殿下のパーティー3
何人かの令嬢と交代で躍り続けて疲れてきたところで、楽団の休憩が入った。
ダンスしてばっかで休めなかった。明日の仕事休みたい。
私は疲れたから近寄るなという雰囲気を醸し出しながら近くのテーブルから料理を取った。
「今日はカーレル様はいらっしゃらないのですか」
そう話しかけてきたのは第1宰相様の補佐官サイルス・アノロサグさんだ。40過ぎたやや髪がさみしいおじさん。元官僚だ。
遠くの方に第1宰相ホーンティス・ヘイガル様が見える。
第1宰相様は主に神殿関係の仕事をしている人で、神官でもあるので神精霊と契約している。
「今日はザンテ区に出張です」
「あの方もお忙しいな。あなたは最近どうです?」
「書類仕事や視察が大変で、まあ慣れてはきました」
「どこも仕事内容はおなじようなものですね。今日1日でどれだけ書類がたまってるんでしょうかね」
確かに私が休みでも働いてるところはあるから書類はたまるんだよな。休み明けが一番つらい。
カーレル様はもっと多い書類を片付けてるけど。ああして働いてるのを見てるときは良い宰相様に見えるのに、普段がちょっとなぁ……
「休日にたまる分もありますからね。明日は大変ですよ」
「まあせっかくの休日ですから、仕事以外の話を……と言ってもあなたとは仕事の話くらいしかできませんね。お互いに共通の趣味があるわけでもないですし」
「休日はあるようでないですから、趣味を作る暇さえありませんし」
一個くらい趣味を持ったほうがいいのかね。でも時間がないから作れてもできないし。
「ははっ、私も同じようなものです。一応趣味はあるんですけど出来ませんから」
そう言ってサイルスさんは第1宰相様のところに行ってしまった。
サイルスさんと話してからも国の精霊使の団体、精霊院の長官や、騎士団の官僚数名、神官数名、その他貴族数名と仕事の話をした。これならパーティーにわざわざ行って話さなくても変わらない気がする。
そんなことを思っているうちに、楽団の人達が休憩を終えて次の曲が始まった。
私は貴族や騎士団のお偉いさん、精霊使などのたくさんの人達に囲まれているので令嬢達がなかなか近寄れないようだ。始めからこうすればよかった。
ふと顔をあげると、少し離れていた殿下と目が合った。このパーティーの主役クレイは婚約者と踊っている。
すると殿下がこちらに向かって歩いてきた。
「レゲル殿、令嬢達と踊らないのか?たくさん見てるようだが」
「いえ、さっきまで踊っていたのでもう十分です」
「まあ無理強いはしないが……ところで、最近の国の様子、あなたはどう思う?」
突然そんなこと言われても……まさか殿下は同じ質問を他の人たちにもして回っているのだろうか。殿下見るたびに違うとこで違う人と話してるし。
「そう考えなくてもいい。正直な感想が聞きたい」
「まあ、私は特に言うことは……大きな戦争も騒動も起きてはいませんし」
「やはりそうか、あなたならそういうことを言うと思った」
「国民が普通に生活していけるような、そんな国であればいいんです」
「それは当然のことだ」
「それが難しいというのはありますが」
殿下は少し考えてから言った。
「やはりあなたとは一度ゆっくり話してみたい。どこか空いている時間はないか?」
えっ?どういう成り行きなんだろうこれ。私が普通の女だったら喜ぶところだろうけど、どうせ仕事関係の話なんだろうな。
にしても空いてる時間か……明日は仕事たまってるからどうせ徹夜、カーレル様も帰ってくる。無理。
明後日は仕事、特別用事はないから夜ならなんとか。でもせっかくの休み時間が……休みがほしい。
「明後日の夜でしょうか。仕事が終わってからになりますが」
私はしぶしぶ答えた。顔には出さないけど。
「その時間なら私も空いている。では仕事が終ってから王宮の執務室に来てくれ。店は私が手配しておく」
どこかのお店で食べるのか。高級料理店とかにはしないでほしい。殿下が奢ってくれるなら別ですけど。
「それにあなたとは精霊使としてもいろいろ聞いてみたいことがある。ではまた」
そう言って殿下は別の貴族数名と話をしに行ってしまった。要件を言うだけ言ってどこかに行くってなんか私が最近使ったばっかりな気がする。
また面倒な用事が増えた。
いろいろあったが、ようやくパーティーが終わった。殿下との話が終ったところでまた令嬢に捕まり、その後はずっとダンスしてた。明日は筋肉痛決定だろう。