のパーティーの次の日の朝、宿舎のベッドから起き上がると案の定筋肉痛になっていた。

氷精霊に少し冷してもらいながら着替えようとすると、筋肉痛で足をあげてズボンをはくのがつらい。

『主人を筋肉痛にした元凶の娘達の顔は覚えていますから、探しだしてしばらく歩けないようにします』

『私も行く』

そんなことしなくていいから、あと覚えなくていいから。

やられたら同じような目に会わせるっていうのが精霊の仕返しなんだろうな。


私はなんとか着替えて立ち上がった。朝食は買い置きしてあるのを食べるか、朝市で適当なものを買って宰相様の部屋で食べている。

幸い棚に買い置きしてあるパンがいくつかあったので、それを袋に詰めて部屋を出た。今日は昨日休んだ分の書類がたくさんあるはずなので、行儀は悪いが食べながらでも目を通さないと。



なんとか部屋に到着した。

机に目をやると書類の山が普段は一山くらいなのに今日は山が2個になっている。夕方頃にも書類が届くので今日は合計3つの書類の山をさばかなくてはいけない。

カーレル様の机にも書類の山ができていた。しかも私より多いし高い。出張から帰ってきてそうそうこの書類の山を見たくないだろうな。私だったら耐えられない。

でも人の心配より先に自分の仕事を片付けるべきか。

ふとこの山を燃やしたらどうなるんだろうという暗い想像をしてしまった。

『燃やすなら私が!』

冗談だよ、これは。やれるもんならやりたいけど。



もうすぐ昼になる頃、1つ目の書類の山をさばいていると、だんだん書類のどうでもいいところが気になるように……集中力がなくなってきた。

何で訓練で壁が壊れるんだ。何で備品が消えるんだ。何だ予算が足りないって、十分あるはずだが。人手が足りないならもっと人を雇えばいいだろ……

一度休憩しようかな。と思ったとき、ちょうどカーレル様が帰ってきたという連絡があった。

帰りは夕方頃になると思ってたけど早かったな。

私は気分転換になるかもしれないと思い、カーレル様が帰ってくるのを待った。迎えに行こうにも足が筋肉痛だから動きたくない。待ってる間に1枚くらい書類読めるかな。



「やあレゲル君、どうだった昨日のパーティーは?」

カーレル様は帰ってくるなりそう言った。相変わらず能天気な声だ。

「お疲れ様でした」

カーレル様は出ていったときと服装は同じだが、手に何か持っていた。大きめの箱のようだけど、何だろう?

「ああそうだ、レゲル君にお土産だよ」

「お土産……ですか」

カーレル様はにこにこ笑っている。私は少し前にカーレル様からもらったお土産を思い出した。

なんの役に立つのかわからない置物、いつ着るんだと言いたくなるような民族衣装……カーレル様からのお土産にはろくな思い出がない。

私は立ち上がってカーレル様のそばに寄っていくと、カーレル様はその箱を書類の乗っていない机に置いた。

「何ですか、これ」

「ザンテの特産だよ」

そう言ってカーレル様は私に箱を開けるように言った。

「開けたら何か飛び出てくるとかはしませんよね」

「信用してくれないのかな?」

私はザンテ区の名物を思い浮かべた。

自然豊かなので肉とか乳製品かお菓子か……あそこ確かドラゴンの育成で有名だから……木彫りのドラゴンとか……?

私は意を決して箱を開けた。精霊も見えないのをいいことに箱の周りに群がっている。

そこに入っていたのは薄い水色のドラゴンの……置物?どうするんだこれ。

「ドラゴンの置物ですか……ん?」

一瞬、私は目を疑った。尻尾の部分が揺れて、頭も動いているように見える。

「これ本物だよ」

「……へっ?」

「本物のドラゴン」

「ええっ!?」

よく見るとまばたきした。尻尾と首も動いてる。

「何で生体のドラゴンがお土産なんですか!」

「何でって、お土産にってくれたんだ。まだ子供のドラゴンだって」

「それって賄……」

「賄賂って、人聞きの悪い。これはお土産だよ」

賄賂と言おうとしたら先に言われた。だってドラゴンがお土産って、ドラゴンって高いだろ、相当。これが賄賂じゃないならなんなの?

「かりにこれを彼らが私への賄賂のつもりでくれたとしても、彼らによい態度をとったりはしないよ。勝手にくれたんだから」

「……どうするんです?そのドラゴン」

何を言っても言い返されそうなので、私はもう何も言わないことにした。

「王都の竜舎に預けますか?」

私がそう言うと、おもむろにカーレル様はちびドラゴンをつまみ上げた。手のひらに乗っかるくらい小さいドラゴンだ。

「はい」

そう言ってカーレル様はドラゴンを私の服につかまらせた。

「えっ……と」

私は思わずドラゴンの方を見た。

ドラゴンの丸い目とばっちり目が合った。

「これで刷り込みは終わったね」

刷り込みってあれか、生まれて直ぐの子供が始めに見たのを親と認識するとかいう、あれか。

「何してるんですか!」

「この頃に刷り込みをやるとずっと言うことを聞くようになるらしいよ」

「そういう問題じゃないでしょう!?」

つぶらなドラゴンの目が私をじっと見ている。

「大事に育ててあげてね」

「私が育てるんですか!?ドラゴンの育成方法なんて知りませんよ」

「その子にとっては君が親だろう?育て方ならこの紙に書いてあるよ」

そういうことを言ってるんじゃないんですけど!

「この子は竜舎に預けてきますよ。私が育てるよりは確実です」

「なんてことを言うんだい?君はこの子の親じゃないか。こんなに小さな子供を放っておいてはいけないだろう」

私に刷り込んだのはあなたでしょう。私にどうしろと。

「それにこのドクル種のドラゴンは大きくなると人が一人乗れるくらいになるし、比較的賢いから」

「大きくなるってどこで育てればいいんですか!?この大きさならまだなんとか部屋で育てられますけどこれ以上になったらどうすればいいんですか!」

「確か君のいる宿舎は屋上があったはず。ドラゴンを飼う機会なんてないんですから、頑張ってください」

「カーレル様が育てればいいじゃないですか!」

もらってきたのはカーレル様でしょう。自分で育ててくださいよ!

「僕は育てられません。自分の子供一人で手こずってるんですから」

そういえばカーレル様子供いるんだっけ。確か10歳くらいの。一回も会ったことないけど。

「というわけで、大切に育ててあげてくださいね。もし飼育費に困ったら言ってください。一応貰ってきたのは僕なので、ある程度の援助くらいしますよ」

何を言っても私が育てることになりそうだ。

「……何食べさせればいいんです?」


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