年が明けて2
久しぶりの王宮だ。
知り合いとすれ違うたびに久しぶりですと言われる。確かに補佐官になってからこんなに長く王宮にいなかったのは初めてだな。
いつもの仕事部屋の前に立つ。とても久しぶりな気がした。
そうだ、けっこう朝早いけどカーレル様来てるかな。あの若干不気味な手紙の内容を思い出す。朝はいるって言ってたけど、こんなに早くから来ているんだろうか。
とりあえず扉を開けようと取っ手を回す。あっ、回った。
「お久しぶりです。手紙は読みましたか?」
「楽しい休暇でした。ありがとうございます。手紙は読みましたよ」
いつも通りの机に座って、いつも通りにカーレル様は仕事をしていた。ちらっと自分の机を見る。
書類が、貯まっていない。休み明けは書類が貯まるんだよ。少し憂鬱だったのに……
「あの、カーレル様、書類は……」
「手紙を読んだのではないのですか?書類なら君のところに送った分ですよ」
私は慌てて鞄から届いていた書類を取り出した。昨日そのまま寝てしまったから、朝にごはんを食べながら目を通したけど……えっ?これだけ?
私は思わず信じられないものを見る目でカーレル様を見ました。
「それにあなたは今日はまだ休みでしょう。休んでいてけっこうですよ。ハセ区でいろいろあったのは聞いています」
「いろいろ……?」
「君の妹が誘拐されたから自分が囮になってその誘拐犯を叩きのめした上、あえて誘拐されて奴隷市場の場所を突き止めようとし、魔物に襲われ、救助した子供達と……」
へっ?何でそんな詳しく……
「もういいです、カーレル様がいろいろお聞きになったのはわかりました」
どこまで知ってるんだこの人、昨日も思ったけど怖いな、カーレル様。
「私だって今年の君の精霊の舞は楽しみにしてたんだよ。今年は見れないと思っていたのに、こんなことなら私もハセ区に行けばよかった」
あっ、結局王都での精霊の舞ってどうなったんだろう。私がいなかったから代わりに他の精霊使が担当したんだよね……
「今年の精霊の舞は、いかがでしたか?」
恐る恐る訊いてみた。あれ?もしかしてカーレル様怒ってる……?
「普通でしたね。やはり去年君が担当したものが一番です」
「そうですか」
誉められてるんだろうけど、なんだろうこの威圧感は。
「えーと、カーレル様は怒って……」
「いませんよ」
ん?いきなり口調が変わった。さっきまでの威圧感はどこへ行ってしまったんだろう……
そして、書類に書き込みをする手を止めて顔を上げたカーレル様と目が合う。そして笑い始めるカーレル様。何がおかしいんでしょう、いや、どうせさっきのの私の顔でしょう。ぽかんとしてましたから。
「いやー、やっぱりレゲル君だね。予想通りの反応をしてくれる」
……昨日の手紙といい、今の私の反応を楽しんでいるところといい、完全に私で遊んでたな。何で全てお見通しなんだろう。
カーレル様が言ったことに対する私の反応を見て、さらに笑うカーレル様。
ひとしきり笑って満足したのか、カーレル様はまだ顔に笑いを残して書類に戻りました。
「風邪がまだ治りきっていないのでしょう?宿舎に戻って……ああ、隣の仮眠室を使っても構いませんよ」
仮眠もなにもさっき起きてごはんを食べたばかりなんですが……というか風邪のことも知ってるんですね。今さら驚きませんけど。
でも特にすることもなさそう。宿舎、戻って寝ようかな。
「明日は大祭四日目です、戻って休んだ方がいいと思いますよ」
「はい。そうします」
今ならまだ道も混雑しないはず。帰るならとっとと帰ろう。
これ以上いてもまたカーレル様に遊ばれるだけな気がする……って、カーレル様また笑ってるし。予想通りってことですか。
この人を出し抜こうとか思わない方がいいな。喜ばせるだけだな、きっと。
私はさっき入ってきたばかりの扉を開けて部屋を出た。私、何しに来たんだろう。




