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邪精霊4

何が起こっているのか、さっぱりわかりません。ですが、何とかしていただけるということだけはわかりました。

まさか殿下のお世話になるだなんて考えてもいませんでした。

精霊と契約すらしていない私が精霊について調べていたら不審がられると思って、調べることができなかったせいでもあるのだけれど。

レゲル様と殿下のお話を聴いていて、邪精霊の唯一の弱点が神精霊であることはわかりました。けれど、そんな天敵であるはずの神精霊が近くにいるというのに、私に憑いた邪精霊は全く気付いていないように、ずっと同じ場所を漂っています。

恐い。

ですが、今は隣にレゲル様がいます。きっと大丈夫です。そう自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせます。

「では、始めます」

ヘリアルという神官がそう宣言したとたん、辺りの雰囲気がガラリと変わりました。ピリピリと張り詰めた感じです。

すると、今まで何事もないかのようにふわふわと漂っていた邪精霊がビクリと大きく動きました。そしてどこか逃げ場を探すように猛スピードで動き回り、見えない壁のようなものにぶつかっては別のところにぶつかっています。

これで終わりなのかしら、そう思った次の瞬間、邪精霊が一気に方向を変えて、真っ直ぐ私の方に向かって飛んできました。まるで私に助けを求めるかのように。一瞬、恐れていたはずの邪精霊が追い詰められたとても憐れな存在に思えました。

避けることが出来ません。ぶつかった、と感じるのと同時に、誰のものなのかわからない記憶が私の中に入り込む……


わたしはずっと探し求めてきた大切な存在を見つけることができた。一瞬でその人のことを好きになって、ずっと一緒にいるという約束もした。何よりも大切な存在、わたしが存在するのはこの人のためだとさえ思った。

でも、なぜ?気が付くとあの人がわたしの下に倒れていた。鋭利なもので付けられたような無数の切り傷、この傷がこの人の命を奪ったことは明白だ。死んでいるこの人の傷からは今も血が流れていた。

誰が?そう思ったとたん、まるで何かを切り刻んだような生々しい感触が脳裏に甦る。わたしがやったのだ。誰よりも大切なこの人は、わたしが殺した……

「いやっ!」

気が狂ってしまいそう。悲しくて、悔しくて、なにもかもが憎らしい。

なぜわたしはこんなことをしたの?お願い、誰か教えて。わたしはいったい何なの?

ふわりと暖かい風が頬を撫でた。落ち着けと優しく諭すような風。

この風を感じているのはわたし?それとも私?

思わず自分の身を自分で抱き締める。私は、私だ。

そう確信した瞬間、私は邪精霊の断末魔の叫びを聴いた。

耳と頭の中に直接響く、悲痛で、訴えるような怨嗟の声、苦しげで怒り狂う声……

ありとあらゆる負の感情を体現したような声が、いつまでも続くようにガンガン響く。耳を塞がずにはいられない、けれど塞いでも変わらず響き続ける。

耐えきれず、足元がふらついた。

前なのか後ろなのか、そもそもここは現実なのか、わからないまま倒れていく。

私は衝撃か、そのままどこかに落ちることを覚悟しました。

しかし、意識が消える寸前に、人間の二本の腕で優しく抱き止められられ、私の意識は一瞬で現実に引き戻されます。

叫びなんてもともとなかったかのように、静寂に包まれた現実。

「大丈夫ですか?」

その声にはっと私は私を抱き止めてくれた人の顔を見ました。

心配そうに私を見つめるレゲル様、しかも顔が近いです……

私はぱっと立ち上がって、壁に手を付けて心を落ち着かせます。頬が火照っています。こんな顔、見られてはいけない。

深呼吸をすると、少し心も火照りも落ち着いてきました。

「はい、平気ですわ」

不思議なことに、先ほど頭に流れ込んできた何かの記憶は完全に無くなっていた。覚えているのは私がただ悲しみと悔しみを感じ、全てを憎いと思ったことだけだ。

「あなたの中に邪精霊が入り込む前に祓うつもりでしたが、入り込ませてしまいました。申し訳ない」

殿下が申し訳なさそうに頭を下げました。

「いいえ、そんなことありませんわ。邪精霊を祓って頂けただけでも十分です。それに入り込まれたときのことは覚えていませんわ」

殿下は悪くありません。お願いですから顔を上げてください。

「あのそろそろ戻った方がよろしいのでは?あまり長時間会場を離れていてはまずいでしょう。フェターシャ様も落ち着かれたようですし」

レゲル様の提案に殿下は頷きます。

「私が先にヘリアルさんと戻ります。その方がいいでしょう」

いい、とは何がいいのでしょうか。恐らく私と殿下の世間から思われている関係のことでしょうけど……このまま別れてしまっていいのかしら。

「あの」

私はパーティー会場に戻ろうと背を向けたレゲル様に声をかけました。レゲル様は突然のことに振り向いて慌てて微笑みました。

「先ほどはありがとうございました」

「いえ、女性を守るのは当然です」

用事はお礼だけだと思ったのか、そう言い残してレゲル様はそのままパーティー会場に戻ってしまいました。

少し時間が経ち、殿下が口を開きます。

「私達も戻りましょうか」

「はい」

私は何とか微笑んで応え、殿下とパーティー会場に戻りました。



フェターシャ目線になっています。

レゲル君は邪精霊が見えないので実況中継?できませんので……


そのレゲル君は相変わらず鈍感街道を突っ走っています(笑)



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